表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/13

3話 運命の選択


 ご主人様は特に話を始めることもなく、骨ばった手を机の上に載せ、じっと私を見ている。ご主人様は背が高いので椅子に座っている状態でも立っている私とほぼ同じ目線になっている。私の背は平均より少し小さいけど、そんなに小さいわけではないのに。一対一の状況なので目を逸らすことは出来ず、恐る恐る見返す。暖かいオレンジ色の光に照らされたご主人様の顔には薄っすらと笑みが浮かんでいる。


 端正で短い真っ白な髪と綺麗に沿られた髭。眉毛がかなり少ない。年齢を重ねて抜けてしまったんだろうか。いくつか深いシワが刻まれた顔、少し大きい鼻と思慮深さを感じさせる口元。


 普段と同じく白いシャツの上に赤茶色のベストを着ていて、まだ寝間着に着替える時間ではなかったんだろう。少しばかり痩せている体つきをしているけど、不健康な感じはしない。顔に浮かんだ穏やかな表情、遠いところを見ているような濃い緑色の瞳。しかしその左目は白く濁っている。多分だけど、見えないはず。どこかでそう言う話を読んだ気がする。目が白く濁ると見えなくなるという話を。だからそう言う場合は義眼をするんだけど、ご主人様はそう言うつもりはないみたい。


 そんなことを考えている場合ではないのに、沈黙がずっと続いている。ご主人様は何か迷っていらっしゃるんだろうか。どんな用事で呼ばれたのか、ますます気になる。試験管や錬金術に使う道具がたくさん置かれている机は整頓されてはいるけど、本来はどこかに保管されているはず。それを運ばせるためなんだろうか。力持ちの執事さんに任せればいいのに。


 「アヴェリーナ、だったな。こうしてみるのは初めてこの屋敷に来た以来か。どうだ、仕事にはもう慣れたか?」

 やっと沈黙を破いて、いつものような柔らかい口調でご主人様にそう聞かれる。

 「はい、ご主人様。このような素晴らしい屋敷で住まわせてもらい、仕事も出来ることを光栄に思っております。」

 私の言葉を聞いて軽く頷いてから答えるご主人様。

 「そこまで気を使わなくてもいい。君のような年齢の子供が仕事に追い出されることは、あまり耐えられるものではない。それなりの教育を受けていたなら尚更。人は将来のために学ばされるものだ。それをなかったことにされると未来を壊されるのと当然。それを経験したら、人は他の人を恨むようにもなる。どうだ?君もそのような恨みを抱いていて、その恨みを儂に直接ぶつけてみたいか?」

 何かを言うべきなんだろうか。恨むって、そんな暗い気持ちなんて全く持ってないと言ったらうそになると思うけど、今のところは耐えられる。考えないようにしている。それで大丈夫だと思っている。口が少し渇いた。喉から言葉が引っかかって、言うべきかそうでないかがわからなくて、視線をあっちこっちへと知らずに動かしているとご主人様からの言葉が聞こえる。

 「もちろん、そう言われたからという理由で言う事は出来ないだろう。儂は君に命令できる立場にある。君にとって明確な害になることがなければ何でも。今ここで床を掃除しろと命令すれば君は逆らえないだろう。だが儂が君に考えていることをこの場で言うように命令したら、それにどのような返事をすればわからない。素直に考えていることを言うのを恐れているだけではないだろう。考えを喋るという行為そのものにそれ以上の意味があるからだ。人と人の間で行われる意思疎通には否定されない力関係が入っていたとしても、心がこもるべきで、命令されて言うようなものではない。それを無理やり捻じ曲げようとしたら、君自身が傷つくことになるだろう。儂が言っていることの意味がわかるか?」

 「はい、なんとなく。」

 そんな細かくまるで教師が生徒を指導するかのような説明を自分の屋敷で働いている使用人にするのはいいんだろうか。貴族にとって使用人はもっとこう、距離を置くものだとばかり。そう思い込んでいたのは実は私だけで、他の人は違ったりするのかな。

