貴祥16歳 桔月-1
晄と勉強するときは自室ではなく執務室で勉強している。仕事を少しずつ晄と覚えているのもあって、ここでする方が都合がいい。
晄と勉強をしていたので執務室にいると、崎守が樫木京一と言う学生が届けものを持って来たと呼びに来た。
樫木は誰だろうと首をかしげていると、晄が「中等部の生徒会にいる樫木でしょう。今日交流会で少しですが会いましたよ」と教えてくれる。
そう言われて思い出した。2年だが会計として生徒会にいたやつだ。
「俺に届けもの……なんだろう」
「交流会で何か忘れて帰ったのではないのですか?」
晄にも届けものが分からなかったようだ。
「届けものをしてもらったのに物だけ貰って帰すのは悪いから受け取りに行くか」
勉強の途中だがすぐに終わるだろうと、玄関傍にある控室に向かう。
「貴祥様居住棟の方です」
崎守が執務棟の玄関に向かう俺を止める。
「居住棟の方なのか?」
普通なら執務棟の方で待っているはずだ。
俺が不機嫌な顔をしたのだろう。崎守は急いで理由を述べる。
「申し訳ありません。警備が学生が届けものを持って来たので居住棟の方を案内してしまったようです」
警備は学生なら仕事関係ではないので居住棟の方に案内したようだ。
綾は葵ぐらいしかやって来ないし、俺も招待以外で尋ねてくる学生は少ないし、来ても先に知らせが来るので、急に来た学生に警備は困ったと思う。
居住棟に行くと部屋の前にはなぜか唯が立っていて、ドアが半開きになっていた。
唯が俺に気が付き急いでこちらにやってくる。替わりに崎守がドアの傍に向かう。
「唯どうしたこんなところで」
唯は小声で俺に話しかける。
「綾様が2階から降りていくと、彼が崎守に貴祥様に届けものをしに来たと話していたんです。それで彼に綾様が話しかけられて。
すぐに終わると思ったのですが長くなりそうでしたので、立ち話はよくありませんので控室に座って頂いたんです。
中で待つよりも貴祥様に先にお伝えしたほうが良いと思いましてお待ちいたしておりました」
崎守は綾が声を掛けたのを知ってはいたが、まだ話しているとは思わず、俺に報告しなかったのだろう。
唯が部屋の外で立っているのを見てまだ話していることに気が付き、唯と入れ替わったのだろう。
開いているドアから中の様子を窺うと綾が楽しそうに話し込んでいた。
「樫木さんは優秀なのですね。私特進でも下から数えたほうが早いので恥ずかしいです」
「特進は先で院に行くような成績を収める人が入れるので、特進にいるだけで十分優秀ですよ」
2人は円卓のせいか机の正面に座っているよりも近い距離で話し込んでいた。
綾が優しい雰囲気だとしても、男にここまで話し込んでいるのは珍しい。
女性でも表面的には仲良くしているが、今の所葵以外仲がいい女性を聞かない。
「そんなことありません。本家としては最低限の成績ですし、来年には葵が中等部になりますからきっと比べられてしまうわ」
「家庭教師でも付けてもらってはどうでしょう?」
「では樫木さんが教えてくださればいいと思います」
「僕がですか?とても北条様が許してくださるとは思えません」
舞姫ならば特進にいれば十分な成績を収めていると言えるが、綾がその気があるなら家庭教師を考えよう。
ただし、樫木が家庭教師をするかどうかは、成績は特進にいて生徒会にいるなら十分な成績なのだろうが、身辺調査をしてから出ないといいとは言えない。
わざとノックをして来たことを知らせる。
「樫木が教えるかどうかは置いといて、綾の家庭教師については考えるべきだな」
「お兄様!」
「北条様」
綾は驚いた顔をしてこちらを見て、樫木は飛び上がるように立ち上がり綾から離れる。
「綾が勉強する気になっているのなら家庭教師は考えよう。樫木届けものとは?」
僕はわざと冷たく言い手を出す。
「あっ、こちらです。高等部の生徒会の方が今日渡したほうがいいが予定があって届けられないと言っていたので持ってきました」
樫木が渡した書類は昨日までにまとめるように言っていた物で、昨日できなかったものを今日も怒られるのが嫌で渡せず、優しそうな樫木をいいように利用して届けさせたようだ。
「樫木届けてもらってありがとう。でも、高等部の生徒会にいる者なら従者なり仕えている者がいるだろうから樫木が届ける必要はないぞ。今度頼まれれば断るように」
