馨12歳 桃月-2
全員が僕の方を見つめる。高城さんに言われた通り挨拶をする。
「特待生となり南条家に引き取られました橘馨と申します。よろしくお願いします」
深々と頭を下げたのに誰も何も言ってくれない。まだ来たばかりなのにもう失礼なことをしてしまったのかと焦る。
「本当に美少女だなぁ」
少年のつぶやきが聞こえ頭を上げる。
声を出してしまっただろう少年が名乗ってくれた。
「僕は北条貴祥。南条が彼なのに美少女だと言ったから信じられなかったけど、こうやってみると本当に美少女だ。両親も美人だったのか?」
貴祥様は僕に近づいてまじまじと見ながら聞いてくる。
「どうでしょう。家にいた女中さんに言わせると、両親とも3学年に1人はいるぐらいの美人だったそうですけど、僕はその両親のいいとこ取りだそうです」
一度世津さんがそんなことを言っていた。両親は部分的にみると欠点が見つかるので親しみを感じるけど、僕は整いすぎていて親しみを覚えにくいと。美人過ぎて危ない人間を惹きつけるとも言っていたが。
「それは両親がすでになかなかの美人の上にいい所取りは相当美人だと思うけど」
「貴祥様は男前で僕は羨ましいぐらいです」
貴祥様はお父様に似ていて、将来顔立ちの整った貫禄のある人間になりそうに見える。
「それは女に見られないから羨ましいだけだろう」
「……そんなことはありません。この顔は今の所面倒くさいことが多いので」
「女が聞いたら嘆きそうなことを」
そう言われても身の危険を感じるほどの美人は要らない。
「息子が失礼なことを言って悪いな。身の危険を感じるほどは本人でないと分からないのだろう。許してやってくれ。私は北条貴臣だ。君が中等部で特待生となれたと聞いて会ってみたくて。美少女だとも聞いていたし」
渚様も余計なことを伝えなくてもいいのに。睨みつけたくなるのをぐっとこらえる。
「美少女でしたでしょう。ほら晄玲が傍に居て欲しいと願ったのが分かるだろう?」
渚様は誰も異を唱えなかったので満足そうに微笑みながら近づいて来た。会ってからずっと睨みつけている少年の方を見てにやりと笑う。
「顔がいいだけじゃないですか!」
そう言われてもなぜ玲が僕にいてほしいと願ったのか聞いていないので反論のしようがない。例え顔だけで気に入られたのだとしても離れるつもりはないが。
僕が反論しなかったことで余計に怒らせたのか、先ほどより目つきが厳しくなる。
「息子がすまない。玲の傍に男がいることが嫌なんだ。もちろん父親として玲に何かすれば即座に叩き出したい気持ちはあるが、玲が傍に居て欲しいと望む限り叩き出したいたりはしないつもりだ。
玲のことも含め詳しい話は玲と会ってから晄にさせる。玲がずっと待っていたから先に会うように。晄挨拶しないか」
「玲の兄の南条晄だ。まだお前のこと認めたわけじゃないからな!」
最悪兄に認められなくても、玲が居て欲しいと望めば置いてもらえそうなので、兄のことはゆっくりでもいい気がする。
「分かりました。もう玲に会いに行っても構わないでしょうか?」
「なにが分かりましただ!それに玲のこと呼び捨てにするな!」
掴みかかろうとしたのか、一気に間を詰められそうになり焦る。後ろの大きく下がり捕まれるのを避ける。
「晄いい加減にしろ!玲が会いたいと望んでいるのは知っているだろう」
渚様が晄さんを羽交い絞めにして動きを制限する。
晄さんも動きが早かったが、それをすぐに止めた渚様も凄い。高城さんは晄さんを止めるべきか僕を離すか迷って結局何もできなかったようで、変な態勢で固まっていた。
玲のことを出されて晄さんは大人しくなった。それを確認して渚様が晄さんを自由にする。
「玲が待っているから行くぞ」
「では俺たちは仕事に戻るか。貴祥は年が近いから話が一通り終わってから聞きたいことがあれば聞けばいい。それまで勉強でもしていなさい」
「分かっています。馨後で」
皆があっさりと興味を失い立ち去るのを不思議に思いながら見つめていると晄さんが話しかけてきた。
「本家では玲のことは最優先になる。お前のことは気になるが、玲を差し置いてあれこれ聞いたりはしない。なぜ最優先なのかは後で説明する。玲は産まれてからずっと体が弱く大人しくしていなければいけなかったんだ。
外出もお前と会った時が初めてで、帰ってから案の定寝込んでしまった。最近になってやっとベッドから出られるぐらいになったんだ。どんなに玲が望んだとしても、驚かせたりして体調を悪化させるようなことはするなよ」
「あの時が初めてですか!?5歳ぐらいだとしても遅くないですか?」
体が弱いならあまり外に出ないのは不思議ではないけれど、5歳まで全く出ていないのはよっぽど体が弱いのだろう。
「玲は7歳だ。体が弱くて少ししかごはんも食べられないから体が大きくならないんだ。俺が心配するのは普通のことだろう。それなのに玲はお前を傍に居させたいだなんて」
「7歳……それは心配ですね、何がいけないのか分からないですが気を付けます」
「とりあえず静かに会ってくれればいい」
「分かりました」
年が離れているから余計に心配なのだろうと思ったが、体が弱い事の方が大きいみたいだ。
晄さんは2階にあるドアの前で立ち止まる。
「ここが玲の部屋だ。佳那連れて来たぞ」
佳那さんは確か玲と一緒に来ていた人だ。中からドアを開けてくれ顔を覗かせると、やはり玲を庇った女性だった。
「晄様。玲様がずっと今か今かと待っていらっしゃいましたよ。お久しぶりです」
佳那さんは僕を見て軽く会釈してくれた。僕も軽く会釈したが、それよりも玲に会いたい。
晄さんを押しのけてでも会いたいのをぐっと我慢する。
大きく開いたドアから玲が見えた。あぁ、あの日別れてからずっと会いたかった。玲が僕に気が付いて微笑んでくれた。それだけで泣きたくなるぐらい嬉しい。
「玲朝は元気そうだったけど、体調はどう?」
「大丈夫よお兄様」
玲は晄さんに答えるがちっとも晄さんの顔は見ていない。僕の方しか見ていないことに気が付いた晄さんが悔しそうにしているが僕は一直線に玲の元へと急いだ。




