玲8歳 椿月-1
馨が来てから寝込むことも減りごはんも食べられる量が増えてきて佳那もお父様もお兄様も喜んでくれていた。
私も嬉しかったのにこんなことになるだなんて。
「少し元気になってきたみたいだから玲にお願いがあるんだ。貴臣様以外の当主の人たちが玲に会いたいってずっと言っているんだ、挨拶だけでも会ってみないか?」
「どうしても?」
当主と言われているからお父様や貴臣様と同じぐらいの年齢の男性だ。
お兄様や貴祥様は怖くないけど、貴臣様は少し怖い。知らない男性は怖くて会いたくない。
でもお父様がお願いするぐらいだからお断りするのは難しいのだと思う。
「そうだね。先延ばしにすることは出来ても、いつかは会わないといけないよ」
「……なら馨と一緒なら会います」
馨が居てくれれば何かあっても対応してくれると思う。
お父様は当主と会うのに馨と一緒なのが気に入らないのかしばらく考え込んだ後「玲がそう言うのなら」と許可してくれた。
馨が学院から帰宅したのですぐにお父様からのお願いを話そうとしたら先に馨に聞かれてしまった。
「玲今日なにかあったの?なんだか落ち着かないけど」
馨とは初めて会った時よりもお互いのことが分かるようになったのでそのせいだろう。
「馨お父様から貴祥さま以外の当主の人たちと会って欲しいって言われたの。今断っても先延ばしになるだけでいつかは会わないといけないって言われて、馨と一緒ならいいって応えたんだけど……」
それを聞いた馨は考え込んでしまう。
「今でもこんなに落ち着かないなら当日はもっと不安になる可能性が高いよね。当日最悪玲が倒れそうになったらみんなに知られてしまってもするけどいい?」
「それは馨がその方がいいと思ったのなら私はいいの」
「本当なら話したほうがいいと思うけど、渚様が激怒しそうで言い出せない。怒って話を最後まで聞いてもらえる自信がないし、はっきり分かるまで出来るだけ先延ばしにしたい。できたら知られずにいたいけれど、多分それは難しいんだろうな」
「今度知られてしまってお父様が怒って馨を追い出そうとしても私が止めるから、絶対に離れることを許さないから」
私は馨にぎゅっと抱きついた。馨がどこかに行くだなんて絶対に嫌だ。
私がお願いしたことで叶わなかったことが今までないので、馨のことも許してもらえると思う。
「出来るだけそうならないようにしよう。当日の朝出来るだけのことをして後はその場になって考えよう」
いつも落ち着いている馨の落ち着かない様子に不安になってくる。
知られてしまったらお父様もお兄様も激怒しそうだし、お母様は悲しまれそうだ。
私の為にしてくれていることでも許してもらえないかもしれない。
2人共離れたくなくて皆に言い出せないでいる。いつも傍に居る佳那でさえ部屋から出て行ってもらっているぐらい。でももう話さないといけないのかもしれない。
そう思っていたのに話せないまま当主たちと会う日がやって来てしまった。
お父様は私を心配してお茶会の延長だと思えるよう、綾や葵、貴祥様も招いて大人たちのお茶会に子供たちも一緒に招いてもらったことにしたらしい。お茶会の前に当主たちに挨拶をすれば、あとは綾達と話すだけでいいようにしてくれた。
私にとって綾達がいるのは嬉しいけど、人が増えることで不安になるしで、よかったのか悪かったのか分からなくなっていた。
佳那に失礼が無いよう外出着のシェルピンクのワンピースを着せてもらう。
襟元にボルドーの細いリボンと全体に花のレースで大変可愛らしい。
今日でなければ着られたことが嬉しかったのに。
とても残念に思っていると、様子を見に来た馨に「玲可愛い!」と言ってもらえて気分が良くなる。
「暖かくなってからだけど、その服でお散歩したりしたら楽しそうだね」
このお洋服で馨とお散歩!凄く楽しそう!
「馨ももちろん一緒にお散歩してくれるでしょう?」
「もちろん。僕も玲に合わせてお洒落に着てお散歩しようか。今日はそれを楽しみに乗り越えよう」
馨が来て部屋の外に出ることは増えたけど、庭には眺めるだけで出たことはほぼない。
皆の思う散歩とは違うけど、少しお庭を歩いてサンルームでお茶するぐらいならできそうな気がする。
「早く今日が終わればいいのに」
これからのことを考えただけで緊張してしまう。
馨も私のが移るのか緊張してしまっているようだ。
「佳那さんいつものミルクをお願いします」
馨が佳那を部屋から出るようお願いして2人きりとなる。
「これで終わるまでもつといいけど」
今はまだ平気だけれど、当主達の前に立つとどうなるか私にも分からない。
佳那が持って来てくれた蜂蜜入りの温かいミルクを飲んで温まる。温かいものを飲まないと芯が冷えている感じが消えなくて熱が出てしまったことがあるので飲まないわけにはいかない。
これからお茶会になるのでいつもより少ない量しか飲めないけれどすぐにお茶を飲むだろうからこれで十分。