 「今から君に突拍子の話を君にする。老人の戯れ言として受け取るのも、儂からの特別な言葉として受け取るのも君の自由だ。」

 そう言ってお茶を一口飲んで、話を始めるご主人様。

 「儂の上には年の離れた二人の兄がいた。二人とももう亡くなっている、年齢が年齢だからな。生きていた頃の彼らは、有能で品性のいい人達だったんだ。子供の頃から彼らは色々期待されて、様々なことを学ばされた。最後に生まれた儂は儂は何も期待されずただ好きなことをすればいいと、幸せになればいいと、貴族として必要なこと以外は学ぶこともなかった。それが変わったのは、母方の祖父と会ってからだ。彼はそれなりに有能な魔導士だった。幻獣と彼らの生態にいささか強い執着を持っていて、彼らを研究するために魔法に傾倒し、熟達するようになるくらいの変人。その頃の儂は人が持つ何かへの強い感情がどういうものかなど、まるで思いもつかなかった。彼の周りにいる人間は彼とそれとなく距離を取っていたが、儂はそうする必要はなかった。興味を持つべきこととそうでないことを区別する理由がなかったからだ。儂が彼と多くの時間を一緒に過ごすことになったところで、誰も困らない。グリフォンを知っているか?幻獣の中でも気高く美しい。祖父から何回も話を聞かれた。遠くから見た人が描いた絵を見たこともある。儂は写真が見たかった。祖父に見たいと頼んだら、彼は無謀にも何人かの従者を連れてグリフォンの写真を撮りに行って、帰ってくることはなかった。それが儂が初めて経験した誰かの死だった。この世界が甘やかされて育った子供の想像なんぞより残酷な場所であることを知るきっかけでもあった。」

 そこまで語ったご主人様は喉が渇いたんだろうか、お茶を一口飲み、薄暗い窓の外へと視線を移して、またお茶を一口飲んでから語り続けた。淡々とした口調で、特に感情の変化もなく。

 「誰もが彼の死を何かの冗談のように扱っていた。いつかこうなるとわかっていたかのように言っていた。儂は言っていたんだ、自分の責任だと。自分が祖父をあんなところへと送ったと。その時の儂は六歳だった。怒られることもなく、儂に責任を負わせようとする人間もいなかった。幸い、儂は祖父が死ぬ前に彼から魔法の基礎を学んでいた。彼は立派な魔導士だった。あの写真だ。祖父が自らの命と代えて孫に見せたかったグリフォンの写真。」

 ご主人様はそう言って壁に飾られてある写真の一つを指差した。確かにグリフォンだった。鋭い口ばしと大きな白い羽、黄金色の胴体と優美な曲線を描く尻尾。掃除する時に何回もこの部屋へ来ているので初めて見るわけじゃないけど、そのような物語がその写真にあったなんて。

 「葬式が終わってから、儂は親に頼んである魔導士の弟子になった。毎日昼夜を問わず魔法を勉強して、それなりの造詣(ぞうけい)を身に着けることが出来た。祖父と同様に魅せられたんだ。幻獣ではなく、魔法の方だったがな。儂がどのような経緯で魔導士になったのか、これで伝わっただろう。」

 少し物悲しくも興味を引く話だった。けどなぜただの使用人でしかない私なんかにそんな話をしたんだろう。目線でそれを問いかけていたんだろうか、ご主人様の方から答えを出してくれた。

 「なぜ君にこのような話をしたのか、疑問を持っているようだな。人を判断するには時間が必要だ。儂が直接見て判断したわけではないにせよ、人となりがわかる程度の話は耳にしている。誰かれ構わず信頼するわけにはいかないだろう。君は君の姉のために、この屋敷へと半ば売られるような形で来て働くようになった。君は世界が残酷で、無関心で、冷たいことを身を持って体験している。だからと物や人に当たることもなく、泣き言も言わない。そんな君に儂からの提案だ。」

