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恋とか愛とか結婚とか  作者: 更西東花
第一章
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貴祥16歳 杷月

 奏人に招待状を出し北条家に呼ぶ。


 京一と違って分家の奏人は馬車で乗り付けてきた。


「今日は北条家に呼んで頂きありがとうございます」


 奏人は応接室に通して紅茶を出させておいたが、緊張しているようだがしっかりと腰を下ろし紅茶に手を付けていた。


 最近京一を呼び出したばかりなのでその差がはっきりと見える。


 どちらが良いとかいうわけではないが、控えめな所が綾が好んだのだろうなとは感じた。


「わざわざ来てもらって悪い。まだ先の話になるが奏人が僕の秘書となるつもりがあるか?」


 奏人は深々と頭を下げた。


「貴祥様の秘書となれるのは光栄なことです」


「秘書となれば綾の対の可能性はないぞ。それにまだ確定ではなく、正式には奏人が高等部になる時に決定させてもらう。それまでは僕の手伝いをして欲しい」


「綾様の対は樫木さんでしょうか」


「まだ分からない。可能性が今の所高いだけだ。奏人が知っているぐらいなら噂になっているのか?」


 仕向けたのは自分だが、どこまで広がっているかは知っておきたい。


「高等部までは知りませんが、中等部では有名な話です。


生徒会長は内緒にしておきたかったようですが、綾様が学生食堂で京一と呼び捨てにしてからあっという間に広がりました。


その時傍に居た女生徒が聞き出したようです。自宅で家庭教師をしているのなら対なのではと。


綾様は否定されたようですが、まだお年頃ではないせいだろうと信じてもらえなかったようです」


「思ったより広がるのが早いなぁ」


「綾様のことは皆狙っていますから。綾様の美しさも北条家の家柄も、男性に取って魅力的に映りますので。


ちなみに貴祥様のお相手も女性は皆狙っていますよ」


 奏人が俺に軽口を叩けるのも、分家として多少なりとも交流があったからだろう。


 分家でも三条までは割と、四条や五条は南条家筋なのでほどほどにしか会えない。


六条や七条は稀に、八条・九条はほぼ付き合いがない。というか九条に至っては一方的に文句しか言ったことが無い。


「俺の対はすでにいるから無駄な努力だな。奏人それでよかったのか?」


「はい。綾様の対となれば誉ですが、貴祥様とご一緒の際顔を合わせたことがありますが、あれほど親しそうに呼ばれたことはありませんので対では無いと思います。


貴祥様の秘書となれるよう努力したいと思います。貴祥様の対のことは晄様が流されただろう橘さんとのことと共に噂を聞いています。


それでももしかしたらと希望を捨てられないようです」


 晄が噂を流したいと言った時はいい案だと思ったが、馨があまりにも美しく女性を感じるので噂がちっとも消えず、逆に広がってしまっている気がする。


そのせいで対が同性なら北条家の妻となれるのではと寄ってくるものが多すぎて困る。晄に対が高等部になれば婚約されると広げてもらっているがあまり効果がない気がする。


「良かったら奏人からも時期が来たら婚約するとそれとなく広げておいてくれ。まったく、馨はなんであんなにも女性っぽいんだ」


「くくっ。それはしょうがありません。僕も今でも橘さんの色香にくらくらしますから」


 馨のことを思い出したのだろう。ほんのりと顔を赤らめる。


 馨は学院では眼鏡をして無表情で冷たい印象で男性だが、ふとした仕草に女性らしさを感じ、それが見てはいけないものを見たようでこちらを戸惑わせる。


そして賑やかで相手を見つけるため強引な様子を見せ始めた女性たちと比べ、物静かで控えめな様子は男たちの庇護欲を掻き立てる。


 馨の周りには美しい物好きの女性たちや、庇護欲を掻き立てられた男性たちが集まり、それはまるで夜の灯のようだ。


 男なのにこっそりと雪華姫(せっかひめ)と呼ばれていることは馨には絶対に言えない。


「馨にそんなこと言うんじゃないぞ」


「言うわけありません。橘さんが真路に通い始めたころ、近づきたくて照れ隠しで女じゃないのかとからかった者がいまだに相手にしてもらえないのは有名な話ですよ。


今でも後悔していますから彼」


 言ったのは先日京一よりも自分が向いていると言った中等部の生徒会長だ。


 生徒会を手伝い、のちには生徒会長をしてもらいたいと声を掛けたはずなのに、馨にすっかり嫌われてしまい生徒会長自身だけでなく、俺がいる高等部の生徒会室には出入りしているのに中等部の生徒会室には近づきもしない。


