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恋とか愛とか結婚とか  作者: 更西東花
第一章
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貴祥10歳 桃月-1

 朝食のため食堂に向かうと、いつもなら食後の珈琲を飲んでいるお父様がおらず、家の中がなんだか騒がしかった。


 朝食を持ってきた家僕の崎守さきもりに尋ねても、南条家から家僕が走り込んできて大事な話があると言っていたと言うことしか分からなかった。


 騒ぎは気になるが、お腹が空いているので朝食を食べているとお父様が食堂に戻って来た。


「貴祥!急いで食べなさい。真家にとって大切な話があるから、お前も傍に居て聞いているように。洋服もスーツに着替えなさい。確かスーツは持っていただろう?」


「お父様何があったんですか?」


「後で南条から説明させるから今は急いで食べて着替えなさい」


 お父様がそこまでおっしゃるのならとても大切な話なのだろう。急いで朝食を終え部屋に戻ると崎守がスーツを出してくれていて、着替えをさせてくれた。


 一階に降りお父様を探すと、崎守が会議室にいると教えてくれ急ぎ向かった。


 部屋を開けるとそこには知らないお父様ぐらいの年齢の男性たちがいた。その中に葵を連れてきた確か東条彰吾という人もいて、皆難しい顔をしている。


「お父様遅くなりました」


「大丈夫だ。先に南条から聞いたが千年の契り、黎明の契りの契り直しの話のようだ」


 黎明れいめいの契りの話はもちろん知っている。初代が天津神あまつかみ様と国津神くにつかみ様とに信仰を広めるのに尽力する代わりに、真家の繁栄を手助けしてくれることになった約束のことだ。


 この地には八百万の神がいらっしゃるが、その中でも力を持っているのが天津神様と国津神様だ。


 神様も人々に信じてもらわないと力を失っていくそうだ。そのために神々がいらっしゃることを忘れないように広げることを真家が尽力すれば、真家に起こる問題を回避できるよう教えてくれたりしているそうだ。そのおかげで真家は王家より長く続いているし、王家おうけに政権を与えているほど力を持つことが出来ている。


「今年千年経つのですか?」


「いや、貴祥が成人した後なはずだ。契り直しのための準備が必要なのかもしれないな」


 お父様にも詳しく分かっていないようで、難しい顔をした男性たちと意見を交わしている。


 僕は黙ってその話を聞いているだけだが、結局分からず神様のお願いはできうる限り聞こうと言うことで話が終わってしまう。


 もう話すこともなくただ待っていると、綾とお母様とりん様が着物を着てやって来た。


「綾も一緒に聞くの?」


「分からないの。急いでご飯を食べるように言われて、終われば振袖をきるように言われてそのまま連れて来られたからなんだか分からないの」


「綾も貴祥も一緒に話を聞くように言われたそうなの」


 お母様がそう説明してくれたけれど、誰にそう言われたのだろう。


 お父様たちが緊張して待っているので、僕や綾まで落ち着かない。崎守達がお茶を用意してくれていたけれど誰も手をつけなかった。


 長い間なのかすぐにだったのか緊張で分からなくなったころ南条が小さな子を抱いて部屋に入って来た。あきらも後ろから付いてきていた。


「東条も西条も部屋の外へと移動してくれ。神事に関わっていない2人に聞く資格はないと言われた。漏れ聞こえたぐらいはいいが同席は認められないそうだ」


「本家なのに同席を認めないとはどういうことだ!」


「五月蝿い。この場に呼んだだけでもありがたいと思ってとっとと出て行け」


 僕が初めて会った男性が怒ったが、南条が今まで見たことが無い顔で、あり得ない言葉遣いをし2人を睨みつける。その迫力にその男性と彰吾さんは息を呑み何も言えず部屋を出るしかなかった。


 南条が今まで見せていた穏やかな雰囲気がまるで嘘のようで、静かにでも何も言わせない迫力は父様よりも凄かった。あれだけの迫力を持つ南条がなぜ父様に仕えているのかよく分からなくなる。


 2人が部屋を出て、ドアを閉めずこちらの様子を見つめるのを確認して南条は子どもをこちらに向かせた。


れい皆様に挨拶をして」


 先ほどの迫力は消え失せ、優しく女の子に声を掛ける。


 こちらを見た子供はクリンとした目でふわふわの髪は焦げ茶色でリテリア国の人形のように愛らしく、息をするのを忘れるほど見つめていると、彼女はこちらを見て怯えた様に南条にしがみつき「初めまして南条玲です」となんとか聞き取れるほどの小声で挨拶をした。


