貴祥10歳 柏月
彰吾さんがしぶしぶ部屋を後にしたのを確認してから久我に礼を伝えた。
「久我助かった。あれこれ言われて許可してもらおうとしているのは分かったが、どう対応すればいいのか困っていたんだ」
「よく当主を相手に耐えられました。あれは彰吾がわざと貴臣様達がいないのを狙ってやって来たのが分かったので、貴臣様に確認もせず間に入らせていただきました。神事を行っている貴臣様の邪魔をするわけにはいきませんので」
「お父様からの伝言は嘘か?でも助かったからいい。後で僕から話しておく」
神事は北条家として大切なこと。久我が邪魔できないと言ったのは仕方ないことだ。
「いえ、貴祥様の役に立てたのなら良いのです。私からも報告しておきます」
「久我の仕事ではないのにありがとう」
久我は秘書なので南条のように私用や神事のことを頼んではいけないと父からきつく言われている。
南条はすべてのことを共有しているが、久我は北条家の商売のことに関しての仕事しかしておらず、神事のことは凛様の夫穂高様にお願いすることで、私用は家僕の崎守などに頼むように言われている。
「とんでもない。ちなみに葵様に話さないように約束されたのは玲様のことがあるからですか」
玲は今ほぼ部屋から出ることが無い。それは食事をする時でさえ、食堂まで降りて来られないからだ。それでもいつか綾と葵の用にお茶を楽しむときが来ると思うし、来て欲しいと願っている。
「もう少し成長したら綾や葵とお茶をして楽しんで欲しいんだ。だから今から玲がいつからお茶会を出来て、何が好きかなど話したりしないようにしとこうと思ったんだ。
彰吾さんはどうも信用しきれなくて、急に葵がお茶会のことを話さなくなったら不思議に思うだろ。だから先手を打ったつもりが、直接苦情を言いに来られるなんて考えてなかったから失敗した」
「玲様のことを内緒にされたいのなら、今から話すなという対応は悪くないです。ただそれほど玲様のこと内緒にしなければいけませんか」
「玲のことは分からないことだらけなんだ。契り直しにしてもどう行うのか知らされていない。それに宮比神様の力がどこまで影響するのか、先見が出来る範囲も分からない。どう対応すればいいのか分からないから内緒にしたいと思う。
南条でもほぼ宮比神様のことを聞き出せないでいるからな。誰でもいいから玲のことを聞き出せる人間がいると対応しようがあるのだけど。佳那は体調を見ているので手いっぱいでそこまで手が回っていないのが現状だ。
今手の打ちようがないんだ。だからこそ周りに情報を流していろいろ言われても面倒なだけで、結局何もできないという状況になるだけだろう」
「内緒にする理由が分かりました」
「玲はどうも大人の男が苦手なようなんだ。今会いたいと喚いているのは大人の男ばかりだろう。玲に会えるわけがない。そのせいか酷い噂が広がっているのをどうしようかと今考えている」
先日必要になった家具を部屋に入れるために家僕を部屋に向かわせたら、玲が嫌がって女中たちで入れさせたし、父に会うのは体調によって出来ないことがあるが、僕は大抵許可されるので、大人の男性が苦手なようだ。
「私も玲様にお会いできていません。噂は聞いております。貴臣様は新聞に載せようと思っているようです。神子様は真家の千年の契りの契り直しでいらっしゃり、天下を取れたりはしないと。
お見掛けしないのは体が弱く外出できないせいだと載せ後は消えるのを待つか、放置するしかないだろうと言われていました。玲様にどうやっても会えないのでしたら、早々に新聞に載せその後は放置ですね」
それも仕方ないだろう。
「早めに消えてくれるといいけど、玲が外に出られないようでは難しいんだろうな」
久我も難しい顔をしただけで何も言ってはくれなかった。
「久我ありがとう。仕事の途中だったんだろう。もう彰吾さんも戻って来ないだろうし、仕事に戻ってくれ。助かった」
「それでは仕事に戻らせて頂きます」
久我は頭を下げ部屋から出て行った。
玲のことは今はどうなるか分からないので、追々南条や晄と相談しながら対応していくしかない。
僕も勉強を再開する。さっき彰吾さんが来たことで、急いで解いた問題の答えが間違っていたことに気が付いて余計にイラっとした。




