馨13年 桂月-2
「えっと、では親族のことも含め金額が折り合った方に早めに引っ越してもらってください。空き家にしておくのは危ない気がしますので」
「分かっております。すぐに話を進めて引越するように言います。金額や入金などは金森さんから聞いてください。
では部屋の確認を再開しましょうか?大体全部見ましたが、どこにお母様の部屋があったんですか?」
「分かりにくいですよね。ここです」
本に興味が無かったのか、入れてある本に価値がないことが分かったのか本はそのままの状態だった。
僕は廊下に設えてある本棚に触れる。ちゃんと鍵がかかった状態だったことに安堵した。
「そこは本棚ではないんですか?家の大きさから少し狭い気はしていましたが」
沢渡さんが不思議そうに僕の手元を覗き込む。
僕は本を1冊抜き出しその奥にある鍵穴に持っていた鍵を入れると抵抗なく入った。
本棚をぐっと横にずらすとそこに入り口が見える。この家に住んでいた時には僕の力では本棚がずらせず母と一緒に入るしかできなかった。
「南条家ならこれぐらいの隠し扉を見つけられる人がいたでしょう?開けて確認しなかったんですか?」
「正直に言って見つけられたでしょうし、玄関の鍵でさえ開けられる者はいます。でも馨様の家を家探しできません。
親族が持っていた鍵はすぐに回収しましたし、合い鍵も作っていないかも確認済みです。もう入れなくなるので、一日だけ南条家の者の管理下で荷物を引き取ってもいいと言ったらすべて持って行ったんですけどね。
それまでは兄弟で睨み合って持ち出さなかったのに、一日と期限を切ったので持ち出せるだけ持ち出して後で話し合ったのでしょう」
「それ後ですごくもめたでしょうね。あれがあったはずなのに無いとか」
苦笑しながら「でしょうね」と高城さん達は頷く。
それよりも僕が開けた方が気になるようで、僕越しに覗き込む。
扉の奥には父と同じぐらいの小さめの母の部屋がある。
「隠し部屋があるんですか!金森さんに報告しないと」
「いや、ちょっと待って。小さい物置だけかもしれない。それなら金額は変わらないだろう」
「いや、変わるだろう。予算を超えないといいなぁ」
よっぽど沢渡さんが買うのが嫌なんだろうか。にやにやと沢渡さんを見ながら報告する気満々だ。
僕は放っておいて中に入ると、誰も入らなかったようでそのままの状態で残っていた。
「これは凄い!」
部屋としては小さいけれど、小さな瓶がたくさん並びそれを調合する道具も机の上に沢山おかれたままになっている。
「お母様は何をなさっていたんですか?」
「調香師です。頼まれたものを作成したり、新しく作ったりしていました」
「なぜわざわざ隠し部屋を作ったんです?」
「僕が勝手に入っていたずらしないようにですかね。それに日の光や温度変化に弱いらしいので窓が必要ないそうです。その為わざわざこの部屋を作ったと聞きました」
「そうだったんですか。でもなぜ鍵まで?家の中に鍵をご両親ともの部屋に付けたのはなぜでしょう」
「それはもちろん出かける時に鍵をするためです。父の方は会社から許可は貰っていたようですが、失うわけにはいかない重要な物もあったみたいです。
僕が触ろうとしたら怒られた書類があって、その時にそんなことを言っていました。
母の方は単純に香料には高いものもあるんです。僕にはどれがそうか教えてはくれませんでしたが、触らせてくれなかったものがそうなんでしょうね。流石にこの部屋はそのまま移動は難しそうです」
「そうですね、僕では分からないので分かるものを呼んできます」
僕は呼んでくる間、じっくりと見ていることにした。
瓶は香料だから眺めるだけにして、本棚に置いてあるノートを開いてみる。
そこには母の少し丸く可愛らしい字で名前と香水の調合に必要な情報が書いてあった。
名前は知らない方ばかりなので、分家や末家、豪商の人たちなのかもしれない。
これは収めていたお店の方からしたら喉から手が出るほど欲しいものではないのだろうか。
どうしたほうがいいのか悩んでいると、高城さんが知らない男性を連れて戻って来た。
「どうです。このまま別棟に移せそうですか?」
「本の並びまで言われると厳しいが入った瞬間の感じは移せると思う」
「そこまで細かくは僕にも分かりませんので、雰囲気が感じられれば十分です。お手数をお掛けしますがよろしくお願いします」
「とんでもない。これも私の仕事の内ですから」
「もしかして南条家の特殊隊、橡の方ですか?」
南条家には一般の警備を請け負う人たちと別に特殊な事案を専門にしている人たちがいると噂で聞いたことがある。
通称橡と呼ばれ、確か外を回り情報収集などをする黒衛と後方支援の黒杜に別れている。
彼はにやっと笑っただけで何も言わなかった。
「移動するものはこの2か所の物だけでいいですか?ご自身の部屋の物は移動しますか?」
僕は静かに首を振った。僕の部屋も同じように何もなかった。親族の中に男の子がいたけれど僕の洋服が入るとは思えないのに残っていなかった。
お気に入りの本はもともと父の書斎で読むことが多く、書斎に置いていたので残っていたのでそれで十分だ。
「ほかに隠しているものなど無いですか?」
「すみませんこれ以上は分かりません」
「ではこちらで確認します。屋根裏部屋も軒下も確認して見つけましたら別棟に運んでおきます」
男性はすぐに物を移動させるため準備に入った。




