葵8歳 桐月
玲様は儚げでとても可愛らしい。体が弱く途中で部屋に戻ってしまうことも多く、触れたら壊れてしまうのではないかと心配になるので、まだ玲様に会うのは緊張してしまう。
今日は玲様がお話したいことがあると聞いているので余計かもしれない。
玲様は私たちの話を聞いていることが多いので、お話と言われても何を話されるのかさっぱり分からない。
私に会いたくないとかならどうしようと思ってしまうが、それなら招待自体無くなるだろうから違うと思って、ドキドキしながらお茶会に行った。
唯さんがまだお茶を用意しているのに、綾はため息をついて嘆いた。
「はぁ、玲様が学院に通いたいから協力して欲しいと言われたらどうしましょう」
「玲様は学院に通われないのですか?」
てっきり通うものだと思っていたので驚いた。
「玲様は体が弱いですし、神子様が学院にいると知られたら大騒ぎになるでしょう。貴臣様もお兄様もとても学院に通わせられないって」
「玲様私たちが学院のことを話す時とても楽しそうに聞かれていましたから、通いたいって言われると思います」
「そうよねぇ」
いくら玲様にお願いされても、貴臣様達に駄目だと言われていることを通えるようになるとは思えない。2人でため息をついている時に玲様が来られてしまい、思わずビクッとしてしまう。
「ごめんなさい。私がまだ来る時間じゃなかったみたい」
玲様はしょんぼりとしてしまわれた。
「違います。時間はあっています。……玲様が学院に行きたいと言われたらどうしようと思っていただけです」
佳那さんに大丈夫だと言われ、玲様はしょんぼりしたままいつもの席に座られる。
綾が玲様にオレンジ入りのパウンドケーキを勧めながら一生懸命説明する。
「そうです。玲様私たちが学院の話をしている時楽しそうにしていらっしゃったから、玲様も通われたいだろうなって」
しょんぼりと俯いてしまっていた玲様は少し顔を上げられ、ふるふると首を横に振った。
「佳那に通えない訳を聞いたから通うのは諦めました。宮比神様にももう少ししたらいいことがあるから我慢してと言われましたし。綾達に聞きたいことがあって、学院に行かないので時間があるので、部屋で出来ることで楽しそうなこと何かありませんか?」
佳那さんは宮比神様に言われたことに興味があるようだが、今聞くべきことではないと聞かずに、玲様の言葉の補足をした。
「玲様は部屋で本を読まれたり勉強されていますが、それ以外で何か玲様にもできそうなことをご存じではないかと思いまして」
学院に通いたいと言われなかったことにホッとしたが、玲様がすぐに出来そうなことが思い付かない。佳那さんに読書は言われてしまったし何があるだろう。
「玲様ごめんなさい。私舞以外のことで興味があることが少ないので分かりません」
綾は早々に考えるのを諦めてしまった。
「綾は舞を頑張っていますものね。葵は何か思い付きますか?別になくても大丈夫です。出来たらぐらいなので」
玲様の期待が重たいが、玲様にそこまで言われたらなんとか思い付きたい。
「聞いたばかりですから少し考えさせてください」
「葵思い付いたらで構わないので、何かあったら教えてくださいね」
玲様は期待して待たれているので、なんとか思い付きたい。
玲様が綾に通えなくなっても興味がある学院のことを聞いているが、私はその間も何かないか考えていて綾の話をちゃんと聞いていない。
綾は玲様に真路がどんな所かを話すのに一生懸命で話しを振ってこなかった。
そんな時綾の話がふと耳に入った。
「男の子はそんなに乱暴なのですか?」
「えぇ、そうです。お兄様や晄様は玲様がいらっしゃるから静かですけど、本当にがさつですぐに大声を出すのです。玲様は急な大声で倒れてしまいますわ」
「学院に行くのが怖くなりました」
男の子たちも綾の前なら静かなほうだが、それでも綾には乱暴に見えたりするのだろう。
玲様は大人に囲まれ静かに過ごされているので、男の子がはしゃいでいる時のにぎやかさに耐えられないと思う。
玲様はやっぱり静かに過ごせるものがいいはず。料理はさせてもらえないだろうし……。
そうだ、最近千桜さんから教えてもらっている刺繍はどうだろう。
「あのっ」
「葵何か思いついたの?」
