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恋とか愛とか結婚とか  作者: 更西東花
第一章
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晄17歳 桃月-1

 いつものように柳田と約束をしたので特別室へ向かう。


 柳田は相変わらず一人では入れないようで、特別室の入り口で邪魔にならないように隅で待っていた。


「そろそろ中で待っていたらどうだ。従業員たちもお前の顔を覚えただろうから入れるだろう」


 度々2人で利用しているので、今では座れば2人分の珈琲と今日のお勧めの菓子が自動的に出てくるほどになった。


「覚えてくださって勧められますが入れません。従業員たちは待ち合わせだと思ってくださいますが、こちらにいらっしゃる方々はなんでいるんだと見られるので」


 それはどうしようもない。真家の者だけなら一度俺といるところを見たなら何も言わないと思うが、王家や武家の人間に真家の者の連れだというだけで、1人で堂々と座っていれば気に入らないと思われても仕方がないのかもしれない。


 もしかしたらこの場で待っているのさえ何か言われるのかもしれない。


 どうしようかと考えながら柳田を見ると柳田が考え込んでいるように見えた。


「何かあったのか?眉間にしわが寄っている」


「えっ?」


 柳田は指で眉間のしわを無くそうとこすって見るがすぐにまた寄ってしまう。


「必要な本がいつまでも返ってこず支障が出てきてしまっていて」


 はぁ~とため息をついて「どうしよう」と呟く。


「どんな本だ?」


「これなんですけど」


 柳田は数冊本の題名が書かれている控えを見せてくれる。


 どれも家にある。ここで飲んでも柳田が落ち着かないのなら一層のこと家で飲めばいいじゃないか。


「どれも家にあるから今日時間あるなら家まで一緒にとりに来るか。帰る前に貴祥様に資料を届ける必要があるが馬車で待っていればいいし」


「僕にこのような高い本を貸して頂けるのですか?それに僕が南条家や北条家を訪ねていいものですか?」


「どこの誰か知っているし、南条家に住んでいるものがいいと言うのだから問題ない。流石に北条家は立ち入れないので馬車で待っていてくれ。ここで落ち着かないのなら家で飲もう」


