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恋とか愛とか結婚とか  作者: 更西東花
第一章
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玲8歳 桂月-2

 待ち望んだ休日がやって来て、数日前から楽しみで仕方なかった。


 佳那に連れて行ってもらった部屋に行くと、貴臣様ぐらいの男性がいた。


 苗字しか聞いていなかったので男性だと思わなかった。


 私は思わず馨の後ろに隠れた。


 男性は立ち上がり隠れたままの私に挨拶をした。


「初めまして北美百貨店より参りました嵯峨野と申します。


玲様のことは聞いておりますのでまずは馨様の物から見ましょうか。馨様少し窮屈になったと聞きました。先に採寸させてください」


 嵯峨野と名乗った男性は私を放っておいて馨に声を掛ける。


「はい。玲隠れていないで座って。僕が選ぶのを見ているといいよ。それで慣れたら玲のを見ようか」


 馨は私を座らせ落ち着かせる。佳那もすぐにお茶を出してくれたので口を付ける。


 馨は落ち着いたのを確かめてから嵯峨野さんの元へ行った。


「着られなくはないのですが、身長もまだ伸びると思うので新調しようかと」


 嵯峨野さんは馨の寸法を測りながら楽しそうだ。


「確かに身長が伸びているようですね。全体に大きくなっています。少しだけ大きいものにしないとすぐに替えることになりそうです」


「普段着なら大き目でゆったりでも大丈夫じゃないですか?」


「それはいけません。見た目が全然変わってしまいますから。多少で我慢してください」


「そうですか。仕方ないですね」


「洋服代も南条家から出ているのですから、気にせずぴったり合う物でもいいと思いますが、馨様に合わせて多少大き目で我慢しているぐらいですから。それ以上は私が汐田さんに叱られます」


 採寸が終われば嵯峨野さんは洋服を広げていく。


「これなどお勧めですよ、肌触りもいいですし」


 普段着なせいか、馨が良く着ている雰囲気の洋服が多い。


「ちなみにおいくらですか?」


「こちらは7000珀ですね」


「シャツでその値段は外出着ですね。今日欲しい物とは違うから」


「そろそろこれぐらいの金額を普段着にされてもいいのでは?」


「まだ早いですよ。それこそ成長が止まってからでいいと思います」


「馨様は財布のひもが固くて商人泣かせです」


 以前お母様の買い物を横の部屋から見たことがあるけど、金額を聞いたりはしていなかった。だから馨が聞くのが不思議で思わず声を掛けてしまった。


「馨どうして値段を聞くの?」


 せっかく放っておいてくれたのに、声を掛けたせいでみんなに見つめられてしまう。


あまりにも見つめられ、誰も声を出さないので逃げたくなる。


 私が長椅子の隅によって小さくなると、馨が横に座ってくれた。


「玲怒ってないから小さくならなくて大丈夫。ちょっと驚いただけ。なぜ値段を聞くのかって、聞くのが普通だと思ったけど」


「ここまで詳しく値段を聞かれるのは馨様ぐらいですよ」


「そうなんですか?聞くものだと思っていました」


「他の皆様は全体の予算内で収まるかどうかは気にされますが、一枚ずつまでは気にされませんね」


 このままだと私の質問に答えてもらえない。少し会話が途切れたすきにもう一度聞く。


「馨はなんで聴くの?」


「高額な物でも安い物でもそれが自分にとってその金額を支払うだけの価値があるかどうかを知りたいからかな。


例えばさっきのシャツは金額で言うと外出着で、普段着が欲しいものだから買わないけれど、それだけ出しても欲しいと思えば買ったと思うよ」


「買い物をしたことが無いからよく分からないわ」


 洋服を初めて自分で選ぶ私にとって、とても難しいことをしているように感じる。


「これから覚えていけばいいことだよ。洋服は季節によって変わるし難しいから、おやつから始めたらどう?


嵯峨野さんに用意してもらって、高いけど美味しいから2回に1回は食べたいとか、安くておいしいから毎回お願いとか。いやまずは何がいくらしているのかを知ることが先かな」


「なんだか難しそう」


「そんなことないけど、とりあえず僕の買い物を見てどんな風にしているか覚える?


僕も洋服は勉強中だからまだまだだけど、勉強のしやすさが違うから鉛筆とかインクとかは好きなものがあってこだわっているんだ。玲にもそんなものが見つかるといいけど」


「馨様は買い物が庶民寄りで商人泣かせですから、玲様は見て学ばなくてもかまいません。というより学ばないでください」


「玲様はご自分が気に入った物を好きに買われればいいですよ」


「よく分かってないと思うけど、馨が言っていることが間違っていないと思うから、馨の買い物を見て覚えるわ」


「馨様ちょっと恨みますから」


「玲は最初からいいものを着ていますし、今よりも金額が下がることは無いと思いますよ、着心地はやっぱりいいですし。


急に高くもならないと思いますけど。今まで華美なものは着ていないし、これからもそれが変わるとも思えないですから」


「馨様卒業されたら北美に勤めませんか?」


「駄目!絶対に駄目だから!」


 馨がどこかに行ってしまうだなんてありえない。そんなこと考えただけでも涙が出てくる。


 我慢できず泣き出してしまった私を馨はすぐに抱きしめた。


「玲大丈夫、僕はどこにも行かない。ずっと玲の傍に居る。嵯峨野さんは僕が口が上手いから冗談で言っただけだよ」


「本当?どこへも行かない?」


「行かない。約束しただろう、ずっと傍に居ると」


 最初に会った時にずっといると言ってくれたことは忘れたことは無い。


「覚えているわ。ごめんなさい分からなくて、本気なんだと思ってしまっただけなの。馨普段着見るんでしょ。すぐに落ち着くから馨は見ていて」


 まだ涙が止まらないけれど、冗談だと分かったからすぐに止まると思う。


「今日はもうお終いにしよう。佳那さん部屋に戻ります」


 馨は私を抱きしめたまま終了を決めてしまう。せっかく馨の買い物を見たり、自分のお買い物できると思ったのに全然見ていない。


「畏まりました」


「でも、私馨が嵯峨野さんから買い物をするのを見て覚えたいのに……。自分のもまだ……」


「それはまた今度にしようか。僕も疲れたし、玲一緒に部屋に戻ってくれる?」


 それが馨の嘘だと分かっているけど、今度にしようと言われたし、もうちょっとふらふらしてきた気がするので、素直に従うことにした。


「絶対よ。絶対に勉強するんだから。それに自分で選びたい!」


「分かっている。でも体調が良くないと許可しないからね」


「は~い。またお願いします嵯峨野さん」


「こちらこそよろしくお願いします。本日は申し訳ありませんでした」


 嵯峨野さんは深々と頭を下げたが、なぜそんなに謝るのか分からない。


「玲を連れて部屋に戻るので、汐田さん後お願いします」


 馨は部屋の外にいた馨の家僕の汐田さんに声を掛け私を抱き上げた。


「嵯峨野さんすみません。これで失礼します」


 声だけ嵯峨野さんに掛け馨は部屋へと急いで戻り、私をベッドに寝かせた。


「初めてのことで疲れたね、ゆっくり休んで。僕は部屋に勉強道具を取りに行くけどすぐに戻るから」


 私が頷くと微笑んで頭を撫でてから馨は自分の部屋へと向かった。


 私は馨が戻って来たのを何とか確認して眠った。


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