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恋とか愛とか結婚とか  作者: 更西東花
第一章
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玲7歳 椿月-1

 今日はいい夢を見たので少し寝坊してしまった。


 食堂に行くとお母様がお出かけの支度をして、お父様に孤児院の訪問に行くことを報告していた。

 

 今回は皋様からも孤児院へ渡すものがあるみたいで、その積み込みのため北条家にお母様はいらっしゃったようだ。


「お母様私も行きたい!」


 まだお母様から距離があったけれど、置いていかれてはいけない。


 小さな声だったけれどちゃんとお母様たちに聞こえていた。


「玲?駄目よ連れてはいけないわ」


「私絶対に今日お母様と孤児院に行くわ」


 お兄様まで傍に来て私と目を合わせるように座る。


「玲今日は元気そうに見えるけど外出なんてしたことが無いでしょ駄目だよ」


「いや!絶対に行きます。那智も行きなさいって」


 傍に居た那智を抱き上げると「にゃん」と賛成してくれた。


「ほら!」


「いや、にゃんって鳴いただけ……」


「玲今まで外に出たことが無いだろう。それなのに行けないよ」


 ちっとも賛成してくれないお兄様を押しのけお父様も反対した。


「宮比神様が行くように言ったもの」


 皆に反対されて涙が出てきそうになるのを堪えながら伝えた。


「玲それなら早く言いなさい。樹私も一緒に行く。高城警備の強化を。玲は朝ごはんを食べて佳那に出かける用意をしてもらいなさい」


「ありがとうお父様」


 佳那に用意してもらった朝ごはんをいつもより早めに食べ、佳那に着替えさせてもらった。


 お出かけしたことが無かったので、貴臣様とお会いするときに着る淡い桜色の襟にレースが付いているワンピースを着せてもらった。


 お出かけするために那智を連れて玄関に向かう。


「那智は置いていきなさい。那智がどこかに行ってしまってはいけないだろ」


「大丈夫ずっと一緒に居てくれるって」


 那智は置いておかれてはいけないと、私の手からするっと抜け出し先に馬車に乗り込んだ。


「しょうがない。ちゃんと見ているんだよ」


 初めて馬車に乗り外に出かけたので、初めて見た街並みから目が離せなかった。


「これから行く孤児院は街で二番目に大きい神殿にあるんだよ」


 ほらと指を差してくれた方には家から見える神殿より小さいものが建っていて、その傍に神殿ではない神殿よりも小さい建物が見えた。


「あそこが孤児院?孤児院って何?」


「玲は孤児院も知らなくて行きたいと言っていたのかい?孤児院は両親がいない子供が集められて育っている場所だよ」


 両親がいないだなんて悲しい。これから会う人も両親がいないのかしら?


「玲、孤児院についても馬車から降りてはいけないよ。馬車の傍から人がいなくなったら佳那と一緒に少し見て廻ってもいいからね」


「分かりましたお父様」


 孤児院についてもお父さまに言われた通り大人しく馬車の中で待っていた。


 そうしたら窓から夢で見た人を見つけた。


「那智」


 那智を見ると窓から一緒に見ていて「にゃん」と鳴いてくれた。


 那智がそうだと言うのなら間違いない。


 佳那が警備とどう歩くか話している隙に馬車から那智と降りた。


「玲様!待ってください!渚様に知らせて!」


 私はお父様に佳那と一緒にいるように言われたのを忘れ、姿を見た場所へと急いだ。


 迷子になりそうだったけれど、ちゃんと那智が案内してくれた。


 そうっと部屋を覗くとすごく美人の女の人が温かな日差しの下で読書をしていた。


 そっと彼女に近づいて声をかけた。


「ここで一緒に本を読んでもかまわない?」


「お好きな席でどうぞ」


 彼女は想像していたより低い声でふわっと微笑んで勧めてくれた。


 私は傍にあった本を持って彼女の傍に座った。


 彼女はしばらく見ていたけれど、すぐに読書に戻ってしまった。


 私は見られるのが普通なので、こんなに早く見なくなるだなんて思わなかった。


 彼女を本を読むふりをしてちらちらと見てもちっともこちらを見ない。


 どうやって声をかけたらいいのか分からず、那智を見たけれどやっぱり「にゃん」と鳴くばかりでよく分からない。そうしているうちに佳那が来てしまった。


「玲様!ここにいらっしゃったんですか。心配しましたよ」


 佳那に見つかったのなら長くここにはいられないだろう。那智を抱いて佳那を注意した。


「佳那読書中よ。もっと小さな声で話さないとご迷惑だわ」


 彼女が怒ってしまったらどうしようと不安になって彼女を見たらこちらを見て微笑んでいた。その顔がとても優しくてお願いを言う気になれた。


「私は玲。貴女のお名前は?」


「玲様!」


 佳那に捕まらないように彼女の方に歩いていきながら聞いた。


かおるたちばな馨」


 もう一度声を聞き、傍で姿を見たことで気が付いた。彼女じゃなくて彼だ。


 それでもかまわない。私はこのために今日ここに来たのだ。


「馨ずっと私の傍に居て」


 私の願いはそれだけ。彼にはどうしてもお願いを聞いて欲しい。祈る思いで馨に伝えた。


「玲もちろん喜んで」


 馨は椅子から立ち上がり、私の傍に膝を付き私と目を合わせて答えてくれた。その上私の名前まで読んでくれた。嬉しくて駄目だと分かっているのにすごく喜んでしまいそうになって慌てて我慢した。


「玲様!そんなことを言ってはいけません!」


 佳那は私を自分の体で馨から見えないように後ろ隠し私を叱った。そして馨の顔を見て思わず息を呑んだ。私を近づけないように思っていたのだろうけど、馨の美人さに驚き佳那の力が緩んだので佳那から少し離れる。


「いや、ぜったい馨には傍に居て欲しいの」


 どんなに言われようと馨には傍に居て欲しい。もう一度馨にお願いしようと前に出ようとしたら、佳那は驚いたようで私の方を振り返り、私の顔をまじまじと見た。


「玲こんなところにいたのか」


 驚いている佳那の横からお父様が来られた。


「お父様!馨にずっと傍に居て欲しいの。居てもらってもいいでしょ?」


 すっかり力が緩んでいた佳那から離れお父様に駆け寄りお願いした。


 お父様はその場に屈み私と目を合わせて聞き返した。


「彼女に傍に居て欲しいのかい?」


「そう、ずっと傍に居て欲しい」


 これだけはどんなに言われても変えるつもりはない。お父様も勘違いをしていたが、そんなことよりも傍に居てもらう方が大事だ。


「わかった。でもすぐには無理だよ。それでもいいかい?」


「もちろん。でも早く来てくれると嬉しいの」


 お父様がすぐは無理だと言うのなら我慢するけれど、なるべく早くがいい。


 何か言いたげな佳那を放置したまま私たちは話を続ける。


「そうか、わかった玲の頼みだ早めに叶えるとしよう。今日はもう先に帰りなさい。きっと疲れただろうし、お父様は彼女と話をしないといけないから」


「ありがとうお父様。じゃあもう馨に会えたから帰ります」


 これ以上傍に居たいとか早く連れてきて欲しいとお願いして駄目だと言われてはいけない。


 今はお父様の言うことを聞いた方がいいと思う。


「佳那早く帰って休ませて、きっと寝込んでしまうだろうから」


「かしこまりました」


「さあ玲様帰りましょう」


「またね馨」


 佳那が馨から早く離れたい様子で私を連れて行こうとするので、なんとか挨拶だけをすると馨は微笑むだけだが応えてくれた。


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