貴祥10歳 桃月
か細く本当なら聞こえそうもないほど小さな声だったが確かに聞こえた。そして誰があげた悲鳴なのかもすぐに分かった。
皆で心配するほど起きないし、警備を付けているので不審なものが入るはずがないのに悲鳴をあげるだなんて!
「玲!」
一緒に勉強していた晄が先に玲の部屋へと急ぐ。僕も急いで後を追いかける。
ドアの前で警備の者が立ちふさがって皆が入るのを無言で防いでいた。
「何事だ!」
途端に警備に口をふさがれた。
「申し訳ありません。南条様より気配を消して仕事に戻るか、黙って待つように言われました」
物凄く小さな声で南条からの言葉を伝える。
黙ってうなずくと口から手を離して先を続けた。
「玲様は急に知らない場所にいて、たまたま侍女が部屋を出ていたため1人でいることで混乱して恐怖を覚え悲鳴をあげられたようです。大勢で押しかけると悪化するので静かに待つか、物音を立てないように仕事に戻るかするように言われ部屋に入っていかれました」
待ったのはほんの少しの間だった。
出てきた南条は青ざめ唇を噛みしめていた。
南条に無言で下に降りるよう言われ、皆で執務室に移動する。
「玲はどうしたの?」
晄が一番に尋ねた。
「一度目を覚ましましたが、女神様の力を溢れさせ昏倒しました……こんなことなら目を覚ましてから移動させるのでした」
それは一同で話し合い警備がしっかりしている北条家が良いだろうと決めたことだ。
知らない場所でも、すぐに説明すれば大丈夫だろうと目を覚ます前に移動させた。
それなのに、ほんのわずかな間部屋で1人きりにした時に目を覚まし怯えさすことになるだなんて。
「私は玲が目を覚ます時に傍に居てやりたいので、しばらく貴臣様の仕事も玲の部屋でさせて頂きます」
玲を怯えさせるわけにはいかないのでそれも仕方ないだろう。
「構わない。どうしても離れる時は南条か佳那が必ずいるように」
南条は父様の許しを得てすぐに書類を纏め玲の部屋へと移動した。
それほど玲の目覚めた時に傍に居たいと部屋に居たのに、父様に書類を届けている間に玲が目覚めたので、南条は本当についてない男だと後で思った。