 ご主人様はそう言って、机の引き出しから何かを取り出した。綺麗な模様がある透明なガラスの小瓶だった。中身は入っている。ご主人様は右手の人差し指で小瓶の蓋を軽く叩いた。中には緑色で薄っすらと光る錬金薬が入っている。錬金薬かな。どんな効果があるんだろう。

 「これを飲めば、君の人生は何かが変わるかもしれない。変わらないこともあるだろう。確実に言えることは、今ここで飲まなかったら、君はこの先これを飲むことはないということだ。」

 一体どんな効果の錬金薬なんだろう。体が丈夫になるとか、そんな錬金薬のことは聞いたことがある。とても値段が高く、庶民からは手が届かないくらいの貴重な素材で作られた錬金薬。私がそれを飲めば、仕事を苦に思えなくなるだろうか。別にそうと決まったわけでもないし、錬金薬の中では人を変質させることもあるという事を本で読んだことがあるので、そう言う類のものならおいそれと飲むわけにはいかない。だから聞いてみないと。

 「あの、その中身が何か、教えてもらうことは…。」

 「毒ではない。飲んでも問題ないものだ。飲んで、感想を聞かせて欲しい。飲みたくないならこのまま部屋に戻るといい。質問があるなら答えてやろう。」

 それ以上のことは私に教える気がないという事。


 使用人を実験台にするつもりなんだろうか。そう言うのは契約書に書かれていなかったはずなんだけど。それとも引退した老人の貴族様はみんなこんな感じなんだろうか。何らかの理由を付けて、使用人に無茶な願いをして、それで楽しむ、とか。ただご主人様がそのような人物とは思えない。使用人の皆が言うようにただ優しいだけの人物ではないことは、なんとなくわかるけど、だからと何の理由もなく人に酷いことをして楽しむような残虐さを持っているとも思えない。


 魔導士が作った錬金薬を飲んだら動物に変わってしまった、なんて物語の中での話だし、副作用があったとしても己の性質が変わるだけというのなら、ただの冒険と何が違うんだろう。私に何か、今更大切で失うわけにはいかないことなんてあるんだろうか。むしろこれは、何かいいことではないんだろうか。ご主人様が私に悪いことをしようとしたら、魔法で拘束すればいいだけのこと。ご主人様にそんなことをされる言われはないし、周りの人間の反応からしてそう言うことが起こりえるとも思えないけど。だからこれは考えすぎ。悪いことが起きる時には予告なんてされない。だから、これはいいことだと思う。


 「これを飲んだら、これを飲む前の自分にはもう戻れなくなるんでしょうか。」

 そう心を決めるための質問をする。この質問に対するご主人様からの返答を聞くことで、私はこれを飲むかそうでないかを選ぶだろう。この質問をすることで、私は自分が置かれた状況を確定できる。例えその状況をコントロールすることが出来なくても、自分が描かれた場面の輪郭を掴められるはず。

 「いい質問だ。もちろん、答えは決まっている。」

 つまり、私はこれを飲むことで変わってしまう。これで覚悟は定まった。しかしまだどのように変わってしまうのかを聞いてない。直接的な答えは聞けない。なら少し方向性を変えてみよう。

 「ご主人様は私がこれを飲むことでどうなると予想していますか?」

 「それもまたいい質問だ。悪いことが起きるかも知れない。そうでないかも知れない。儂も確実なことは言えない。だが、例え悪いことになったとしたら、儂が責任をもって君を元通りにしよう。」

 悪いことが起きる可能性はあるけど、それはご主人様がコントロール出来る範囲内のこと。なら私はこの状況にただ身を任せればいいわけだ。口角が上がりそうになるのを抑えられても、心臓の鼓動が早くなることはどうすることも出来なかった。生唾を飲んで、錬金薬の入った小瓶をじっと見つめる。怪物になってしまっても、楽しい経験になりそう。

