葵7歳 柊月-2
それからもいい案が浮かばないまま日にちだけが過ぎていく。
そんなある日東条家から使いが来たと言われ玄関に向かうと、そこには北条家でみたことがある人が立っていた。
その男の人が私にではなく奥に向かって大きな声で話しかける。
「こちらは東条家より葵様が所作を覚えるために作られたものです。そこの女お前が食べていいものではない。もし奪うようならその代金はお前に請求するからな。お前の子供で払ってもらってもいいぞ。こちらで遠慮なくこき使ってやろう」
そんなわけない。だってこの人は北条家の人だもの。
私が不思議そうにしていると、男性は荷物を千佳に渡し、私の傍にしゃがみこんだ。
「こちらは東条家からということにしている貴祥様からの品です。素敵な女性になるために頑張って欲しいとおっしゃられていました」
私にやっと聞こえるほどの小声で言って、男の人はにこっと笑って立ち上がった。
「器は次回お届けする際に持ち帰りますので置いておいてください。では失礼いたします」
いろんなことが起きて頭が真っ白になる。
次回のお届けってことは一度きりじゃないってことらしい。
それは嬉しいけれど、東条家と言ったけれどこれは貴祥様から。……貴祥様に私がここに住んでいることも、食事に困っていることも知られてしまったということだ。
「千佳!どうして。どうして話してしまったの」
「葵様お話ししますので、こちらを台所に置いてからお部屋でお話ししましょう」
涙が溢れそうになるけれど、彼女がいる傍で出来ない話なのは男の人が小声で話したことでも分かる。彼女に泣き顔を見られたくないし、先に部屋に行くことにした。
「千佳先に部屋に戻っています」
「荷物を置きましたら、いえこのままお部屋に行きましょう。見られて後でいろいろ言われても面倒ですから」
2人で部屋に戻っている間も貴祥様に知られては許嫁では無くなってしまうと落ち着かない。綾様の家や彰吾さんの家を見るとすごく大きし、着ている物も素敵な物ばかり。
彰吾さんの妹の子だとは伝えているが、こんなに貧乏にしているとは言っていない。こんな家の子では許嫁では無くなってしまうに違いない。そうなれば綾様にも貴祥様にも会えないし、彰吾さんも毎週呼んでくれなくなる。そうなったらどんなに辛いか考えたくもない。
部屋についたら我慢していたものが耐えられなくて涙が出てくる。
千佳が私の勉強机の上に荷物を置いてからやっと話が聞けた。
「私は東条家に雇われているのではなく、北条家に雇われてこちらに来ております。ですので葵様の状況を北条家にお知らせしています。今回のことは東条家が出す費用なので先に東条家に話したのですが、何もしてもらえず北条家にお知らせしました」
「えっ、でも千佳は綾様と会う前から居るわ」
「それは二度目です。葵様は思い出されましたでしょう。お小さい頃に綾様達に会ったことを」
「全部ではないですけど」
お2人とのお話が楽しくて綾様のお着物が綺麗だったこと、食べ物が全部美味しかったこととかしか覚えていない。
「貴祥様も葵様を気に入られましたし、綾様と仲良くされていることもあって貴祥様の許嫁にいいのではとなったんです。葵様許嫁は将来結婚しましょうと約束することだとはご存じですか?」
「ええ、許嫁になった時に彰吾さんから聞きました」
「結婚するときどんな家でどんな女の子なのか調べます。これは庶民でも調べたりしますのでそんなに不思議なことではありません。ですから初めて会い、綾様も貴祥様も葵様のことを気に入られた時から葵様のことは調べてどんな生活をしているのかご存じです」
「そんなに前から。でもなぜ千佳が来たの?その頃なら茉理に面倒を見てもらっていたと思うけど」
「その頃葵様は同い年の子供より小さく細かったんです。私はよく覚えています。初めて会った時に自分の子供と比べても小さいと思ったことを。貴祥様が心配されたのも当然だと」
「そうなの?自分では分からないわ」
「あの時は葵様の成長に合わせて東条家が費用を増やしていなかったので、茉理が苦労していました。彰吾様も藤波に来ていませんでしたから状況が分かっていなかったようで。綾様と再度お茶会するようになって、彰吾様が葵様に会うようになると増やして頂けたのです。
今回彰吾様は彼女たちのことはみないと宣言しましたのでお知らせしても増やしてもらえず、後で北条家に伝えたので遅くなってしまいました。申し訳ありません。貴祥様からも報告が遅いと怒られました」
「貴祥様が心配してくださっているの?」
「はいとても。許嫁を守れないだなんて恥ずかしい思いを僕にさせるつもりかと、かなりきつく叱られました」
「許嫁のまま?綾様にも貴祥様にもまた会えるの?」
「もちろん会えますよ。こちらを頂いて素敵な女性になれるよう頑張りましょう」
「はい!」
台所に戻り荷物を開けてみると2人分のお重が出てきた。そこには綺麗に盛り付けてあるものと、普通に詰められている物があって、さっと千佳が綺麗に盛り付けられたものを私の前に置いた。
「すごくきれいでおいしそう。でも綺麗に食べるのは難しそう」
「それを綺麗に食べる練習ですよ」
「分かっています。……でも量が多くて食べきれないと思うの」
「そうですね。私のも多くて残しそうです。朝に回してもいいですが、どうされますか?」
「少し取り分けて茉理にあげましょう。間で助けてくれているもの。お母様は食べるか分からないし」
その時ちょうどお母様の食事の用意で台所に来た茉理に聞いた。
「茉理お母様この料理食べるかしら?」
「そうですね。食べられないと思います。今もおかゆを作るつもりでしたし」
「じゃあ、茉理少し取り分けるから茉理が食べて。私たち食べきれないと思うの」
「私が頂いてもよろしいのですか?」
まさか自分に貰えるとは思わなかったのだろう。茉理は驚いて聞き返してきた。
「えぇ、いつも助けてくれるから食べて。これからも届くみたいだからその時も食べてね」
「ありがとうございます。織江様が食べられそうなときは織江様に食べて頂きます。滋養がありそうですもの。あっ、でも量を増やしたりはしないでください。葵様がお腹が空いてしまいますし、そもそも葵様のものですから」
「分かったわ。いつも同じぐらいの量でね。千佳お願い」
千佳はお皿を出してきて、両方から取り分けていく。私のものは綺麗に盛り付けてあるので、崩さないように取るのに苦労していたけれど、茉理と「もう大丈夫です」とか「いえ食べすぎると太りますから」とか言い合って量を決めているのがおかしかった。
この料理は私の成長に合わせ少しずつ量が増え、高等部に入学するまで週に2度欠かさず届けられ私を助けてくれた。
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そろそろ他の対も登場しますので、楽しみにして頂ければ嬉しいです。
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