関川栞 柾月-2
自宅に戻るとすぐに父がやって来た。今日は兄の泰典 も一緒だった。
皆にお茶を用意していると父が待ちきれず尋ねてきた。
「どうだった藤波の家は」
「お嬢様自身は素直で真剣に勉強しようとしていたから先生としてはやりやすいかも。ただ……」
「ただなんだ」
「お嬢様東条家の子なんですって。東条彰吾様の姪だって」
「あぁ、それはこっちでも聞いていた。当主の妹の子だって。
どうやら父親が葵様が産まれる前に亡くなって、父親が居ないのは良くないと前当主の子として届けたが、当主が結婚したのもあって今は当主の子になっているって聞いた」
そう言うことだったのか。もっと父親の分からない子でも身ごもったのかと思ったが違ったらしい。
「事情があってとしか聞かなかったから、表立って言えない理由かと思っちゃった」
「流石に真家ではないだろうな。王家や武家ならあっただろうが」
「じゃあこれは知っている?葵様北条貴祥様の許嫁で、彼女には北条家から侍女が遣わされているのよ」
「お前それは無いって。貴祥様もまだ中等部だぞ。これから対を探されるぐらいの時期なのに無いって」
兄は大袈裟にないないと手を振って笑う。
「本当なの。結婚した後にリテリア国の方と日常会話以上の会話が出来るよう今から勉強されるのですって。勉強の進捗状況も北条家に報告すると言われたわ」
「本当なのか?」
父が前のめりになって尋ねる。
「そうだと思う。大袈裟に言いたかったのなら許嫁だって言いふらさないで欲しいって言わないでしょう?
侍女が許嫁だって言った時葵様自分で言いふらしているようで恥ずかしいから言わないで欲しいって私に言ったの。
侍女の千佳様もまだ幼いからまずありえないけど念のため言わないで欲しいって。家族にだけ言ってもいいか聞いたら家族だけに留めて欲しいって言われたの」
「それは本当のようだな。
真家は対と結婚されることが多いから、外堀を埋めるようにしても結婚できるかは分からないが、対と結婚されない場合もあるし、幼く分からないだけだと押し切っておくのも悪い手ではない。
ただ最低限会って話したことがあって、お互い良い印象だった場合によるだろうが。
それなら幼いのにどうして貴祥様と会ったかだが。もしかして舞姫の綾様のご友人として?……確認するのは難しいがやっておくべきだな。
栞も気を付けながら気に掛けておいてくれ。特に綾様と会ったことがあるのなら許嫁の可能性が高い。それとなく聞いてみてくれ」
「分かったわ」
「葵様が東条家の人間でも藤波様の話が出ないが、藤波様とは会えたのか?」
「それが千佳様も挨拶する必要は無いってすぐに葵様の部屋に行ってしまったの。帰りも会わなかったし。奥様は体調が悪くて寝込んでいて会えないと言われたし」
「織江様だろう。それは本当だ。東条家にいた頃から体が弱く真路もギリギリで卒業できるぐらいしか通えなかったそうだし、年々悪くなっているそうだから」
「そうなの?じゃあこれからも葵様のお母様には会えないと思ったほうがいいわね。それにしても医療が発達してきたのにずっと治らないなんてよほど難病なのね」
「どうだろう。確かに難病もまだまだあるが、彼女の場合幼いころからだが弱かったのは確かだが、ある程度治ってもそれまでに動いてなかったので体力が無くて、それを甘やかしてそのままでいいとしたので体力がつかなかったのもあると思うよ。
それに元の旦那様を亡くされた後は消極的な自殺だな」
「そう。そんなにも亡くされた対の旦那様のこと思っていらしているの」
生活のために再婚されても、ずっと思っているのは今のご主人には申し訳ないが、恋愛小説のようで素敵だと思う。
「いや、対じゃなかったはず。織江様は同性の対だったと聞いたことがある」
「ならなんでそこまで思っていらっしゃるのかしら?」
「それは漏れ聞こえてきたことだけなので正確ではないだろうが、織江様の結婚前から自身に起こったことで幸せだった時が前の結婚生活の間だったからだろうな。
幸せな時の象徴が亡くなった旦那様になるのだろう」
「葵様が産まれる前に亡くなったのなら結婚生活は短かったのでしょう。それなのに幸せだった時がその間だけだなんて寂しすぎる」
「こればっかりはどうしようもない。自分で選んだ人生だ。お前たちには幸せな時がそんなに短い人生を歩んで欲しくはないが」