 「誰か、私の先にこの錬金薬を飲んだことのある人はいるんでしょうか。」

 「儂自身が飲んだ。君が二人目で、作った錬金薬はそれがすべてだ。まだ何か聞きたいか?」

 これ以上は話すつもりはないと、ご主人様からの催促を肌で感じ取れる。ご主人様が飲んでいるのであれば、私が飲んだところで見た目が変わるわけではないという事なのかな。

 「最後に一つだけ、なぜ私にこの中身が何なのかを教えてくれないんですか?」

 「君がそれを飲まないことを選ぶなら、正解を教えてしまうのは危険だからだ。」

 中身が何なのかを知るのが危険?想像できない。自分で飲んで確かめるしかないと。

 「わかりました。では、飲んでみようと思います。」


 私がご主人様の机まで近づこうとすると、ご主人様は魔法で小瓶を虚空に浮かばせて私の前で停止させた。それを手に取り、蓋を開ける。煎じた薬草の匂いと、爽やかな草原の匂いが混ざって不思議なハーモニーを奏でていた。口に近づけて、ゆっくりと飲み干す。全部飲んでもいいのかな。ご主人様のところをちらっと見ても、何も言わずに私が飲んでいることを見ているだけ。じゃあ全部飲んじゃおう。


 少し苦くて、ぼんやりとした温かさがあって。後味は残らないのに喉を通る感触だけが鮮明に残る。全部飲んでから空っぽになった小瓶に蓋をして、机の上に戻す。すぐに効果があらわれるわけではないようで、特に何か変わったという自覚はない。


 「全部飲みました。まだ何か変わったような感じはしませんけど。これで、中身が何なのか聞かせてもらえるんでしょうか。」

 するとご主人様は頷いてから話した。この錬金薬に関する途轍もない事実を。

 「錬金薬が持つ固有の魔力は、人にもよるが効果が強力であればあるほど浸透するまで少し時間がかかる。そう長く待たずとも大丈夫だ。もう飲んだことだ。それまで話をしてやろう。それがどのような錬金薬なのかを。先ずその錬金薬はどこかで手に入れられるものではない。儂が偶然にも作ってしまったものだ。過去の出来事を思い出させるためにな。だが、既存の思い出しの錬金薬とは効果の桁が違う。言ってしまえば魂の奥底にまで刻まれていた記憶さえも引っ張りだし、思い出させることが出来る。自分が生まれる前のことさえも。」

 思い出しの錬金薬、聞いたことがある。健忘症が酷い人が治癒術師に書房されるものだって。ご主人様は前世の記憶まで思い出せるように強力な錬金薬を作ってて、それを私に飲ませた。なぜ私なんだろう、なんて質問はしなくてもわかる。ご主人様は私を哀れに思って、この錬金薬を恵んでくれた。

 「生まれる前を思い出してしまったら、確かに今までの自分ではなくなってしまいますね。」

 「そうだ。記憶は人を形作るものだ。長い年月を遡り、遠い昔の出来事を鮮明に思い出すということは、自分の形を根本から変えるという事でもある。儂もその錬金薬を飲んで思い出した。確かに変わった。だがそこまで劇的な変化ではない。儂自身が年を取りすぎてしまったことも原因の一つだろう。そしてこの薬には明らかに副作用としか思えない可能性を秘めている。苦痛にまみれた人生を思い出すかも知れないこと、人間でなく動物だった場合のこと。そして。」