「申し訳ありません。私にはお断りすることはとても難しいです」
確か樫木は末家だったはずなので、高等部の人間に言われて断るのは難しいだろう。
「分かった僕の方から本人以外からの受取はしないと言っておこう。樫木ありがとう。帰りが遅くなってしまうのでもう帰りなさい」
「とんでもないです。北条様のお役に立てたのならよかったです。綾様今日はお話出来て嬉しかったです」
僕に頭を下げた後綾にも頭を下げる。
「私も楽しかったですわ。またお話しできる機会があればよいですね」
綾がここまで言うのは珍しい。驚きが顔に出ないように気を付ける。
放っておいたら再度話し始めそうなので割って入る。
「樫木遅くなった乗合場まで誰かに送って行かそう」
樫木は俺が居たことを思い出したように俺を見た。
「いえ、大丈夫です」
「心配なので誰かつける。崎守」
崎守は黙って頭を下げ、傍に居た家僕の一人に声を掛ける。
「樫木様彼が送っていきます」
「申し訳ありません」
樫木は申し訳なさそうに家僕に付いて帰路についた。
「綾も何か用事があって1階に降りてきたのだろう」
「そうでした。夏のお稽古着を唯が出してくれたので寸が大丈夫か合わせてみるのでした」
綾はまだ成長期なので季節の変わり目には寸法が大丈夫か確認する必要があるのだろう。
「では早く合わせてきた方がいいな。話し込んで遅くなっている」
「そうですね。唯行きましょう」
「はい」
綾が唯と和室に移動したので、俺も執務室に戻る。
「随分時間が掛かりましたね」
ただ受け取るだけにしては時間が掛かったので、部屋に入った途端晄に聞かれた。
「綾が樫木と楽しそうに話していたんだ」
「綾様がですか?」
晄も驚く。
「驚くだろう。その上家庭教師を頼みたいだのまた会って話したいとか言い出して」
「それは珍しいですね。……もしかして玲が言っていた対でしょうか?」
晄も綾の対のことは玲から聞いていたのだろう。自然に会わなければ駄目だと言っていたが、樫木かどうかはまだ分からない。
「玲は綾の対に関してははっきり言えないと言っていたので確かめられないのが辛いな」
「僕から玲に聞いてみましょうか?綾様の耳に入らなければよいだけでしょうから」
「頼む。教えてもらえれば対応が違ってくるから。あと樫木のことをすべて調べて欲しい。問題ないなら綾がやる気になっているうちに彼を家庭教師にしたい」
「綾様は舞に夢中になって成績を落としやすいですからね。
特進から落ちるようでは困りますので家庭教師は付けたほうがいいでしょう。樫木の成績は1番は難しいですがいつも上位につけていますので成績では問題ありません。
彼は末家の末席、それも下の方です。交流会で見かけましたが礼儀作法が不足しています。
彼自身は温厚で周りから頼りにされているので綾様の対でも問題はありません。家族のことは不足していますのですぐに調べます」
交流会もあったので中等部の生徒会の人間のことも調べてあったのだと思うが、すぐにこれだけ情報を伝えられると焦りを覚える。
父から晄に頼らず情報を得ておくように言われていたのに、中等部の生徒会の人間はそこまで気にしていなかった。
晄が不足しているというぐらいだから、多少は調べていて問題ないと判断したが、対となるなら足りないだけだろう。
綾の対であれば北条家当主の伯、次に舞姫の大副に次ぐ小副となる。家族とはきちんと線引きして出来ないことは何もないと誓ってもらわなければいけない。
「頼んだ。家庭教師にするなら早めが良いで急ぎ知らせて欲しい。俺は父上にこのことを話して、彼が問題ないのなら家庭教師にしていい許可を得ておく」
「畏まりました」
晄はすぐに部屋を出て行き、俺も父の執務室へと向かう。
父にはすぐに許可を得られ、家庭教師の給料まで教えてもらえた。
翌日には晄から家族を含めての追加情報を貰い、樫木を綾の家庭教師とすることに決まった。
読んで頂きありがとうございます。
後々あまり出てこないですが神殿内の役職です。
伯 北条家当主
大副 舞姫
小副 舞姫対
大裕 上社神殿長
少祐 下社神殿長
大史 上社副神殿長
少史 下社副神殿長
卜部 伴部と続くが基本神官と呼ばれる。