「自分としてもそんな人生を歩みたくはないので良い相手を探しますよ」
「もうそんな時期なのね。葵様のリル語の先生として結婚後も許してくれる人を探さないと」
「自分が共に歩んでいける人を探すのは大切だが、結婚生活を長く幸せなものにするのはお互いの努力が必要なのは忘れずにいなさい。栞リル語の先生はやっていけそうなのか?」
「出来ればずっとやれると嬉しいわ。私自身日常会話程度しか出来ないから勉強をしないといけないし、どこまで許されるか分からないけど、葵様は優しいお嬢様だし給料がいいから辞めたくはないかな」
「それなら栞の家庭教師を探さないといけないな。男性になるがうちは問題ないから誰かいるだろう」
「なぜそんなこと言うの?」
「葵様の家庭教師は男性は許されないのでうちに話が回ってきたらしい。女性で栞ほどリル語を話せる人が居なかったらしい」
「それで庶民のうちに話が来た理由が分かったわ」
「正確には栞以上に話せる女性はいなくはないが、末家の末席の家に家庭教師に行ってくれる女性はいなかったそうだ。
リル語を習おうとする女性は分家のお嬢様たちだろうからな。末席に家庭教師に行かなくても小遣いにも困らないだろうし、名誉なことでもないのだろう。
実際綾様の家庭教師はすぐに見つかったと言っていたから」
綾様にリル語を教えたとなれば箔が付くが、末席の家では給料に魅力が無ければ行く必要性を見いだせないだろう。
「それなら貴祥様の許嫁だと言えはすぐに見つかりそうだけど」
「それこそ幼くどうなるか分からないうちに広がるのを恐れて言わないだろう。
対だろうと思っても、幼く勘違いだったかもしれないんだぞ。分家のお嬢様に話したらすぐに真家中に広がってしまう」
父が言う通りだろう。本家のことはあっという間に真家内を駆け巡る。それがたとえ自分の筋の本家でなくてもだ。庶民にさえ関係のある所は少しでも情報を得ようと躍起になっている。次期当主の許嫁など話が上がればすぐに広まるに違いない。
「あぁ、逆なんだな。綾様の将来の通訳を育てるためが先ではなく、許嫁で通訳を将来頼むので勉強されるのだろう。
対で大切な許嫁だから幼くても男性の先生が許されないんだ。これは本当に対かもしれないぞ。お前たちこのことは外に洩らすんじゃないぞ。
うちの家など本家に掛かればその日のうちにつぶれてしまう」
兄と2人でこくこくと大きく頷く。本家が話すなと言うことは話すべきではない。真家に逆らうなど、死ねというようなものだ。
神殿を通して地方都市とは言わず、隅々まで真家の影響が及ぶ。自分がしたことなど1か月も経たず国内に知られていると思ったほうがいい。
家庭教師としてもよくよく気を付けなければいけないが、会った雰囲気ならば普通に教えるだけなら問題ないだろう。
「対かもしれないことは話せないが、北条家より葵様が織江様の娘だと言うことは広げて欲しいと言われているので、葵様の優秀さと一緒に話さなければいけない。
うちが葵様の家庭教師を引き受けたことはいつか周りに知られてしまうだろう。その時にはこちらを話せばいい」
「お父さん早めに先生を見つけてきて。葵様に求められる物を教え続けられるようになりたい」
「分かった。家庭教師も探すが、空いた時間リテリア国の人がくれば店の方に出るようにしなさい。耳で聞くだけでも勉強になるだろう」
「そうします」
「じゃあ俺も頑張るかな。妹に抜かれたら恥ずかしいからね」
兄はにっと笑って私を見る。兄はすでに日常会話以上話せる。
「私は気にしないもの。お兄さんが知っている言葉でも私には必要ない言葉もあるし、私が知っていなければいけない言葉もあると思うもの」
「それもそうか。まぁ俺は俺なりに頑張るさ」
父はすぐに家庭教師を探しに行ったし、父が居ない間店を見ていなければいけないので、兄も立ち上がり店の方に向かう。
「私も出来ることからしておかないと」
最近は少しさぼっていたので途中までしかしていない勉強がある。まずそれから再開しよう。葵様のため自分のためにやらなければ。
私は皆に入れたお茶を片付けてから勉強するべく部屋に向かった。
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