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恋とか愛とか結婚とか  作者: 更西東花
第一章
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馨12歳 桃月-2

「私玲様に先を越されてしまったわ」


 小さな声でボソッと呟かれたが、ちょうど皆が黙った瞬間だったためとてもよく響いた。


「綾、玲はまだ決まった訳じゃない」


「そうよ綾。貴祥にしてもとても早くに見つかっただけなの。普通は早くても中等部で気が付くのよ。初等部の頃なんて気になり始めるぐらいでまだまだ対だなんて思ったりしないわ」


「そうです私たちもですが、凛様も高等部に入学してから穂高(ほだか)様と出会ったんですから」


 なぜ急に凛様や穂高様という人の名が出てきたのだろう。


「綾様のお母様は皋様ではないのですか?」


 僕が尋ねるとしょんぼりしたままの綾様をどう慰めるべきか困っていたのかすぐに答えてくれた。


「綾は北条でも舞姫が母親になるの。私の子は貴祥だけよ。綾は凛が地方に行くことが多いので凛の替わりに私が母となって育てているの。ずっと次期舞姫は北条当主の妻が母親代わりで育てているのよ」


「では貴祥様と綾様は兄弟ではないのですね」


「血筋で言うなら兄弟ではないけれど、一緒に育つ兄弟よ」


「雰囲気が似ていらっしゃるから気が付きませんでした。そう言われてよく見れば顔立ちも違っていますね。貴祥様は貴臣様によく似てらっしゃいます。綾様は凛様を知らないので分からないですが、綾様は素敵な女性になるでしょうから、これから出会う男性は幸せですね」


「そう思う?」


 綾様は少し機嫌を直されたのか顔を上げ僕を見る。


「えぇ、もう僕は心を動かされませんが、それを残念に思うぐらい美しい方だと思います。これから綾様はますます美しく素敵な女性になられるでしょうから、これから対となる男性が羨ましいです」


 高嶺の花すぎて家族以外の男性から言われたことが無いのだろう。僕が言うことに耳を傾けてくれる。


対とはそんなものだと思っているのか、心を動かされないと言ったのに気にされる様子がない。


「そうだといいけど。ねぇ、お兄様みたいにすぐに分かるかしら?玲様は私に教えたら上手くいかないからって教えてもらえないの」


 機嫌が直ってきたが、口をほんの少しとがらせ拗ねる。


「それは綾様に対と上手くいって欲しいから言わないのでしょう。綾様は玲のとても大切な友人だと聞きました。玲は綾様の幸せを願っているはずです。


玲もですが綾様も舞姫としてではなく綾様自身を好きになってもらいたいのではないですか?」


「そうね。舞姫だからではなく私自身を好きになって欲しいわ」


「それにこの人だと言われると本当に自分が好きになったのか、言われたから好きになったのか悩んで、好きになるのを止めてしまうのではないですか。だから玲は綾様に何も言わないのではないでしょう。


でしたら綾様もこれから出会う人にいいなと思われる方がいないか気にされるようにされたらどうでしょう。ただ会うよりその方が早く気が付きそうです」


「そう、よね。私が好きにならないと対じゃないわよね」


「はい。貴祥様のようにすぐに気が付く恋もあればゆっくり育てる恋もあっていいと思います。綾様が読まれた恋愛小説に両方なかったですか?」


「あったわ。……そうよ、すぐに分からなくてもいいのよね」


「はい。共に歩きたいと思えばすぐに気付いてもゆっくり気付いてもどちらでもかまわないと思います」


「馨と話せてよかった。すぐに気が付かなかったら対じゃないと思い込んでいたから、そんな人いないからどうしたらいいのか分からなくなっていたの」


「綾様はゆっくり気が付くのかもしれませんね。傍に居て心地よいと思えば対かもしれないと何度か会ってみるといいと思います」


「そうしてみるわ」


「馨は恋愛に詳しいのか?綾があっという間に機嫌を直してしまった」

 

 貴祥様は目を真ん丸にして驚かれる。


「僕はこんな顔なので女の子が相談しやすかったのと、こんな顔でも男なので男にまで相談されて随分橋渡しをしたせいでしょうね。女の子たちに恋愛小説も貸してもらって読みましたし。


最上では結婚は小学校でも身近です。最上では男も高等部に入学しない者もいます。女の子では学歴は要らないと大半が中学までです。中学を卒業すれば働きに出ますし、女の子は婚約もなく結婚していきます。


