葵5歳 梅月-2
「良かった。じゃあこれから家においで」
彰吾さんはやっぱり嫌だと言い出さないように、私を抱き上げ玄関へ向かう。
「待って。待ってください彰吾さん。千佳、千佳も一緒でもいいですか?」
どこに行くのかさっぱり分からないけど、千佳がいてくれたら大丈夫な気がする。
「あっ、そうだね。千佳一緒に来なさい」
「彰吾様お泊りもありますか?その場合着替えの用意が必要になります」
「それはこちらで用意するからそのままでいい。……千佳が必要か。ここでお茶を飲んでいるからすぐに用意しなさい」
彰吾さんは私を椅子に座らせ、彰吾さんも座りなおしてお茶を飲み始めた。
「すぐに用意いたします」
千佳は本当に急いで用意してくれて、彰吾さんがお茶を飲み終わる頃には荷物を纏めて馬車へと積み込んでいた。
「さて、用意が出来たし出ようか」
彰吾さんはもう一度私を抱き上げ、玄関を出た。そこには窓から見たことがある馬車よりもずっと綺麗な馬車が止まっていた。
馬車の前で待っていた男の人がさっと馬車のドアを開けると、彰吾さんはありがとうとも言わず私を抱いたまま馬車に頭から入り、私を奥に座らせ隣に腰掛けた。
すると馬車のドアが閉められてしまった。
「待って、千佳がまだ乗ってないの!」
千佳が置いていかれては嫌なので急いで声をあげた。
「千佳は御者の隣に座っているから大丈夫だよ。ほら動き出したから外を見てごらん」
千佳のことが気になったけれど外を見てみると、建物がどんどん過ぎて行って、家の周りしか見たことが無かったからとても面白くてずっと外を見ていた。
「葵見てごらん。あれが神殿。真家ではとても大切にしている場所だよ。で、あれが僕の家」
彰吾さんが指さす方には周りの建物とは違った感じの大きな建物があった。背後には大きな森があり、建物が森に守られているように見える。
彰吾さんの家も私の家よりもずっと大きく立派だった。
「さぁ着いたよ。葵おいで」
彰吾さんは開けてくれたドアから降り、私が降りるのを手伝ってくれた。
「葵様初めての馬車で疲れていませんか?」
「千佳!大丈夫疲れてないわ。外を見ているのが楽しかったもの」
馬車から降りると傍に千佳が立っていたので、思わずしがみついた。
「それは良かったです」
にこっと笑ってくれた千佳に嬉しくて、もう一度ぎゅっとする。
「仲がいいのは分かったから家に入ろうか」
彰吾さんが少し機嫌が悪そうに見えたので、そ~と千佳から離れ彰吾さんの傍に行く。
傍まで来たことを確かめた彰吾さんが開いていた玄関の中へ入っていくので、大人しく後ろを付いていく。
彰吾さんは歩くのが早いので、家の中で待っていた人の傍で彰吾さんが立ち止まった時、私はまだ玄関と彰吾さんのところまでの半分ぐらいのところを歩いていた。
一生懸命歩いたけれど、ずっと待たせてしまった。
「ごめんなさい。遅くなりました」
「大丈夫だ彰啓はまだ僕が抱いて歩くから、歩くのが遅いことに気が付かなかった。今度から気を付けるよ」
彰吾さんの隣に立つ女の人は小さい子と一緒にいた。
「こちらは僕の妻の千桜。この子は彰啓」
「初めまして葵。千桜よ、よろしくね」
「初めまして。葵と言います。よろしくお願いします」
男の子にも挨拶しようとしたら千桜さんの後ろに隠れてしまった。
「彰啓こんにちはは?」
千桜さんが男の子を自分の後ろから出して挨拶させようとするが、しがみついて離れようとしない。
「初めての小さい子だから私が取られるとでも思っているのかしら?大丈夫よ彰啓」
そう言っても離れず、ただ私が気になるのかじっと見られる。
「ごめんなさいね。恥ずかしがり屋だから」
千桜さんが私にそう言い、彰啓に挨拶することが出来なかったが、彰吾さんも千桜さんも何も言わないのでいいのだろう。
「先に昼食にしてしまおうか。今日は明日の着物も決めないといけないし、やることが沢山あるからね」
軽くだけどと出されたお昼ご飯にはお魚が付いていた。家では魚はあっても晩ごはんだけなので嬉しい。
昼食も終わりまず連れて行かれたのは私の部屋だった。
ここで住むわけでもないのに部屋がちゃんとあるだなんて。それもいつもの部屋より大きくて綺麗。
「私どこでも寝られますから。千佳と一緒に寝ます!」
いつもの部屋なら小さいし慣れているから1人で寝られるけれど、こんな部屋で寝るのは大きすぎて怖い気がする。
「千佳と寝るのはダメだよ。これからもここに来ることになると思うからここは葵の部屋」
何も言い返せない雰囲気に着物をぎゅっと握って千佳と寝たいとお願いしたいのを我慢した。
「千佳にも部屋があるからそこで荷物を解いていなさい。千佳も度々来ることになると思うから置いて帰ってもいい。詳しくは侍女に聞け。侍女に葵の下着の大きさを教えて用意してもらうように。葵は次に行こうか」
それで連れて行かれたのがさっきの着物が沢山の部屋の前。
いつもなら大人しく千佳に文字や数字を教えてもらったり本を読んだりするだけでゆっくりと過ごしているのに。なんだかわけが分からないままあちこちに行くから頭がどうにかなりそう。
はぁとため息をついただけだと思ったのに、気が付けば千佳に「夕食の時間ですよ」と起こされてしまった。
夕食では彰吾さんのお父様とお母様もいらっしゃって、いろいろお話もしたけど、なによりもごはんが美味しくて夢中で食べてしまった。




