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ひねくれゴーレム運転士  作者: 零たろ
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5話 水明

 水音のする方へ少し歩くと、紅葉した白樺の群生地に出た。そこには、目当ての川が一本、細く穏やかに流れていた。


 美しい。ほの暖かい昼の木漏れ日の下で、私は立ち止まって大きく息を吸った。空気が澄んでいる。


「水を汲むんじゃないんですか?」


 自然の趣を感じていたところに言われたのが癇に障る。急かさなくたっていいではないか。


「少し休もう。休憩だ」と、それらしい理由をつけ、近くの倒木に腰を下ろした。青年は、わかりました、と頷き私の隣に座った。


「朝と違って、少し暖かいですね。その服、暑くないんですか」


 言われてみれば、毛糸の上着は少し暑い。これから北上していけばこれでも寒いだろうが、今は脱いでおこう。私は黄土色の上着を脱ぎ、それを青年との間に置いた。


 一枚脱いで気づいた。少し汗をかいている。そしてふと、ひとつ思った。


「お前、ここで待っていろ」


「え? は、はい」と青年が戸惑いながら返す。「僕は、何をしていれば」


「しばらく見張りをしてもらう」


「水を汲むのに、見張りが要るんですか?」と、青年が素朴な疑問を投げかける。


「沐浴がしたくなった」と伝える。「覗きに来るなよ」


「べっ別に、覗きなんて、しませんよ」と、わかりやすく顔を赤らめる青年。


「しっかり見張ってろ。いつ魔物が襲ってきても、おかしくないからな」


「魔物? まだ昼ですよ?」


 余計な一言を付け加えなければよかった。だが、私はすぐに「だからこそ、油断してはいけない」と取り繕った。


「しばらくしたら戻る。その間に、スライムにやられました、なんてことがないようにな」


 またしても余計なことを言った私に、「は、はい! 気をつけます」と青年は姿勢を正した。どうやら冗談が通じないようだ。


 川のほとりまで行き、青年に見られないように、岩陰に隠れる。


 ゆらゆらと歪む水底を見つめる。せいぜい腰ほどか。浸かるには丁度いい深さの川だ。


 北へ進んでいけば、川に浸かる機会はなくなってしまう。だからこそ、ここでしっかりと身体を洗っておかねば。


 ニットを脱ぎ、下着を外そうとした私は、再びニットを着て、鞄から水筒を取り出した。首都で買った、金属製の高級品だ。


 身体を浸けるのだから、先に飲み水を汲んでおこう。水筒の蓋を開け、水に入れた。


 水が冷たいが、それが心地よい。水が手を包み込むような感覚だ。


 突然、水筒が重くなる。まるで水底に引っ張られているようだ。


「⁉︎」


 いや、本当に引っ張られている。そう感じ、すかさずもう片方の手を水に突っ込み、両手でがっしりと水筒を掴む。しかし、目に見えない何かが、私の両手ごと水中に引き摺り込もうと、より強く引っ張る。


 スライムだ。油断していた。最悪のタイミングだ。池や沼に生息しているのは知っていたが、まさか川にも棲んでいるとは。


「ん、んにいいぃぃ!」


 踏ん張っていた足が、つるんと滑って、天地がひっくり返る。私は服を着たまま、ドボンと川に落ちた。

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