 彼女はそれだけ言って瞳を閉じ、ゆっくりと目を開けるとニコリと微笑んだ。


「初めまして玲の中にいる女神よ。正確に言うと中にいるのではなくて力を分け与えているだけだけど。挨拶の必要はないわ、時間がないの。玲がお腹にいる以前に天と地の神が次期当主はまるで初代のように心地よさそうだと話したことでもうすぐ千年の時が経つことに気が付いたの。それで私が玲に力を分けることになったのだけど、なぜ私なのかなどはおいおい玲から聞いて。貴臣契りを再度契る気はあって?」


 明らかに先ほどの女の子の声で会っても、話し方が全然違っていた。言っていることの半分も分かっていないと思うけど、真家で大切にしている契りを結びなおすということはとても大ごとだと思う。


 あまりのことに呆然としていたお父様だが、名を呼ばれすぐに立ち直った。


「もちろんです。千年の時が来るのは分かっていましたがどうすればよいのか資料を読み返していたぐらいです」


「それなら良かったわ。神達も力を失いたくないから真家にはこれからも良い関係を結びたいと思っていたの。契り直しは貴祥・綾・晄が行うことだから。貴祥・晄には契約書に署名してからが忙しくなるけど、綾はその時に節目の舞を舞って欲しいの。綾出来る?」


「出来ます」


「「綾!」」


 綾が止める暇もなくすぐに答えてしまったことでお父様が綾を見て顔を曇らせ、凛様は青ざめた顔で綾を抱きしめ、抱きしめた手が震えているのがこちらからも分かるほどだった。


 僕は署名だけなのでそこまで大変ではないと思うけど、節目の舞を舞わなければいけない綾はかなり大変じゃないのだろうか。


 綾はずっと舞を舞うことは大切な役目だと聞いていたので、それと変わらないと思って答えてしまったのだろう。


 凛様が震える声で「綾はまだ幼くてその重要性を理解していないのです。もう少し分かるようになってから決めさせていただけませんか?」と涙を流しながら訴えた。女神様にたてつくようなことを言わなければいけなかった凛様は怖かったと思う。


「それは出来ないわ。綾に舞ってもらうことはすでに決定しているから。凛もそんなに泣かないで。それまでにしてきたことをしてもらうだけだから。凛の舞は好きよ。綾にも期待しているわ。


貴祥にもお願いがあるの。玲のことを一任したいの。今は小さくて1人で決められないと思うから貴臣や渚に相談してもいいけど、最終的に貴祥が玲のことは決定して欲しい。これは節目の当主としての務めだと思ってもらってもいいわ」


 綾にも大変な役目を頂いたのだ、僕も果たさなければいけない。念のためお父様を見ると頷いたので決心した。


「大変なお役目だと思いますがやらせていただきます」


「貴祥頼んだわよ。真家が大変な時に神事や玲のことを構ってなどいられないでしょう。だから玲がいる間は玲が過ごしやすいように大きな災害は無いし、真家も順調にいくと思うわ。神達が真家を大きく繫栄させることはないから、繁栄させたかったら自分たちで頑張ってね。貴祥は玲が過ごしやすいことを優先に考えても大丈夫だと思うから安心して」


 災害などが無いことは当主としてありがたいとこであり、神事の改変は大変なことだと思うが、せっかく衰退しないと言われているのだからいろいろやってみたい気もする。


 欲深くどれも成功させたいと思っていると、女神様が南条にお願いし始めていた。


「お父様玲の様子を見てできるようになったら綾の舞のお稽古や神事を玲に見せて欲しいの。天と地の神が結びなおすことが出来たら神事も舞も時代にあったものに改変していくことを望んでいるの。その為にも現状が分からなければいけないから」


「玲が寝込まないことを優先しても良いのなら必ず見せます」


 凛様がお願いを口にして怒ったり気分を害した様子がないので、南条は当然のように条件を付けた。


「もちろん玲の体調を最優先で構わないわ。当分は見学さえも出来ないと思うし。私が表に出てきたせいでこの後玲は1か月ほど眠ったまま起きないと思う。心配すると思うけど玲は大丈夫だから」


「一か月も……」


 あまりの長さに南条が絶句する。


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