馨13年 桂月-4
帰宅し玲の部屋を覗きに行くと、玲は体調も落ち着き暇になったのだろうベッドの上で本を読んでいた。
「馨帰って来たの?」
玲は読んでいた本を放り出しベッドから降りようとした。
「玲今日はベッドから出たらいけないと言っただろう。大人しくしていないとまた寝込むよ」
僕は急いでベッドに近づき玲を止める。しょんぼりとしている玲の頭を撫でる。
「だって聞いていたけれど起きたら馨がいなかったから寂しかったの」
僕が思ったより早く体調が良くなったようだ。
「今日はもう出かけないからここに居るよ。本だけ持ってくるからちょっと待って」
「馨待って!」
僕が自分の部屋に勉強道具や小説を取りに行こうとしたら玲が引き止めた。
「どうしたの玲?」
起こしていた体を玲の方に傾けて玲を覗き込むと、玲が僕に抱きついて来た。
僕は慌ててベッドに腰掛け、玲が無理な態勢を取っていたのを直す。
「馨家に行っていて寂しかったでしょう。馨1人じゃないから私がいるから」
態勢を取り直していたので、玲の声は耳元で聞こえた。
玲の言葉は俺の中でゆっくりしみ込んでいく。
「ふっ、くっ……」
橘の家では大泣きなどできそうもないと思ったのに、玲に抱きしめられると涙があふれてきた。こんな姿玲に知られたくないと思うのに溢れる涙が止められない。
玲を強く抱きしめてしまわないようにだけ気を付けて、気が済むまで泣き続けた。
玲は辛いだろうにずっと僕を抱きしめていてくれた。
ようやく落ち着いてきた頃、玲が「馨ずっと傍に居るわ」そう言って眠ってしまった。
「玲ありがとう」
聞こえたかどうか分からないけど、微笑んだような気がするから聞こえたと思う。
このまま寝かせたいけれど、服を濡らしてしまったので佳那さんにお願いして着替えさせてもらう。
その間僕は顔を洗い部屋に勉強道具を取りに行き、玲の部屋に戻ると佳那さんに着替えさせてもらって寝ていた。
「馨さんまずはお茶をどうぞ。すぐに紅茶とおやつを持ってきますから」
佳那さんにお茶と冷たいおしぼりを渡されたので、泣いていたのを見られてしまったことに気が付いたけど、見なかったことにしてくれているのでそのままなかったことにした。
冷たいおしぼりで目を冷やし、お茶を一口飲むとのどの渇きを感じ、大き目の湯飲みに入ったお茶をいっぺんに呑んでしまった。
「はぁ~」
お茶がおいしくて思わずため息をついてしまうと、ちょうど戻って来た佳那さんに笑われた。
「お茶を飲んでため息をつくなんておじいちゃんのようですよ。さぁさぁ若い馨さんは甘いパウンドケーキでも食べてください」
「はい」
なんだかんだで疲れていたのだろう。いつもなら甘すぎるパウンドケーキがおいしい。
佳那さんが持ってきてくれた二切れを全部食べてしまった。
「僕はもうここに居ますので佳那さん他の用事があるのでしたらそちらをしてください」
「ではそうさせてもらいます」
本当に用事があるのか分からないけれど、佳那さんは僕をそっとしておいてくれた。
紅茶も飲んで落ち着いたので玲の横で勉強を始める。
途中すうすうと眠る玲を見る。玲がいてくれてよかった。橘の家で落ち着いたつもりだったのに押し込めただけだったことに気づかせてもらった。
しっかりと泣けたのもあってすっきりとしている。玲は僕が泣けるように起きて待ってきてくれたのだろう。
僕は眠っている玲の傍に行きそっと頭や頬を撫でた。
「ありがとう玲。これからも玲の傍に居させて欲しい」
稀にほんの一瞬だけ感じる玲のやわらなか唇をそっと指先で触れる。
その指で自分の唇に触れる。そうした後ひどくいけないことをしたような気分になり、すぐに玲の傍を離れ勉強を再開する。今玲が目を覚まさないように願いながら。
読んで頂きありがとうございます。
評価して頂きそれも星5つも頂いて、泣きそうになるぐらいすごく嬉しいです。
ありがとうございます。




