馨12歳 桃月-1
孤児院に朝早くから馬車がやって来た。皆は何事かと窓から馬車を見に行ったが、僕は移動の準備をしなければいけない。
荷物はまとめてあるが、最後まで使うものを纏めなければいけない。机や棚などに荷物を残していないか確認しながら纏めていく。
「馨どこかへ行っちゃうの?」
一番懐いてくれていた美幸が涙を浮かべながら聞いてくる。
「ごめんね、一緒に住もうって言ってくれる人がいたから行かないといけないんだ。美幸もいい所に行けるといいね」
美幸は僕にしがみついてとうとう泣き出してしまった。
「いっちゃいや。美幸のいい所は馨の所だもの」
「ごめんね美幸には他にきっといい所があるよ」
僕はもう玲の傍に居ると決めてしまった。僕が傍に居てやることはできない。
「美幸駄目じゃないか。馨は行かないといけないんだ。これまでも出て行ったのはいただろう」
見送りに来てくれた浩紀が美幸を僕から引きはがそうとしてくれるが、美幸は離れてくれない。
「いや!私馨のそばにいる!」
「美幸いい加減にしないか!」
力ずくで美幸を僕から引きはがし叱りつける。美幸が大泣きをして困っていると浩紀が美幸を抱き抱えたまま顎をしゃくる。
「こっちはいいからもう行け!お前がここに居たらいつまでも美幸が泣き止まない」
「すまない浩紀。美幸もごめんね。2人にもいい所が見つかりますように」
僕は2人を置いて後ろを振り返らず玄関へと向かった。
後ろでは美幸の泣き声と浩紀の怒りながらも慰める声が聞こえるが僕は彼らの元にはいられない。
振り切るようにして玄関まで行くと孤児院長と男性が話していた。
「馨待っていましたよ。南条家からお迎えが来ていますよ」
男性が頭を下げたことでこの馬車が僕の迎えだと知った。
「場所さえ教えて頂ければ歩いていくつもりだったんですが」
「そのようなことはさせられません。馨さんは南条家に引き取られました。南条家が迎えた人にそのようなことはさせられません」
よく見ると玲と会った時に南条様が連れていた男性だった。
「先日渚様と一緒に居ましたよね?」
「覚えていてくださいましたか。私は高城と申します。渚様の警備によくついていますので会うことも多いと思いますお見知りおきください」
「こちらこそよろしくお願いします」
「では馬車に乗ってください。皆さんがお待ちです」
待たれるような人間ではないのだが、待ってくださっているものを待たせるわけにはいかない。荷物は高城さんに運ばれ馬車へと積まれた。急いで孤児院長に短い間だったがお世話になったのでお礼を言い馬車に乗り込んだ。
馬車はすぐに出発し孤児院を後にする。街中をどんどん進みこの街で一番大きい神殿の方に走っていく。本家の方の家は神殿のそばにあると聞いたことがあるが、実際に近づいたことが無かった。思っていたよりも大きな建物が並んでいる。
神殿のそばには本当に大きな建物があり馬車がその建物の中に入っていく。ここが北条家なんだろう。まだなぜ北条家にいるのかを教えてもらっていない。緊張しながら馬車が止まるのを待つ。
南条様には認められたように思ったが、北条家に住むのなら北条様にも認められる必要がある。南条様も穏やかに見えて恐ろしい方だと思ったが北条様はどのような人だろう。
馬車が止まり高城さんが先に降り中に着いたことを知らせに行った。
僕は馬車から降り御者の方より荷物を受け取り玄関の前まで行く。
少しだけ待つと中から高城さんが出てきた。
「馨さんこちらにどうぞ。すぐに皆様が来られるから挨拶をしてください」
高城さんと玄関を入るとそこはとても広く、ここだけで孤児院の部屋がすっぽり入るほどだった。
しばらく待つと渚様とその息子だろう少年が、その後に渚様より少し若そうに見える男性と同じく息子だろう少年がやって来られた。




