玲3歳 桃月
次に目を覚ますと前に見た天井だったことと、すぐに佳那の声がしたことで今度は叫ばずに済んだ。
「玲様、目が覚めましたか?」
相変わらず佳那は泣き顔で心配そうに私を覗き込んできた。
「佳那。おはよう」
まだぼんやりしているけれど、起きたら挨拶しないといけない。
「おはようございます玲様。お腹が空いてらっしゃいますでしょ?なにか食べられるものをお持ちしますね。すぐに戻りますから大丈夫ですよ。あぁ、渚様もすぐにいらっしゃいます」
そう言われるとお腹が空いている気がする。少し1人でいるとお父様が駆け込んできた。
「玲起きたのか?」
私の顔を見たお父様は涙ぐんでいた。
「おはようございますお父様。なぜお父様は泣いているの?」
「おはよう玲。あぁ、玲がご挨拶をしたと思ったら疲れていたのか眠り込んでしまったから少し心配したんだ?北条様にご挨拶に行ったのは覚えている?」
ついさっきご挨拶したと思ったのに、疲れて寝てしまっていたみたい。確かに朝お父様に女神様の話をして、ご挨拶に行かないといけないと言われてからすごく不安だったし、たくさんの男の人たちが怖かった。
「私寝坊しちゃったの?ごめんなさいお父様。今度からちゃんと起きるわ」
「いいんだよ玲。疲れてしまっていたからね。まだベッドでゆっくりするんだよ」
「えっ、でも寝坊しちゃったんでしょ?起きてご本を読んだりしないと」
お父様は起きようとした私をベッドに戻しながら優しく言った。
「ちょっと長く寝ていたから、急に起きると体がびっくりするよ。ゆっくり動くようにしようね」
お父様に言われ手を動かそうとしたけれど、なんだかうまく動かない。そういえば前に起きた時も動かなくて怖くなったのを思い出した。
「お父様!」
急にもう起きられない気がして怖くてお父様に助けを求めた。
「大丈夫。ちょっと寝すぎたからね動かしづらくなっているだけだから。またゆっくり動くようになると、前のように動かせるようになるよ」
「本当?お父様」
「あぁ、本当だよ。それに今はお腹が空いていて力が出ないから余計だね」
「そうです。食べないと力は出ませんよ。すぐに食べる物も届きますが、まずこれを飲んでください」
いつの間にか戻っていた佳那が温かい飲み物を持っていた。
お父様は私を掛け布団ごと抱き上げ、ベッドボードに凭れるようにお父様が座らせてくれた。
佳那が飲み物をベッド横の小さな机に置き、ベッドボードと私の間にクッションを差し込み私を凭れさせてから温かな飲み物を持たせてくれた。
佳那が手を離そうとしたけれど、落としそうになり慌てて手を添えてくれた。
「玲様熱いですからゆっくり飲んでください。大丈夫です私がお手伝いしますから」
私はふうふうと息を吹きかけ冷ましてからそっと口を付けた。
「甘い!おいしい」
「ミルクに蜂蜜を多めに入れています」
甘くておいしいミルクを佳那に傾けてもらいながらコクコクとゆっくりとだけど飲む。
「玲がまた怖くなったらいけないから、少し今のことを話そうか。飲みながら聞きなさい」
そう言えばここがどこか分からない。お父様も佳那もいるのにお家ではなくて、お母様もお兄様も姿が見えない。
お父様は佳那とベッドの反対側で座り話し始めた。
「ここはねご挨拶に伺ったお家だよ。ご挨拶に伺ったことを玲は覚えている?」
「北条様の所!」
「そう、偉いねちゃんと覚えていた。玲は女神様が玲の中にいらっしゃると言っただろ?あいさつの後女神様が玲の中に居るのなら、北条様のお家の方が守りがしっかりしているから安全だと言うことになって、玲はこれから北条様のお家で暮らすことになったんだよ」
持っていたコップから思わず手を離してしまったけれど、佳那がしっかり受け止めてくれた。
「えっ、もうお家に帰れないの?お母様やお兄様に会えないの?私が寝てばかりだから、いけない子だからお家に居られないの?」
一気に涙があふれてきた。そして前回のように何かが溢れそうになり、息が苦しくなってきた。
「玲!違う!玲がいけない子なはずがないだろう!」
お父様は私を強く抱きしめ、すぐに違うと言ってくれると溢れそうなものがゆっくりとなった気がした。
「じゃあなんでお家に帰れないの?お母様やお兄様に会いたい」
涙は止まらないけれど、お父様の胸に顔を埋めてお父様の腕の服を握り出来るだけ涙を止めようとした。
「私も樹も晄も玲が自宅に居ないことが悲しい。でも、女神様がいらっしゃる玲にとって北条様のお家の方が安全だと思ったんだ。私は毎日北条家に来るし、樹も晄も出来うる限り玲に会いに来るよ」
「安全だからここに居ないといけないの?嫌いになったからここに居ないといけないんじゃないの?」
顔を上げお父様を見上げると、お父様は大きく横に首を振った。
「それは違う!玲のことを嫌いになんかならない!本当ならずっと家にいてほしい」
そう言ったお父様の腕にぐっと力が入り抱きしめ直したのを感じ、お父様が本当に家にいてほしがっていたのは分かった。それでもここに居ないといけないのなら、とても寂しいけれどここに居てもいい。
「本当に会いに来てくれる?お母様もお兄様も?」
「あぁ、会いに来るよ。残念ながら毎日は無理かもしれないけれど、ちゃんと会いに来る。それに佳那はずっと玲の傍に居るから」
そっとお父様から顔を上げ佳那を見る。
「佳那ずっと傍に居てね」
「もちろんです玲様」
「さぁ、玲落ち着いてきたならご飯を食べようか」
お父様は私から体を離し、もう一度ベッドボードに凭れさせてくれた。
「玲様りんごをすりおろしたものです。しばらく寝ていらっしゃいましたからね、硬いものを食べたり、食べすぎたりするとお腹が痛くなりますからね」
まだ腕に力が入らないので、スプーンが上手く持てない私に替わって佳那がりんごを食べさせてくれる。少しだけだと思っていたのに、すぐにお腹いっぱいになって少し残してしまった。
お腹がいっぱいになると眠くなってきた。
「いっぱい寝ていたのに……」
「ゆっくりで大丈夫だよ。今日はもう寝なさい。起きたら一緒にご飯を食べよう」
お父様に寝かせてもらい、頭を撫でてもらいながら眠った。