対もいませんから家の都合で結婚相手が決まったりしますし、少しでも良い所に嫁ぎたいと女の子は早くから気にしています。


恋愛小説のような恋愛に憧れますが現実を見て相手を探します。対を探せる真家の方がはるかに恋愛が出来ているのではないでしょうか」


「真家では女性も高等部に入学させるし、結婚を先にしてもできるだけ卒業させるからな。対に重きを置いているので少し遅くなっても大丈夫だが、庶民はさっさと結婚していくのか。馨はそんなに相談されたりして女の子と仲良くなったのなら結婚したいと言われなかったのか?」


「高学年になり気になり始める年になると僕は男女とも抜け駆け禁止になったようです。まるで共有物で鑑賞物のようでしたね。おかげで身の危険はぐっと減ったので助かりましたが」


「それは恋愛対する憧れが無くなりそうだな」


「誰にも興味を覚えなかったので問題なかったですね。結婚は両親のような結婚が出来ればいいとは何となく思っていましたが」


「そういえば馨の両親はどんな両親だったんだ?」


「父は末席の家で次男で家を出なければいけませんでしたので末席でもギリギリの家になります。母は中席でも上席に近かったので、対だと言われても反対されました。


それを押し切って結婚したのでほぼ縁を切られました。父もギリギリの人間に親しく付き合おうとする親族もなく2人でお互いの仕事を尊重しながら暮らしていたんです」


「本家の女の子は分家に嫁ぐと幼いころから教え込むので抵抗がありませんが、よくお母様は中席から末席の家に嫁ぎましたね?」


 皋様が言われたが樹様も気になるのか僕の答えを待つ。


 両親や兄弟と対等には付き合っていけないので、家柄が落ちるのは大変なことなのだろう。


 皋様や樹様は家柄が上がったのだろうが、それはそれで大変なことがあると思う。


「母は対だということもありましたが、自分の仕事を尊重してくれたので結婚したと言っていました。とても好きでしている仕事でこれからもずっとしていきたいと。


おかげで途切れることなく仕事がありましたし、父も父の会社がリテリア国の自動車を早くから研究を始め、父も頼りにされる人間だったようです。それが親族に知られると近寄ってきましたから。


父の方はお金目当てに、母の方は上手くいけば引き入れて自分の物にしたいと思ったのでしょう。僕が住んでいた家は何もやらないと言っていたのに、母の親が遺産代わりにと建ててくれたものですから。予算目一杯か超えるほど希望を詰め込んで建てたと言っていましたから」


 それでも足りなくて自分たちで貯めていたお金も使ったので家にお金が無くなり、母親から奨学金を受けるように言われ、せっかくだしと僕は駄目もとで特待生の試験を受けた。


 それなのに亡くなった後貯金がそれなりにあって驚いた。奨学金の資料と一緒に特待生の資料もあったので、母は最初から特待生を受けさせるつもりだったのかもしれない。費用のためでないのなら、本家に保護を求める意味合いが強かったのだろうか。


「遺産のことで親族ともめていたと言っていなかったか?」


 貴祥様が思い出したように聞かれる。


「家に乗り込んだのは父方の親族で、両親が死んだのを聞いた母方の親族は家や土地はやるから世話もしてやらないし、二度と金の無心に来るなと言われました」


「そのことを南条に説明しているか?」


 そういえば言っていない。書面があるから大丈夫だと思っていた。


「忘れていました。親族に家と土地をやる代わりに二度とお金を要求しないという書面に名前を書かされて、その控えは持っているのでそれで大丈夫だと思っていました」


「後でその書類を見せてくれ。南条に念のため確認させて、問題があれば対応してもらうから」


「分かりましたすぐにお見せします」


「思ったより長く話し込んでしまった。そろそろお開きにしよう」


 貴祥様が終了を告げると、皋様も同意された。


「ほんと綺麗な馨さんも見られたし、楽しくお話もできましたし、馨さんも身の回りの整理をしなくてはいけないものね。またお茶会しましょうね」


「では僕は失礼します」


 今日はびっくりするほど話したので疲れた。


「馨先ほど言っていた書面は高城が一緒に行くから渡してくれるか。馨は片付けをして時間があれば佳那と玲のこと相談してくれ」


「分かりました」


「綾も夕食まで勉強しないといけないわよ。それも素敵な方を知り合うのに必要なことよ」


 すっかり機嫌が直っていたのに、皋様に言われまた機嫌が悪くなる。


「分かっています。本家の人間として恥ずかしくない成績を取らないよう勉強します」


 綾様はしぶしぶ立ち上がり部屋に戻られるために僕と部屋を後にした。


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