馨12歳 椿月-3
すくっと立ち上がり出て行こうとする南条様を急いで止めた。
「南条様申し訳ありません。なぜ南条家ではなく北条家なのですか?それに素行調査も終わっていません」
「もちろん親族のことを調べ君と縁を切ってもらう手筈が少々面倒だが、君の素行自体は特待生を取れた時点で終わったも同然だし、今聞いたことで十分君が分かったよ。私のことは渚と呼びなさい。南条家で預かるのだから名前でいい」
「南条家預かりになるのに北条家に入るのですか?」
「そうだ、玲は北条家で住んでいる。理由は北条家に入ってから説明する」
「畏まりました渚様」
渚様は大きく頷き今度こそ部屋を後にした。
僕は渚様の姿が見えなくなると立っていることが出来ずその場に座り込んだ。
渚様からの緊張状態から解放されたこと、玲の傍に居ることを許可された喜びと、この身を汚さずに済んだこと、親族と縁が切れることもすべてが嬉しくて泣き崩れてしまった。
なんとか泣いてしまったことを皆に知られずに部屋に戻ることができた。皆今回は渚様がいらっしゃったことでいつもより多く引き立ててもらえたようで、引き立ててもらえた者を囲んで褒めたり話を聞いたり忙しくて部屋に戻るのが遅かったからだ。
部屋から出てこない僕を心配して様子を見に来た浩紀が報告したがって、話しかけられたがとても答えられそうもなかった。
「浩紀ごめん。いろいろあって疲れたみたい。今日はもう寝るね」
「そうなのか?馨も一緒にくれば引き立ててもらえたかもな。また今度があるよ」
浩紀は僕が一緒に居なかったことを後悔しているのだと思ったようでそっとしておいてくれた。
渚様すぐに動いてくれて、その日のうちに南条家の方が孤児院長と話をしてくれたらしい。
翌日にはこの孤児院から南条家に引き取られるのがよほどうれしかったのか、皆の前で南条家の方が真路への入学手続きもするので明日真路に行かなくても大丈夫と言ったものだから大騒ぎになった。
誰にも会わなかったはずの僕が、誰よりもよい所に引き取られることになった為、皆から白い目で見られるようになったし、仲良くしてくれた浩紀も距離を取られてしまった。
でも、僕はそれに構っていられるはずもなく、移動の準備もだが、これからも特待生を取り続けるために勉強を始めておかなければいかなかった。
きっと北条家に入れば勉強以外のことで覚えなければいけないことが山のようにあるはずだ。勉強だけに構っていられないのなら、せめて勉強だけでも先へ先へと進めておかなければいけない。
皆の冷たい目も気にすることなく一心不乱に勉強する様子を見て、誰も何も言わなくなったし、それぞれに努力し始めているようだったけれど、自分のことで精一杯であっという間に移動の日となった。




