晄17歳 桃月-2
俺は気を引き締めなおしドアが開くのを待つ。
崎守はすぐにドアを開けてくれ2人で降りる。玄関に入った時には貴祥様がすぐ傍に来られていて、横で柳田が緊張したのが分かった。
「何かあれば俺がなんとかするから大丈夫だ」
顔を見て安心させたいが、もう姿が見えている状況では出来ない。貴祥様しか見えないので、父は先に来て様子を見ているのだろう。
貴祥様が立ち止まり、柳田を上から下まで見る。
「貴祥様彼が特待生の柳田俊成です」
「初めまして、柳田俊成です。こうして貴祥様とお会いできて光栄です。本家の方々には大変お世話になりありがとうございます」
「北条貴祥だ。成績は確認している。頑張っているようで何より。柳田は来年卒業だろう。勤め先は決まっているのか?特待生なら本家で勤められると思うが」
「いえ、まだ決まっておりません」
貴祥様は不思議そうな顔をしてこちらを見る。
「そうなのか。てっきり晄がどうにかしていると思ったが」
「信玄さんには声を掛けています。本人に会ってから正式に決めるそうですが、来年も成績を落とさなければ雇うと言われています」
本当なら2人だけの時に言いたかったが、貴祥様に紹介してやろうと言われる前に言っておかなければいけない。
「西条か悪くない。信玄さんは家僕にすると?それともそれ以外?」
「そこまではまだ聞いておりません。本人に会ってから出ないと決めないと言っていましたから」
「晄が気に入っているようだし、来年半ばまでの成績を落とさなければ僕からも信玄さんに口添えをしよう。どこで使うかは分からないけど、僕からも言えば粗末に扱わないだろう」
「ありがとうございます」
貴祥様から口添えしてもらえるなら家僕でも信玄さん付きになれるかもしれない。
「これから2人で南条家に行くのか?」
「はい。彼の勉強に必要な本が家にありますのでそれを貸すつもりです」
「うん。これからも勉強に励むといい。良い人材を本家で雇うことは大切なことだ。ぜひ西条家で雇ってもらえるよう頑張って欲しい」
「ありがとうございます。ご期待に添えるよう頑張ります」
柳田が深くお辞儀をしてお礼を言う。
「僕も頑張らなければ。ではこれで。柳田また会える日が来るのを楽しみにしている。晄また明日」
2人で頭を下げ貴祥様の姿が見えなくなるまで待つ。
立ち去られてのを確認してから何も言わず馬車に乗り込む。
馬車に乗って開口一番柳田が震える声で聞いて来た。
「晄様どういうことですか?西条家って」
「詳しくは帰ってからにしよう」
説明してやりたいがすぐに着いてしまうし、少しの間だったがかなり緊張を強いられたので少しの間ゆっくりしたい。
南条家に着くと乾が出迎えてくれる。
「お帰りなさいませ」
「2人分の珈琲と何か軽く食べる物を。長門にこの本を持ってくるように言って。サンルームにいる」
「畏まりました」
乾は柳田のことは気になるのかチラチラと見ていたが、何も聞かず用意のためこの場を離れる。
「こっちだ」
サンルームに移動し腰掛けると思わず声が出た。
「あ~疲れた。なんで貴祥様に話すかなぁ」
「誰が伝えたんですか?」
「父上。崎守と話をしていた時お前を見たのだろう。貴祥様に特待生が来ていると伝えたもんだから、せっかくいるのなら会いたいと言い出されて」
「晄様から馬車にいるように言われていたのに、急に貴祥様とお会いすることになってかなり緊張しました」
柳田は俺と同じように背もたれに凭れてぐったりとする。
乾が珈琲とチーズタルトを持って来てくれた。
「はぁ~美味しい。疲れた時に甘いものは悪くない」
「本当においしいです」
最初の一口は大き目だったが、もったいないと思ったのか次からは小さめになった。
柳田も珈琲もなにも入れずに飲むようになったので、これぐらいの甘さがちょうどいいだろう。
タルトを食べて少し落ち着いたので、柳田は名残惜しそうにまだタルトを食べているが説明することにした。
「気に入ったのならおかわりでも手土産にでもすればいい。先ほど話が出たお前の勤め先だが、西条信玄は特待生で俺がいいと思うなら雇ってもいいと言ってくれている。
どこに配するかは会ってから決めたいと言われたが、どこに置いてもお前のことを酷い扱いをすることは無いだろう。仕事で認められればよい所まで出世することも可能だろう。信玄に会うつもりはあるか?」
タルトを食べ終わりフォークを皿に置いて俺をしっかりと見つめる。
「まずすぐに答えられることから。タルト手土産で貰っても構いませんか。こんなにおいしいもの家族にも食べさせてやりたいので」
「乾用意してやって」
俺は柳田から視線を外さず乾に頼む。
「畏まりました」
「図々しいお願いだと十分承知しておりますが、南条家で勤めることは出来ないのでしょうか?」
俺が口を開くよりも先に本を届けに来た長門が答える。
「ご歓談中失礼します。その件に関しては晄様に変わってお答えします。柳田さんは真家に伝手がありません。
末家に少々の遠縁でもあれば何とでもしたのですが、全く縁を見つけられず。同じ本家とはいえ北条家・南条家と東条家・西条家では差があるのです。
柳田さんを南条家に入れるのは無理がありますが、西条家ではなんとかできます。というより晄様がなんとかさせます。こちら頼まれていた本です」
柳田は長門の顔をまじまじと見て本を受け取った。受け取った本をじっと見つめながら考え込む。
「それが一番晄様の傍になるのなら、西条信玄様に会わせてください」
「長門、信玄さんと予定を調整して」
「畏まりました」
信玄の予定を確認するために長門はすぐにこの場を立ち去る。
「晄様の顔を潰さないように可及的速やかに上り詰めます」
出世すればそれだけ仕事上でも俺と会う機会が増える。
「あぁ、楽しみにしている。勤め始めれば堂々と南条家と情報交換に行くと言ってくればいい。実際やり取りはするだろうし、信玄さんもそれを期待するだろうから」
「それではよい所まで出世できません」
「ただの家僕が手に入る情報を南条家が喜ぶとでも。そんなことは別の筋からすでに入手済みてこれからも途切れさせることは無い。
西条家に不利になることまで話せとは言わないのでそれなりの情報が欲しい。それなら柳田もある程度の地位から始められるだろう」
貴祥様が口添えをして下さったとしても、秘書の補佐ぐらいが限界だろう。
「では、晄様の望む情報を手に入れるために西条家に尽くしましょう」
「お前の時間が取れる曜日は?本家に勤めるのでは少々作法が足りない。卒業までここで鍛えてやろう。作法は乾から仕事のやり方は長門から学ぶといい。成績を落とすことも許さないからかなり大変だと思うがやるか」
「やります」
手土産を持ってきた乾が柳田に手渡す。
「夕食1人分増えても問題ないな」
「ありません」
「夕食を食べて帰るといい。乾柳田に作法を教えるように。乾の許可が出れば食事を一緒に取ろう」
今日から一緒に食べても俺は構わないが、乾から教わりながら食べる姿を柳田は見せたくないだろう。
「すぐにご一緒できるようにします」
真路を出た時とは全く違う顔つきをしている。
仕事をし始めた柳田に尊敬してもらえるよう俺も気を引き締めて頑張らなければいけない。




