葵12歳 椿月
父に珍しく呼び出されたかと思ったら信じられないことを告げられた。
「どういうことですか!?私は真路に通うのではないのですか?なぜ最上に……」
「女のくせに真路に通うなど贅沢をしないで最上に通えばいい。その代わり跡継ぎとなる和馬が真路に通わせるつもりだ」
「待ってください。和馬は真路に通えるのですか?成績優秀者でなければ最上から真路に変われないと聞いたことがあります」
父はビクッとなった後急に怒り始めた。
「うるさい!そんなこと金さえあればどうにでもなるんだ。実際優秀か分からない王家や武家が通っているじゃないか!」
もちろん王家も武家も通っているが、真路で下位にいる者でも最上に行けば上位に入るぐらいは勉強もできる。
和馬は最上でも真ん中ぐらいでしかないのでとても通えないと思う。
それを父に言ったところで聞き入れてもらえなさそうだ。
「私の学費については東条家から出ているはずです。和馬に回せるはずがありません」
「東条家に最上から連絡が言ったみたいだが、真路に通えるようになったとは聞かない。
お前東条家に見捨てられたんじゃないのか?やっぱり跡継ぎは大切だからな。女になど金を掛けられないんだろう」
「そんな……」
「葵様東条家からの入金は変わっていません。学費は直接学院に支払っているはずですから、例え葵様が最上に通ったところで和馬には回せません」
「どういうことだ!学費は織江に支払われているんじゃないのか!?」
「最初の頃は支払われていましたが、織江様の体調が悪くなることも増えたので直接払ってくださるようになったんです」
「そんなバカな。和馬は真路へ通えないのか?」
父は座り込んでしまうが、そもそも成績が足りないのでは真路で断られたに違いない。
勝手に思い込んでいた父は置いておいて、なぜ変更してくれないのか分からない。
「通えるわけありません。成績がそもそも足りないではないですか」
「千佳ならなぜ彰吾さんは変更してくださらないの?」
「それは……聞いてまいります」
千佳にも分からないのか黙ってしまう。ここで言い合っても仕方ないので千佳に急いで聞きに行ってもらう。
どうしてなのか気になって勉強が手につかないが、それでも真路にまだ通えるかもしれないなら勉強をし続けなければいけない。成績を落として貴祥様の傍に立てない。
なかなか帰ってこない千佳にやきもきしながら、茉理を手伝って夕食の用意をする。
茉理一人でもできるけど、勉強が手につかないから手伝うことで気を紛らわせる。料理は切ったりはできるけど、味付けには自信がない。切ったり片付けたりしながら千佳を待つ。
結局千佳はほぼ夕食の準備が出来たころ戻って来た。
遅くなるので話は夕食を取りながら聞くことになった。
千佳は言いにくそうにしながら教えてくれた。
「彰吾様が捕まらず秘書の菅野さんに聞いてきました。藤波が東条家からの使者として正式に最上に通わせる手続きをしてしまったので、東条家としても変更が出来なかったそうです」
「そんな……では最上に通わなくてはいけないの……」
「はい。でも葵様きちんと成績さえ保てれば高等部では必ず真路に戻すので勉強を頑張るように言われました」
くじけそうになる気持ちが少しだけ保てた。
「成績さえ大丈夫なら真路に戻れるの?最上は中等部だけでいいの?……でも最上に通うようになれば貴祥様の許嫁ではいられないわよね……」
「申し訳ありません。そこまで確認が出来ませんでした。東条家では許嫁ではなくなるとは聞きませんでしたが、貴祥様に聞いてきましょうか?」
それは私に言わないだけで実質話が無くなってしまっているのではないだろうか。
もう許嫁ではないのなら、綾様達とのお茶会にも招待されないかもしれない。
貴祥様に聞いてきて欲しいけど、そうだと言われてしまえば私はどう頑張ればいいのか分からない。
許嫁でないのならもう頑張らず最上でほどほどの家に嫁げばいいのではないのだろうか。
今までの努力が無駄になってしまった気がしてやる気が出ないのに、なぜか机に向かい勉強してしまう。
面白くなってきたリル語も中等部で習うだろう勉強もやらずにはいられない。ほんのわずかな可能性に賭けて、それにしがみつくように勉強をする。
そんな私を心配する千佳が止めるようになった頃、綾様からいつものようにお茶会の招待状が東条家から届いた。
「千佳どういうことかしら?……これはお別れを言うために呼ばれたのかしら」
「葵様これは変わらず許嫁で、普通にご招待を受けたのだと思います」
「そんなはずはないわ。だって最上に通うような女を貴祥様の許嫁になど許さないと思います。
貴祥様もがっかりされているはずだわ。それなのになぜ……。お別れを言うためならそっとしておいてくれた方がいいのに」
直接貴祥様から許嫁では無くなったと、もう会えないと言われるぐらいなら会わずにそっとしておいて欲しい。
「葵様聞いていないことで不安になられてはいけません。もし許嫁で無くなったとしても確認してから悲しんでください。
聞く前から逃げ出してはいけません。私はこうしてご招待を受けたということはまだ許嫁なのだと思います」
「千佳もし許嫁で無くなっていたら慰めてね。……ごめんなさい。千佳は北条家から来たのでした。
許嫁でないなら千佳もいなくなってしまうのね。せめてお別れだけは言わせてください」
ずっといたので忘れていた。千佳は北条家から来ている。それなら許嫁でないのなら千佳をここに居させる必要はない。
それならまだ許嫁?それともお別れを言うまでは居てくれているの?千佳が言う通りだ。不安でなにも手が付かないよりも、駄目なら落ち込むだけ落ち込んでそれから考えよう。
「千佳はずっと葵様の傍に居ります。もし違えば慰めますので安心して行ってきてください」
千佳が言ってくれたずっと傍に居ると言う言葉を信じてお茶会に行く決心をした。
ずっと怖くて、1人でいたら震えてしまう。父のことだからお金を沢山くれるような家に、私を売るように嫁に行かせるに違いない。
そんな家ならこき使われ、暴力を振るわれるような酷いことをされるだろう。
綾達と仲良くさせて頂いたこと貴祥様に大切にして頂いたことだけを胸に生きていけるだろうか。
不安でしょうがないのに何もできず、眠ることもままならない日々が続き、とうとうお茶会当日がやって来てしまった。