綾には聞いていなかったことが分かっていたみたいだけど、玲様のお願いを叶えるほうが大事だとそっとしておいてくれたみたい。
「あの、刺繍はどうかなと思いまして。慣れないと疲れやすいですけど、部屋で静かに出来て、少しずつできますし」
「刺繍ですか。樹様は多分苦手としているでしょうし、皋様は忙しくしていられなかったので思い付きませんでした」
「刺繍って服とかにしているあの刺繍?じぶんで出来るの?」
玲様は不思議そうに聞いてくる。
「服にしているような刺繍は出来ないと思います。でもハンカチに少ししているぐらいでしたら出来るようになりますよ」
玲様が普段着ている服にされていた刺繍が出来るようなるにはとても時間が掛かると思うが、ハンカチに刺されている刺繍ぐらいなら少し練習すれば出来るようになるはずだ。
「出来るようになったら素敵かも。佳那すぐにし始めたいわ」
玲様は目をキラキラさせる。
「すぐに用意しますが、誰かに教えてもらわないとできませんよ。樹様も皋様も忙しいでしょうし、私は裁縫でしたらしますが刺繍はしませんし」
「でしたら私が最初教えましょうか?私も習い始めたばかりなので難しいのは教えられませんが」
千桜さんに少し習った程度で自分が教わるほうなのに言ってしまってから後悔した。
「そうして頂ければ助かります」
佳那さんにすぐにそう言われ引くに引けなくなった。
「本当に最初だけですがそれでもよろしければ……」
「えぇそれで構いませんのでお願いできますでしょうか。玲様はどれほど興味を持たれるかまだ分かりませんので、まずは一度きりか続けられるか分かればよいので」
それもそうか。私は千桜さんに嗜みだと教えてもらっているが、好んでしているかと言えばそうでもない。綾に至ってはすでに興味が無さそうにしている。
「分かりました。今度のお茶会の時教えてあげられるよう準備しておきます」
「ありがとうございます。道具などはこちらで用意しますので、他に必要なものがあればそれをお持ちくだされば嬉しいです」
道具を用意してくださるなら、刺繍するための図案や刺繍の本を用意したほうがいいだろう。玲様がしたいとは言えないので、綾が興味を持ったと言えば千桜さんも用意してくれると思う。
「分かりました。今度のお茶会までに用意しておきます」
綾はむむむと考えながら「玲様がされるのなら私もやってみようかしら」と言うが、ちっともやりたそうじゃない。
「綾興味が無いのでしたら本を読まれていても、舞の振りを覚えてくださっていてもいいですし、何ならお茶会前に葵から教えてもらいます」
「玲様仲間外れは嫌ですわ。一度はやってみます。もしかしたら好きかもしれないじゃないですか。女性としても出来たほうが素敵な気がしますし」
沢山理由を言っているが、綾は最初に言った仲間外れが嫌なだけだと思う。
「では今度のお茶会はお茶会じゃなくて刺繍をすると言うことで準備させて頂きます」
「唯刺繍をしてもお茶もおやつも必要よ」
「分かっております。おやつはナイフを必要としないクッキーにすればよいかと思います」
「そうね、そうしましょう。どんなクッキーにするかは当日まで内緒ね」
サクサク次の刺繍をする会を決めていく間、帰ったら千桜さんに教えてもらっておかなければと真剣に思った。
帰ってからすぐに千桜さんに綾が興味を持ったと言うと「なんですって!」と驚き、教えて欲しいと言われたと言うと「ありえないわ」と刺繍道具と持って来て私の前に座った。
「葵はまだ人に教えられるほどじゃないのにどうして引き受けたの?」と怒られながら、刺繍をするよう渡される。
「してみたいけど、続けるかは分からないから試しにしてみたいだけだからって。皋様も忙しくて教えたりも出来ないって」
「葵は続けているけど、綾様は舞の方が忙しいでしょうから出来るか分からないわね。でも女の子は出来たほうがいいのよ。旦那様に刺繍してあげられると素敵でしょう」
貴祥様にしてあげたら喜ばれるかしら?
今はまだ下手過ぎて貴祥様にあげられるような物は出来ないから、恥ずかしくないようなものが出来るようになったら聞いてみてもいいかもしれない。
千桜さんに厳しく教えてもらいながら、次のお茶会に備えた。