 そのせいで生徒会内部の人間にも良く思われず、生徒会発足早々にすっかり求心力を失ってしまい、運営が上手くいっていない。


「奏人は声が掛かって生徒会に出入りしているのか?」


 生徒会長のことなどよく知っているようなので、もう声が掛けられているのかもしれない。


 そうなれば俺の手伝いが制限されるので見極めに時間が掛かってしまう。


「声は掛けて頂きましたが、晄様からもしかしたらと言われていましたし、まだ入ったばかりですから返事は保留にしています」


「ならば生徒会に入らず両方の手伝いをしてくれ。年内は中等部だけでいい」


「分かりました。貴祥様にそうするよう言われていると返事をします」


 中等部の手伝いをしながら仕事を覚え、俺の雑務をしながら俺のやり方を覚えてもらう。


「何か質問は?」


「では仕事のことはし始めてからお聞きしたいと思いますが、晄様の対のことをお聞きしても構いませんか?」


「聞いてどうする?親に教えて手柄とするのか?」


「とんでもない。教えたら兄の手柄にされてしまいます。そんな愚かなことはしません。


貴祥様の秘書となれるのでしたら、晄様は一緒に仕事をしていく方となります。人柄は多少知っていますが、もうすぐ成人ですが対のことは聞こえてこないので知っておきたいと。


自分の対の対象から外しますし、もし北条家に来られた時に対応が違いますから。あっ、貴祥様の対は綾様のご友人だと思っていますがあっていますか?」


「俺の対は北条家に出入りできるようになれば自然と分かる。晄の対は両親ですら知らない。奏人が出入りするような頃にははっきりしているかもしれない」


「では可能性がある方がすでに傍にいらっしゃるのですね。西条様はいまだに現れないようで、分家の方にもよく顔を出されています。分家では大変心配しております」


 信玄は学院では対が見つからず少し焦りを覚えているようだ。


 玲が居ることや俺に対が早く見つかったことなどが余計に信玄さんを追い詰めているのだろう。


「対は自分で見つけるしかない。奏人も人のことばかり気にしていないで自分の対を気にしないといけない」


「分かっています。高等部になれば婚約される方も多いので、できれば高等部の間に婚約できるよう交流をするつもりです」


「自分が高等部でも相手が幼ければ婚約できなし、家やその他の事情で婚約をしない場合もある。婚約することを考えず対を見つけることを大切にしないと間違えるぞ」


 本家ではいないが、分家でも婚約を焦り見誤り、婚約してから本当の対と出会ってしまい婚約破棄を申し出るが、揉めてしまうことが稀にあるのだ。


「心しておきます」


 納得していないようだが、言い返すほどでもない様子で答える。


「最後に秘書と正式に認められましたら神子様と会わせて頂けますか?」


「その時がくれば、会える日もあるかもな。こればかりは最終決定は俺にない」


 頼めば多少聞いてもらえるだろうが、会えるかどうかは馨の許可を得たうえで、玲に聞き合うと言わなければ会えない。


「分かりました。会える日が来ることを祈って精進いたします」


「あぁ、そうしてくれ。これから北条家を訪れる日も来ると思うが、こちらの執務棟以外は立ち入り禁止だ。


立ち入らせないように警備には言っておくが、本宅及び居住棟に入ればたとえ秘書をしていてもその瞬間から止めてもらう」


 そんなことを言われるとは思っても見なかったのだろう。顔が青ざめ落ち着かない様子を見せる。


「……その瞬間からですか?」


「あぁ、その瞬間からだ。そして二度と北条家に来られないと思ってくれ」


 久我は割とあちこちに立ち入っているが、本宅にも居住棟の玄関付近までしか入らない。


 一度だけ綾の客間に本を届けに来た時は、父からの頼みであり高城が一緒に付いてきていたので立ち入れただけだ。


「決して忘れません」


 今まで分家の次男としてある程度気ままに生きてきただけに、これほど厳しいことを言われたことが無かったのだろう。


 奏人は動揺を隠すため紅茶を持ち上げるが、カタカタと音を立ててしまい余計に知らしめてしまう。


「奏人聞きたいことが無いのなら今日はここまでだ。中等部の間はここにくるような仕事は頼まないだろう。学院でまた会おう」


 ガチャンと茶器を落とすように置き、急ぎ立ち上がり「はい、本日はありがとうございました」と頭を下げ部屋を出て行く。


 崎守が後を追いかけるように玄関についていくのを確認して、椅子に深く座りなおす。


 冷えてしまった珈琲を飲みながら、奏人を秘書とするのは動揺を隠せるようにならないと無理だと思った。


手伝いの条件を聞きもしなかったところは五条として不自由な生活を送っているせいだろう。仕事始めに聞かなければ、厳しめに指導する必要もあるとも。


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