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恋とか愛とか結婚とか  作者: 更西東花
第一章
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貴祥10歳 梅月-1

 やっと葵が家にやって来る。予定が決まってから覚えていてくれるか不安で、眠れなくて勉強も手につかないけれど、これぐらいで勉強が遅れるようなことはない。


ただ、僕がすでに勉強し終わった場所を授業でするときには、真路で体調不良だと言って寝かせてもらったぐらいだ。


 もし葵があった時に忘れていても大丈夫なように覚悟だけしておく。大丈夫、もし忘れていてもこれから好きになってもらえばいいだけ。そう言い聞かせて自分を納得させる。葵はもちろん綾にも恥ずかしい姿を見せたくない。


 玄関で待ちたかったけれど、彰吾さんに落ち着かないところを見られたくないし、じっと待っていることが出来そうもないので綾と部屋で待つ。


「お兄様そう何度も見なくてもすぐにいらっしゃるわ」


 ここに座ってから出してもらった紅茶にも手を付けず度々ドアを見ているのを綾に窘められた。綾に恥ずかしい所を見られてしまった。崎守が迎えに出たわけでもないから葵が来るわけがないのに。


「お兄様私以前葵と会った時見ていたリボンとかをもう一度見て楽しむつもりなの。葵が忘れていてもこのレースを見たら思い出すかもしれないでしょう。私も忘れられてしまっていたら悲しいから思い出して欲しいの」


 綾が見せたレースは薄い空色のレースで、確かに葵が一目ぼれしたようにずっと見ていて、綾があげると言っても「怒られるから要らないです」と頑なに断り持ち帰らなかったものだ。


 年数は立ってしまったけれど、よほど好みが変わっていない限り今日も目を止めると思う。


「唯私が言ったらこの箱を持ってきてね」


「失礼します。そろそろ葵様がいらっしゃると思うのでお迎えに行ってまいります」


 家僕の崎守が葵の到着の時間を告げる。


「唯一緒に行って葵を連れて来て」


「崎守彰吾さんに居住棟に立ち入らないよう足止めをして。唯葵の侍女の千佳も一緒に連れてくるように」


「「畏まりました」」


 2人が頭を下げ部屋を出て行き、替わりの侍女が部屋に入ってくる。


 綾と2人きりで葵を待つ。


「お兄様ずっと言おうと思っていたんです。私の我儘のせいで葵に会えなかったでしょう。私お兄様が会いたがっているの知っていたのに、お兄様が葵と会っても私のこと大切にしてくれると分かっていたのに嫌だと断ってばかりで。ずっと謝りたかったんです。ごめんなさいお兄様」


 南条に葵に事を聞いていたけれど、それを綾に知られているとは思わなかった。


 僕は綾の綺麗に整えた髪を崩さないように気をつけながらなでなでした。


「それでいいと決めたのは僕だ。綾が気に病むことじゃないよ」


「でも……」


「じゃあ今謝ってくれたのでもうお終いにしよう。せっかく会えるようになったんだ、葵と仲良くしてね」


「もちろん!私の友人になるのよ葵は」


「そうだね。僕の許嫁なのも変わらずだ」


 例え葵が僕のことを忘れていようともそれは変わらない。これから僕を絶対に好きにさせてみせる。


「こちらになります。失礼します葵様をお連れしました」


 部屋の外で唯の声が聞こえドアが開く。


 ドアの前では葵が鮮やかな赤の着物を着て肩までの髪をふんわりと下したままでちょこんと立っていた。


 あの時と変わらず可愛くて、くりんとした目が印象的だ。


 葵が唯に勧められ部屋に入り「初めまして東条葵です。今日はご招待いただきありがとうございます」と挨拶した時は、立っていればその場に崩れ落ちるぐらいの衝撃だった。


 いくら忘れていた時の覚悟をしていても、実際葵に初めましてと挨拶をされることがこれほど悲しいとは想像できなかった。


 綾も泣きそうな顔をして何か言い出しそうだったが、首を振って何か言うのを止めさせた。


 綾も忘れていたことが悲しかったのだとは思うけど、今それを言っては葵が忘れていたことは幼かったのでしょうがない事なのに責められたように感じてしまう。


 平静を装い僕は立ち上がり挨拶をした。綾もそれに見習い楽しそうに挨拶をして僕たちの間の席を勧める。


 綾とはすぐに仲良くなり、パウンドケーキが食べたいだろうに我慢したり、少しでも綾のように綺麗に食べたいと、綾を見ながら一生懸命食べる姿が可愛すぎてぎゅっとしたくなる。


 僕がしばらく同席することも嫌がらず、違う話題の時一緒に話したいと言われた時はどれほど「今すぐリボンの話などせずに葵が好きだと言った本の話をしよう」と言いたかったか。


 でもあの箱の中には葵が思い出すかもしれないレースが入っているので何とか堪えることができた。


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