馨13歳 杷月
部屋に来た時から楽しそうにしているなと思ったが、理由はすぐに金森さんが話した。
「聞きましたよ。玲様に買い物の仕方を教えたとか。それに値段を聞くのは自分にとってその金額を支払うだけの価値があるかどうかを知りたいとは。
やはり玲様には馨様に教えて頂きましょう。南条家の方も買い物をするとき聞かれるようになったそうです。流石に細かくは聞きませんが、迷う品は金額を聞いて決めるようになられたようです。
安いとか妥当だと思えば買い、高いと感じれば止めるようになられました。おかげで無駄遣いが減って来たので経理部としては助かります。
予算内だからと買っていた悩む物の大半が結局使用しないままだったそうなので収納もすっきりしたと喜んでおります。嵯峨野さん以外は」
「嵯峨野さんは売れなければ辛いでしょうね。でもきっと気に入って頂けるものをと持ってくるでしょうから、そう変わらないと思いますけど」
「そんなことはありません。そうして意識することで無駄遣いが減るのです。馨様は教えられるほどなので無駄遣いをしないと思いますが、大金が入りましたからねよく考えてください」
「橘の家を沢渡さんが買えることになったんですか?」
「ふふ、沢渡は予算を超えて買えませんでした。隠し部屋が無ければ買えたんですけどねぇ、残念でしたね。沢渡は貯金が得意ではなかったようで、あの家は馨様が会った黒衛の男性が買いました」
「結局名前を教えてもらえなかった男性ですか?彼が買ったんですか……。金森さんなら知っていますよね、何という方なんですか?」
「彼が教えなかったのなら私からは言えません。そもそも沢渡には難しいと思っていたんですがどうしても見たいと言ってついて行っただけですから。彼が先日私が借りたいと言っていた人物ですよ」
「そうだったんですか。てっきり沢渡さんが買うのかと思っていました」
「彼は黒衛ですから本当なら顔を会わせたくなかったと思いますよ。でも彼がいてくれて助かりました。馨様が帰宅してから警備の者が使い物にならなくて困りましたし、馨様のこともすぐに対応できましたから。訓練の方は進んでいるようですね」
「はい、すぐに紹介して頂いて受けています。難しいですが今までも自己流ですがしていたのでまだついていけています」
玲のためにしていたことが良かったのかなんとかついていけている。自己流なのが良くなかったところもありまだ修正できる範囲だが、今はそれに手間取っている。
「ご自身のためにも頑張ってください。そうそう警備の方には近づかないでください。また警備が使い物にならなくなります。いま訓練をし直しているそうですから。
家の方は契約書もきちんと交わし手続きもきちんと終わっていますので、入金の方確認してください」
そこには僕が思っているよりも多い金額が記帳されていた。
「えっ!こんなにですか?高くないですか?」
「適正価格です」
間髪入れず返されたのでそうなのだろう。売れたのなら渡さないといけない物がある。
「鍵を渡さないといけないですね」
鍵は持ち歩けるので形見のように感じていただけに残念だが持っていることは出来ない。
「馨様が持っていてください。鍵は向こうでいいように変えるそうです」
「そうなんですか?費用が掛かってしまうのにいいのですか?」
「かまいません。大切に思っていらっしゃるのでしょう。鍵の交換代は南条家で出しますので。不動産売買では必要経費です」
「そういえば仲介手数料は取っているんですよね?」
「まだ中等部だというのにそんなことに気が付くとは。どこで聞いてきたんですか?もちろん頂いていませんよ。いえ、馨様だけでなく彼からも貰っていません」
僕が「それはいけない」と言いだそうと口を開いたのに金森さんは言わせず先を続けた。
「馨様も彼も優秀で、南条家では2人とも失いたくないんです。彼の妻も黒杜で鍵のかかる部屋は仕事を持ち帰りやすいととても喜んでいます。夫婦とも優秀なのでその子供たちも是非橡で勤められるほどになって欲しいと思っています。
馨様は馨様のおかげで玲様の元気に歩いている姿を見ることができるということがすでにあなたを失うわけにいかないんですが、その上で優秀ならば先行投資として十分なほどです。
ぜひこれからも玲様のため南条家のために力を貸してください」
「分かりました。僕が出来ることはさせて頂きます。給料も出るようですし」
これまでもよくして頂いている南条家のためにするのは当然だと思うが、玲のためにお金も必要になる。金森さんに教えてもらった通りに要求しておく。
「ふふ、もちろん仕事に応じての給料は支払わせていただきます。ぜひとも晄様より稼げるぐらいお願いします。あぁ、彼の家族のことはここだけの話にしてください。あとで私が彼に怒られます」
「ぐっ、玲の体調管理ができる程度には無理せずさせて頂きます。分かりました、橡の彼を怒らせると恐ろしそうなので話しません」
当主となられる晄さんより稼げるようになるだなんて、身を粉にして仕事をしなければ稼げないと思う。そんなことをすれば玲の体調が見られなくなる。それでは本末転倒だ。それだけは避けなければいけない。
「それはもちろん玲様が一番です。馨様は出来ることをしているうちに晄様より稼げるようになりそうです」
「まずないでしょうが頑張ります」
「では、雑談はここまでとして帳面の付け方を覚えて頂きます」
金森さんが本気で晄様の替わりが務まるようにと教え込むので大変厳しい授業となった。
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