葵6歳 梅月-2
入学式の日は他の人と話す時間もなく終わり、次の日から皆は少しずつ話すようになってきたのに私は話しかけられないし、話しかけようとしても上手くいかずずっと独りぼっちだった。
自分では何にもしていないつもりなのに、私の方をチラチラ見て何か言っている気がする。
こんな風に遠巻きにされるのは私が順番に自己紹介した時からだと思う。
本家の方は皆こんな風に近づいて来られなかったのかしら?綾は次期舞姫なので皆が挨拶に来たので大変だったと言っていたのに。
寂しく1週間過ごしていると、お昼休みにざわざわとしてどうしたのかと思ったら、学生食堂に行こうとして入り口付近にいた女学生に誰かがお願いしているようだった。
「東条葵を呼んでもらえる?」
声が聞こえて誰が来たのか分かった。綾が教室を訪ねてきてくれたんだ。
私は急いで入口の方に行き「綾!」と呼ぶと、綾が「葵一緒にご飯を食べに行きましょう」と誘ってくれた。
「はい!」
すごく嬉しい。皆楽しそうにご飯を食べているのに、私は1人でポツンと食べていたので凄く寂しかった。
「ちょっと待ってください。初めまして。私は烏丸秀則と申します。北条綾様とお見受けいたします」
「初めまして、北条綾です。挨拶して頂いて嬉しいですけど、これ以上のお話はお昼ごはんを食べる時間が無くなるのでごめんなさい」
「申し訳ありません。少しだけいいでしょうか。綾様が呼ばれた彼女のことです。東条様には女の子のお子様はいらっしゃらないと思いますが、彼女は東条を名乗り、特進にいるのはおかしいです。よく確認されてからご一緒されたほうがいいと思います」
私がチラチラ見られて話しかけてもらえない理由が東条だと名乗ったことだと思わなかった。
嘘などついていないのにそんな風に思われていただなんて。
泣きそうになるのを我慢していると、綾があっさりと烏丸さんに答えた。
「東条で合っているわ。彼女彰吾さんの妹の子で、葵のお父様は彼女が産まれる前に亡くなったの。それで父親が居ないのは良くないと彰吾さんの子として届けたとお父様から聞いているわ」
「えっ?東条様の妹の子なのですか?」
烏丸さんも他の同級生も知らなかったようで、驚いた様子で私を見る。
「そうよ。もういいかしら。ご飯を食べに行かないと時間が無くなってしまうわ。葵行きましょう」
「はい!」
私は綾と手を繋いで学生食堂に行った。
真路学院の学生食堂は初等部と中等部の学生が食べられる食堂と高等部と院の学生が食べられる食堂と別れている。
高等部の方は分からないが、ここでは何となく食べる位置が学年によって決まっているので、中等部の人たちが居ても怖くない。
こちらの学生食堂は3種類の定食の中から選べるが、最初から学院にお昼をお願いしていなくてお弁当を持参して食べる子も大勢いる。
料理を貰いに行こうとしたら「綾がこっちよ」と違う方に歩いていく。
「綾こっちは何があるの?」
「こっちには王家の方や武家の方が他の生徒とは嫌だという人が使える特別室があるの」
綾と向かった先には学生食堂とは全く違う家具が置かれ、北条家のような落ち着いた雰囲気で、学生食堂には居ない家僕のような人たちが料理を学生の元まで運んだりしていた。
「ここは私は入れますか?」
「1人で入れるかは分からないけど、私と一緒なら大丈夫よ」
綾が一歩中に入ればすぐに男性が近づいて来て「いらっしゃいませ」と声を掛けてきた。
綾はそれには何も答えず、男性に案内された席に座る。
どれにするか聞かれ答えると、すぐに料理が届けられたが、内容は特別なものではないようだった。
「彼女は東条葵よ。彼女が1人でもここを利用できるかしら?」
綾が料理を運んできた男性に尋ねると「はいもちろんご利用いただけます」とにこっと笑って教えてくれた。
「ありがとう。さぁ葵食べましょう。来るのが遅くなったから早めに食べないといけないわね」
食事をしながら綾からいろいろ教えてもらうと、初等部の学生食堂は特別室でも同じ物しか食べられない。初等部の子にはお金の管理が難しいだろうと一律の定食しかないそうだ。高等部になれば定食から単品の品までいろいろ種類があり、その都度食券を買って食べるそうだ。
「あちらの特別室にはおやつにとパウンドケーキなどもあるのですって。早くお茶してみたいわ」と綾は今から楽しみにしていた。
もしかしたら王家や武家は別にお金を支払って違う料理を作らせているかもしれないけど、ぱっと見は分からないから素材が違うのかもしれないと、小声で教えてくれた。
「ここは人が集まってこないから静かに食べられるの。葵もここを利用すればいいわ。私もたまに一人になりたいとき利用するの。一人ぐらいなら庶民の人も一緒に入れるけど、それ以上は多分入り口で止められてしまうわ。
静かに食べたいと思っているのに賑やかにされたら嫌でしょうし、他では出来ない話をしていることもあるから入って欲しくないと思っているでしょうから」
それで隣の声もなるべく聞こえないように、机と机の間がゆっくりとしているのね。
「分かりました。でも私は利用しない気がします」
「じゃあ私と月に1度ぐらい一緒に食べましょう。取り繕って食べるご飯はあまりおいしくないの」
「嬉しいです。楽しみにしています」
来るのに手間取ったので急いで食べることになったけど、とても楽しい昼食の時間になった。
綾とは途中まで一緒に帰り、教室に戻ると周りを同級生たちに取り囲まれた。
「北条様とどういう関係ですか?」
ぐいぐいと迫ってくるのに引きながら答える。
「あの、友人だと思っています」
「どこで知り合ったのですか?」
「お話し相手になってあげてと彰吾さんに連れて行かれて、それから仲良くさせて頂いています」
「では北条家に行かれたこともあるのですか?」
「はい。毎月のようにお茶会に呼んで頂いていますが……」
これは千佳に話してもいいと教えてもらっていた。
「うわぁ凄いです。羨ましい」
綾が人気なので私にあれこれ聞きたかっただけのようだ。
もう少し聞きたいと皆が前のめりになった時にベルが鳴り授業の時間になってしまったので、この時はお開きになった。
それからは私が綾のことを詳しく話せないと言っても、それでも仲良くして欲しいと言われ独りぼっちになることは無くなった。
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