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恋とか愛とか結婚とか  作者: 更西東花
第一章
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馨13年 桂月-3

 僕も自分で持ち帰れる程度の物を持って帰るため部屋の中を探す。


 母の物はこの分量を書いてあるノートが数冊見えているのでこれを。父の物も父が計算していたり、雑多に書き込んであるノートを持ち帰ることにした。


 帰るまでの時間は室内をゆっくり見て廻って目に焼き付けて置く。


 こうしているとあの寡黙で机に向かい仕事をしている父の背中も、台所で手早く料理をしたり、慎重に丁寧に調合している母の姿ももう見られないのだと実感した。


 両親の顔は入学の時写真館で撮った写真が残っているので忘れることはないが、その時々で見せた表情は忘れていくのだろう。それがとても悲しかった。


「馨様……」


 高城さんに手渡されたハンカチで自分が泣いていることに気が付いた。


 両親が亡くなってからそういえば泣いていなかったと、なぜかひどく冷静に自分を見ている自分がいた。


大泣きしてしまえば前を向きやすいのかもしれないが、玲に合わせて感情を揺らさないようにする癖がついてしまっているので、出来ないことも分かっていた。


 後はゆっくり悼んでいけばいい。どのように前を向こうとも両親は見守っていてくれると思う。


「落ち着かれましたら帰りましょう」


「はい」


 このまま帰って玲にまで影響してはいけないので、深呼吸をして自分を落ち着かせる。


 あっという間に落ち着かせることができ、涙も止まった。


「では帰りましょうか」


 顔を上げるとそこには高城さんしかおらず、沢渡さんは部屋の外で僕に背を向けて立っていた。


「皆さんどうされたんですか?」


「馨様が綺麗すぎて近づけすぎないと皆遠巻きにしております。声を掛けない訳にはいかないので俺が掛けましたが今日眠れそうにありません」


 高城さんは顔を赤らめて僕の方を見ずに言った。


「なにを訳が分からないとことを言っているんですか?男の僕が泣いたところで見苦しいだけですよ。ハンカチは洗って返しますね」


「ハンカチはたいしたものではありませんので返して頂かなくても大丈夫です。というより返さないでください。そのハンカチを巡って争奪戦がおきそうです」


「高城さんさっきから訳が分からないことを言うのは、もしかして泣いた僕をからかっているんですか?」


「違います!本当のことですから!先ほどの馨様は儚げで引き止めないと本当に消えてしまいそうだったんです!」


「えっ!幽霊みたいに見えたんですか?」


「いえ、こう庇護欲を掻き立てるというか抱きしめて引き戻したい欲に駆られるというか……」


「高城さん近づかないでもらえます?男に抱き着かれても嬉しくないです」


 手を本当に抱きしめるかのように動かす高城さんから僕は距離を取る。


「酷いです馨様。馨様が玲様に思うように感じたのだと思ってもらえると分かりやすいかも。いえ実際馨様がどう思っているかは分からないですが守ってあげたくなる感じです」


「僕はそんなに子供じゃありません」


 玲は体も弱く小さな女の子だ。それと同じように守ってあげたいと言われても、子供じゃないと思ってしまう。


「もういいです。馨様に分かってもらえない気がします。俺からすれば馨様はまだ子供寄りで守られる方です。儚く危なげであれば守りたいと思うのは当然だと思います」


 確かに高城さんから見れば僕は子供だろうけど、泣いたぐらいで儚げとか守りたいとか言われてもなんだか納得いかない。


高城さんを置いて部屋の外に出ると沢渡さんが僕を見つめ顔を赤らめていく。沢渡さんが思わず触れそうになるのを橡の男性が止める。


「沢渡しゃんとしろ!いつまで呆けている!」


 沢渡さんはビクッとなって固まり、焦点があったと思ったら平謝りした。


「申し訳ありません馨様」


「馨様先ほどのように無防備なのは1人の時はおやめ下さい」


「そう言われましても、普通にしていたはずですか」


「馨様は玲様と一緒にしておかないと危険だな。玲様がいらっしゃれば馨様は油断されないだろう。馨様も今でも多少出来ていますが完璧ではありません。ご自分を守るためにも感情を隠すことを覚えてください。


渚様に報告して訓練しましょう。専門の者から教えてもらってください。これはどの勉強よりも先に覚えて頂きます。学院ではどうされていますか?」


 沢渡さんの様子と、男性の切羽詰まった言い方に、高城さんの言っていることはあっていたのだと分かった。


「学院では微笑むのも危険な気がして無表情でいるように努めています。貴祥様達がいると油断してしまっている気がしますが、玲といる時のことのようなことは無いはずです」


「大変結構です。決して微笑んではいけません、それは性別問わずですよ。貴祥様がいらっしゃる時は多少なら構いませんが本当に危ないですから。他の勉強など置いておいてできるまでみっちりとやって頂きます」


「それを覚えると感情を揺らさないようにできますか?」


 せっかく感情を隠せるなら、感情を揺らさないようにしたい。まだ意識しないと出来ていない。玲ができるのなら僕にもできるはずだ。


 男性は驚いた顔をしたが頷いた。


「できるはずです。私はその専門ではありませんので確かなことは言えませんが、そのようなことを言っていたと思います。一緒に訓練されるといいと思います」


「では早急に出来るようにします。そういえば貴方の名前を聞いても?」


「私の名前など覚えなくてもかまいません。それよりも帰宅しましょう、遅くなりました」


 男性は名前を教えてはくれず、玄関付近にいた警備の人たちに声を掛ける。


「しゃんとしろ!帰るぞ」


 遠くからぼ~っと僕を見ていた男性たちはその声に姿勢を正し警備の任務につき始めた。


 高城さんに促され馬車へと移動すると、赤みの残る顔でまじまじと見られてしまうけど警備を怠るようなことは無かった。


 男性はこれから移動させるのだろう。一緒に帰宅することは無く橘の家の前で僕を見送ってくれた。


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