「せっかくの機会なので伺いたいです」


 本のことなど忘れて興味津々だ。


「じゃあこのまま行くか」


「あっはい」


 今日は柳田と約束があると言っていたので馬車があるか心配だったがいつもの場所に止まっていた。


「お帰りですか?」


 警備が俺が近づいて来たのに気が付いて尋ねる。


「あぁ、家でゆっくりすることになった。北条家に立ち寄ってから帰る」


「畏まりました」


 俺は警備が開けてくれたドアからさっさと馬車に乗り込むが、柳田がどうしたらいいのか分からず警備の者を尋ねるように見ていた。警備も判断に迷ったのか首をかしげている。


「柳田!何をしている早く乗れ」


 警備に聞かなくても俺に聞けばいいのに。ビクッとした後柳田がこちらを向いて不安そうにする。


「僕が乗ってもいいのですか?御者と一緒に乗りますけど……」


 自分の横を叩きながら「いいから早くこっちに乗れ」と苛立ちを隠さず言う。


 柳田はおどおどしながらも俺の横に腰掛け、小さな声で「おぉ~」と感動している。


 ドアも閉まり警備が御者の横に座り馬車が動き出す。


「晄様凄いですね。中こんな風になっていたんですね。椅子も柔らかい」


「他の馬車を知らないから凄さは分からない。貴祥様の方が凄いのは知っているが」


「貴祥様の馬車はこれ以上凄いんですか」


「北条家よりよい馬車には出来ないが、王家と比べたらどうだろう?外装はあちらは華やかだが中は見たことが無いしなぁ」


「ここで王家の方が出るのがやはり自分とは違うなと思います」


 その言葉に寂しさを覚える。違いを少しでも埋めたくて、本人の希望通りに本家に勤めさせたい。


柳田は院生で来年卒業だ。できれば自分の傍に置きたいが庶民の出の柳田を傍に置くのは難しい。かといってあまり目が届かない場所に行かれるのも嫌だ。


「柳田は本家にできるだけ勤めたいと言っていたが、伝手は出来たのか?」


「晄様以外で本家の方や勤めている人たちとは知り合えていません」


 俺以外に知り合えていないことに嬉しさが込み上げるが、柳田の希望を叶えるためには伝手が無いと厳しい。


 今言っていいものか悩んでいると北条家に着いた。


 警備がドアを開けてくれるのを待つ間に馬車から降りてうろうろするとは思わないが一応言っておく。


「ここで大人しく待っていてくれ。すぐに戻ってくる」


「はい」


 北条家の大きさに驚きキョロキョロと馬車から見ていたが返事だけはきちんとした。


 ドアが開いたので柳田の横を通り降りると警備は傍に立ち崎守がドアを開けていた。


「崎守わざわざ出てきたのか?」


「いえ、たまたま玄関にいましたら南条家の馬車が見えましたので。彼もご一緒ですか?」


「いや、貴祥様に書類を届けるだけなのでこのまま馬車で待つように言っている」


「貴祥様とお会いするなら時間が掛かってもいけませんので、玄関先になりますが飲み物でもお出ししますが」


 俺と同乗していたので気を使って言ってくれたのだろうがすぐに出るつもりなので必要ない。


「大丈夫だ」


「畏まりました」


 崎守から視線を外し、警備が空けておいてくれた玄関から中を見ると父が見えた。


 なんでこんな日に限って皆が玄関先に居るんだ。父は俺にはなにも声を掛けず歩いていく。只歩いて行った先が貴祥様の執務室なので嫌な予感がする。


「失礼します。貴祥様書類をお持ちしました」


「早かったな。予定があると言っていたからもう少し遅いのかと思った」


「諸事情で先にお届けすることにしただけです」


 案の定父が貴祥様の部屋に居てしれっと立っているので腹立つ。気になるのなら自分で聞けばいいのに。


「晄さっき南条から聞いたが、もう一人の特待生と仲がいいらしいじゃないか。今玄関に居るのだろう。せっかくここに来ているなら会いたい」


 貴祥様は俺のことは警戒するのに、幼い頃より頼りにしている父のことは警戒しないで受け入れてしまう。


葵様のことで随分頼ったようなのでそれも仕方がないのかもしれないが何とかして欲しい。今度それとなく言おう。


「畏まりました。ではこちらにお連れすればよろしいですか?」


「いや、ここに入れるのは問題があるな。僕が玄関まで行こう」


「では一足先に伝えに行かせて頂きます」


「崎守に頼めばいいぞ」


「いえ、貴祥様にお会いするのですから、自分から注意しておきます」


「ふ~ん。じゃあ少ししてから行く。南条もせっかくだから会うか?」


「そうですね。私が会うと彼も緊張するでしょうから陰から様子をうかがうだけにします」


 にこやかにして誤魔化しているが、わざわざ隠れてでも見ようとしているのだ。気になって仕方ないと言っているようなものだ。


「では一旦失礼します」


 部屋を出るとできうる限り急いで馬車に戻る。警備が驚いて立ち上がってこちらを見るが気にせずドアを開ける。


「ひやぁ~。……晄様でしたか。急に開いたので驚いて……」


 柳田は俺が座っていた場所に座り窓にくっつくようにしてこちらを見ている。


「特待生のお前に貴祥様がお会いしたいと」


 乗り込みながらドアを閉め柳田のすぐ傍に座る。


「むっ、無理です!」


 首をぶんぶんと横に振って泣きそうな顔をして抵抗する。


「無理でも何でも会わずに帰ることはできない。玄関先で少し話をするだけだ。緊張していると伝えても構わない。


丁寧に質問に答えればいい。礼儀作法は立ち話だし庶民だと知っているので何も言われないだろう。後はなるべく平気な顔をしろ。無理なら何を言われても表情を変えるな」


「表情を変えない」


「そうだ。まずないが腹が立つようなことを言われても動揺するようなことを言われても顔に出すのを極力避けろ。できるな」


「分かりました。嫌いな先生の前にいるつもりで対応します」


 柳田はすっと表情を消す。よほどその先生のことが嫌いなのだろう。俺が考えたよりもずっと上手く感情を消している。


「それでいい」


 ドアをノックする音と崎守の「貴祥様がもうすぐ来られます」の声が聞こえた。


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