 そこまで言ったご主人様はティーカップに残ったお茶を全部飲んで続けた。

 「憎しみに溢れ、残酷なことを仕出かした人生だった場合だ。その場合、儂は君の記憶を消すことになるだろう。そのための錬金薬も用意してある。」

 記憶を消す錬金薬なんてものもあるんだ。でもせっかく思い出した前世の記憶を消されるのってちょっと嫌かも。誤魔化せないんだろうか。

 「心配せずとも、儂はここにいる。」

 とても頼もしい言葉に聞こえた。何があってもご主人様は何とかしてくれる、そう思えてきたから。

 「はい。」

 安心して浮かんでくる笑みを隠す必要もなかった。

 「他に聞きたいことはあるか?」

 「えっと、そんな珍妙な効果を持つ錬金薬の話なんて、聞いたこともありません。とても価値の高いものだと推察します。そんなものをなぜ一使用人である私ごときに?」

 私の質問に対し、ご主人様は淡々と答える。

 「この屋敷で君を働かせる前に、儂は君の親から何通も手紙を貰っていた。だから君にどんな事情があるかは知っている。しかし直接会って話さなかったせいで、君を直接この目で見る前までは幾分か確信が出来なかったがな。儂の目で見て、聞いた話から、手紙で書かれた話が本当だとわかった。君は誰かのために自分を犠牲にしている。そう言う精神性は、自分の意志でしか発現しないものだ。誰かにそう言われたから、家族の中での力関係が決められていて、自分が一番弱かったから、などという単純な理由でここに来たとしたら、君はもっと違う態度を取っていたんだろう。君が通っていた学校や住んでいた環境はおおよそ想像がつく。まるで人生の転落のように思えてならないだろうに、絶望や悲しみと言った負の感情は宿らなかった。それはなぜか、君は自分で選んでここにいるからだ。自分の姉を助けるために。謙遜する必要も隠す必要もない。人の思惑は、その人に刻まれた式のようなものだ。君の式は儂が読み解いた。そしてそれは価値のあるものだと儂は思った。善意を持って誰かのために自分を犠牲にするのに年齢は必要ない。儂は今まで数え切れない人間を見てきた。老いて死ぬまで自分のためだけに生きる人間は少なくない。儂はそんな人間を軽蔑し、彼らと距離を取るようにしてきた。世の中は人に分け前をくれるように出来ている。分け前を貰うべき人間がそれをもらえず、貰ってはいけない人間がそれを貰う。不公平なことだ。不公平な世界を生きるより、公平な世界を生きた方がいい。少なくとも儂の目の届く範囲でなら、分け前を与えたところで大した痛手じゃないなら、そうすることもやぶさかでない。これで納得が行ったか?」

 「はい。本当に、ありがとうございます。」

 聞かれたからとその全部をわかりやすく説明してくれたのも、私にその分け前というのを与えてくれたのも、感謝の気持ちしかなくて、そう言ってしまう。


 そしてご主人様がなぜただ優しいだけの人物ではないというのか、話を聞いて分かった。彼は誰にでも優しわけではない。私が仮に、彼が言ったように、家の中で一番弱い人間で、言われたからここに来ただけだったとしたら、私に貴重な錬金薬を与えることもしなかっただろう。ご主人様には明確な判断基準がある。たくさん考えた末にたどり着いた、彼なりの倫理観。そしてその倫理観は、とても美しく価値のあるものに見えた。だからこの屋敷の使用人たちはご主人様を敬い慕う。


 私もこれで、皆と少しは近づいたんだろうか。


 それにしてもまだ錬金薬の効果は出ない。いつまで待っていればいいんだろう。


 そう思った瞬間だった。頭に血が集まって、視界が歪む。このままでは倒れてしまう、と思っていたら空中に浮く感覚からいつまで床にぶつかる衝撃は感じない。遠くへと意識が消えてゆく。もしかして死んじゃうのかな。別にそれでもいいかも。私は特に何かを成すために生まれたわけじゃない。私が死んだところで、誰かに深く悲しまれることも…、ないかも知れないけど。


 視界が閉ざされる前に浮かんで見えたのは、見たことのない、硬くも冷たく、暗くて遠い、見たことのない壮大な景色だった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