玲8歳 椿月-2
私がミルクを飲み終わるのを待って大広間へ移動する。
今日はいつものお部屋は綾の私室にあたるし、人数が多すぎるので入りきらないので大広間ですることになった。
馨と一緒に大広間に入ると注目を集めてしまい、それだけで倒れそうになる。
馨に手を繋いでもらって部屋に入るとそれだけでお父様とお兄様が睨んでいる気がする。
お父様達がいるほうに他の当主の人たちもいるので見ることは難しい。
綾達の方を見て真っ直ぐ向かう。
「玲様今日のお召し物は可愛いですね」
綾がすぐに褒めてくれる。葵は大勢の大人が居るので緊張してしまっているように見えた。
このあと当主たちに挨拶をしなければいけないのでそのせいもあると思う。
私が腰掛けると待っていたかのように貴祥様から当主達への挨拶が始まった。
貴祥様やお兄様は流石で言いよどむこともなく、挨拶以外でも話を少ししながら笑顔でこなしていく。
綾は当主達にも臆することなく優雅に挨拶して、葵は教えられた通りの挨拶だけど問題なく挨拶して終わった。
とうとう私の番となり馨と一緒に当主達の前に立つ。
最初は貴臣様と皋様なので問題ない。
「本日はこのようなお茶会にお招きいただきありがとうございます」
「最近皆と食事もとれることが増えたようで嬉しい。今日は楽しんでいってくれ」
「玲様また一緒にお食事を取りましょうね。私との小さなお茶会も来てくれると嬉しいわ」
「はい、体調が良い時にぜひご一緒したいです」
にこっと微笑めば貴臣様達の挨拶は無事に終わった。次は馨だ。
「本日は私までお招きいただきありがとうございます」
「玲の頼みは断れんから招いて当然だ。玲のことをちゃんと見ていなさい。後でいろいろ言われても気にするな」
「馨も玲様と一緒にお茶会に来てね」
私が馨と一緒でないと行かないのを分かっていて皋様は馨も来るように言った。
「お気遣いありがとうございます。そうさせて頂きます」
後で何を言われるのか私には分からないけれど馨は気にする様子もない。
次は東条様だとお父様が教えてくれた。東条様は代替わり中で現当主と次期当主がいらっしゃるそうだ。
「初めまして南条玲です。今日東条様方にお会い出来て嬉しいです」
ジロジロと見られている気がして本当なら別々に挨拶するべきなのだろうけどいっぺんに済ませてしまう。
現当主には驚かれたが、早く済ませたいので気にしないことにする。
「初めまして玲様。当主の東条彰紀だ。ようやく会うことが出来て嬉しいよ。いつまでたっても北条家も南条家も隠してしまって会わせてもらえなかったんだ。こんな可愛らしい女の子なら余計に早く会いたかった」
「別に隠していたわけではありません。玲の体調がすぐれないことが多く、ベッドから出ることも出来ないほどの日が多いので会わせられなかっただけです」
馨が私の替わりに言ってくれるけど東条様は不機嫌になっただけだった。
「ベッドから出られない日の方が多いなどと嘘を言って。そもそもお前がこの場にいていいはずがないだろう。玲様との話に割り込んできて。さっさと部屋を出て行きなさい」
貴臣様が言っていたのはこのことか。
「馨は私がお願いして一緒に来てもらったんです」
急いで私のお願いであることを伝える。
「幼い玲様に無理を言って同席させてもらったのか。両親が末席だったのでそれにしがみつきたいのだろうが、お前はすでにただの庶民なのだろう。
いくら玲様の願いでもお前を真家にしないのだから早く玲様から離れろ。玲様顔だけで選ばれたのでしょうが、それなら葵でも成長すれば彰啓でも傍に居させますので、早くこの男を傍に置くのを止めなさい」
どんなに失礼であろうと馨のことを悪く言う人とこれ以上話したくない。
私は黙ってその場を離れたがお父様は何も言わなかった。
次期当主の方も横で聞いていたのでお辞儀だけで済ます。
馨が先ほど挨拶できなかったのでしようとしたら、それを遮るように話し始めた。
「僕は東条彰吾。葵の送り迎えでよく北条家に来ているが会えなくて残念に思っていたんだ。今日会えて嬉しいよ」
この人も馨のことを邪魔だとでも思っているのだろう。馨と話したいと思っていない。
馨のことを無視する人とも話す必要が無いのでそのまま通り過ぎてしまう。
まだなにか言いたげだったのをお父様に止められてしぶしぶ諦めたようだった。
次の方に行くまでに馨に「大丈夫?」と聞かれたが正直大丈夫じゃない。
それでも挨拶しておかなければまた会いたいと言われるに決まっている。
次の西条様はにこやかに私を迎えてくれた。
「初めまして南条玲です。お目に掛かれて嬉しいです」
「ようやくお会い出来ました。西条信哲と申します。うちの息子は貴祥様より年上でギリギリ成人もしていないから今ここには出席出来ていないが部屋の外には来ている。後で見かけたら挨拶を許してくれないか」
「お見かけしましたら挨拶させて頂きます」
「ありがとう」
「初めまして西条朔良です。こんな可愛らしい女の子なら私も欲しかったわ。うちの息子は図体ばかり大きくなってすっかり可愛げがなくなったから寂しくて。姉の小百合は美人だと思うけどすっかり口うるさくなって可愛げが無くて」
「朔良自分の子の愚痴を神子様に言ってどうする。うちの子たちは美人だが可愛げとはさっぱり縁がないようだ。もう一人産まれていたとしても可愛らしさはないと思うぞ。それこそ玲様の隣にいる男?……」
「申し遅れました橘馨と申します」
「馨?名前を聞いてもどちらか迷うな。彼のようなら可愛らしいがうちの子では無理だと思うぞ」
「そうねぇ。小百合のようなお転婆な女の子しか想像できないから諦めるしかないわねぇ」
なんだか面白いご夫婦だ。息子さんも後で会えたならご挨拶しよう。
「長く引き止めてしまったな。体が随分弱いと聞いている。いつまでも立ち話をして倒れてはいけない。綾様達の所でゆっくりするといい」
そう言って西条様は私を解放してくれたので助かった。
東条様との会話で疲れていたのでもう座りたくてしょうがない。
お兄様がいつの間にか傍に居て、私を抱き上げて綾の所まで運んでくれた。流石にお兄様は鍛えているので、抱き上げられても馨より安定感がある。
馨が椅子を引いてくれお兄様に座らせてもらう。挨拶も終わったし綾達の傍に戻ったことで随分と気が楽になった。
「玲僕は貴祥さん達と話してくるから何かあったら呼んで」
馨は心配そうに私を見ているけど、後は綾達と話していればいいのでなんとか乗り切れると思う。
佳那がすぐに紅茶とクッキーを出してくれた。温かい飲み物や甘い食べ物が私をほっとさせる。
綾と葵が「流石に当主が揃うと緊張するわね」とか話しているが、声がどんどん聞こえにくくなっていく。
もそもそとクッキーを食べていたけど、1枚食べるとそれ以上食べられそうもなかった。
次第にくらくらとして声も聞こえなくなり座っていることさえ辛くなっていく。
少し離れていたところで馨が貴祥様に声を掛けてこちらに来ているのが見えた。
「佳那さんいつものミルクを!」
ざわざわとあちこちで話していても馨の声はよく聞こえた。
傍に来た馨にしがみつく。
「馨」
「玲大丈夫。すぐに受け取る」
私はすぐに口から力を受け取ってもらい、馨に抱きしめられたまま気を失った。




