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恋とか愛とか結婚とか  作者: 更西東花
第一章
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馨12歳 桃月-1

 家僕に呼ばれて玄関に向かうと、有無も言わさず馬車に乗せられ北美(きたみ)百貨店に連れて来られた。

 

 北美百貨店は高級な物しか扱っていないので、お母さんがいつかここで買い物がしたいと言っていた場所だ。王都でも大きな建物になり、庶民では近づくのも出来ないという者がいるぐらいだ。


 初めて入る北美百貨店にドキドキしていたのに、中をうろうろしないでお得意様だけが使える部屋へと通された。


「時間がありませんので早速寸法を測らせてください」


 中には椅子もあったが、座る暇もなく採寸が始められる。急なことで抵抗する暇もなく、されるがままになりながら「洋服を作る予定はありませんが」となんとか言ってみる。


 彼女は僕を見ることもなく「真路の制服を急いで用意する必要があります」と忙しくあちこち測りながら答える。


 忘れていた。真路では制服を着なければいけない。入学までにそんなに日もないので間に合うのだろうか。


「入学までに間に合いますか?」


「制服はある程度既成の物がありますのでそれを直します。今度仕立てられる際は一からお作りすることをお勧めします」


 僕は中等部なのでこれからまだ身長は伸びるだろう。ゆっくり目の大きさで制服も仕立てるので直しで問題ない。高等部になって成長が止まっていれば一から作ってもいいが、その分お金もかかるのでやはり直しでお願いする気がする。


「これですべて測り終わりました。あと顔を隠すために眼鏡を作るように言われておりますのでいろいろ試してみてください」


「眼鏡ですか?」


「今は前髪で見えづらくしているようですが、眼鏡の方が雰囲気を変えられます。前髪はあげてしまいましょう。こちらで固めてあげて顔を見せるようにしましょう。


隠されれば見たくなりますが、見えていれば見ようとしなくなるはずですが、橘様では気休めにしかならないかもしれません」


「気休めでもジロジロ見られるのが減るのであればいいです。眼鏡はきつそうな雰囲気になる物にします。冷たい人間だと思ってもらって近づかないようにできれば嬉しい」


「ではこちらがお勧めですね」


 彼女に勧めてもらったすっとしたのは横長で銀色のフレームだった。眼鏡を掛けて見て表情を消すとかなり冷たい印象になった。


「これはいいですね。これにします」


 着いてきてくれた家僕もいいと言ってくれたのでこれに決めてしまう。


「支払いはどうしたらいいのでしょうか?」


 何も聞かされずここに来たのでお金の持ち合わせはないし、例え持っていたとしても制服と眼鏡を買うお金など持っていなかったと思う。


「馨さんは特待生で南条家が身元引受人です。南条家で支払いますので安心してください」


 制服は分かるが、眼鏡まで含まれるとは思えないけど支払えないと困るのでお願いする。


「ありがとうございます」


「それは私にではなく渚様にお願いします」


「そうですね。帰ったらお礼を言っておきます」


「では帰りましょう」


 せっかくなら北美百貨店を見て廻りたかったが、お金がないので買えないし、家僕が僕をさっさと馬車まで案内してしまったので諦めて帰宅した。


 渚様がお手すきの時を待ってお礼を言おうと思っていると、渚様が玲の部屋を尋ねてこられた。僕のことなど視界に入れず玲との話をしていたが、一区切りついた時にお礼を言う。


「今日制服の採寸に北美百貨店に行きました。眼鏡まで用意してくださりありがとうございます」


「当然のことでお礼を言われるようなことではない」


 ついさっきまで楽しそうに話していたのに、きりっとした顔になるので流石だ。僕もこれぐらい切り替えができるようになりたい。


「馨制服を作ったの?眼鏡も?」


 玲は体が弱すぎて真路に通うことが無いので制服も持っていない。


「そう。既成の物を直すから今からでも入学式に間に合うって聞いて安心した。眼鏡は顔を隠すのに使うように言われたんだ」


「真路では制服を着るのね。馨の顔を隠すのはもったいないと思うけど」


 玲は僕の顔も好きだと言うので、学校では隠すように下ろしていたのを左右に分けている。これから髪を上げるようにするなら前髪を伸ばしたほうがいいだろう。


「馨は美人だから隠しておかないと変な争いが出来てもいけないから隠すんだ。玲は馨が他の真家の者に目をつけられて嫌な思いをしたりしてほしくないだろう」


「それは嫌だわ。本家の人はいいけど、その他の人たちには馨の素顔は内緒にする?」


「玲がそれを望むならそのように」


 玲が望むなら玲以外では見せないのでもいいが、北条家も南条家の方々にはすでに見られているし、目も悪くないのに家でまでかけ続けるのは面倒くさい。


外出時は掛けるというのはちょうどいい気持ちの切り替えになるので玲の要望に沿うのは難しくない。


「制服が届いたら着て見せてね。あっ眼鏡も掛けて」


「一番に見せるよ」


「絶対よ」


「分かっている」


「馨少し席を外してくれないか。忙しい時間をぬって玲に合いに来たんだ。2人でゆっくり話がしたい」


 本人は玲に分からないように穏やかに話しているつもりだろうが、声にとげがあるのを隠せていないし僕を睨みつけている。


「畏まりました」


 ぐずぐずして渚様の機嫌を余計に悪くさせてはいけない。玲とは後で話す時間もとれるのですぐに席を立つ。


「馨後でね」


 玲もそのことは分かっているので引き止めたりせず解放してくれる。渚様に睨まれた気がするが見なかったことにする。


 玲に微笑みかけて答え、いつもなら内ドアから部屋に戻るが、南条様の手前廊下にいったん出てから自分の部屋に戻る。


 しばらく楽しそうな話声が聞こえていたが、忙しい渚様は長くは話していられなかったようだ。渚様が部屋を出られたのを玲が内ドアから顔覗かせて知らせてくれたので玲の部屋に戻る。玲に尋ねられることに答えながら夕食までの時間を過ごした。


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