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『サーシャ、起きなさい』
(あともう少しだけ)
『サーシャ』
(温かくて離れたくないの。ポカポカしてて、気持ちよいんだもの)
『サーシャ…』
(お父様、もう少しだけだから…)
お日様の匂いのお父様。お父様の腕の中にいると、安心していられるのだもの。大好きなお父様。そんなわたしとお父様を見て微笑むお母様。いつもと変わらない日常。
色褪せる事のない思い出。
『…お義父様』
『サーシャ、目が覚めたかい。また、夢を見たのか…』
心配そうに私を見つめるお義父様。
『…はい。でも、お父様とお母様には夢でなければ会うことは叶いませんから』
『そうか…』
私をみるお義父様の心配そうな表情に、胸がちょっと痛い。
『大丈夫です、お義父様。ごめんなさい、すっかり寝坊してしまいました』
窓の外からは小鳥の囀る音。差し込む光も優しい春の日差し。
『さぁさぁ、サーシャ様。起きてくださいまし。ハロルド坊ちゃま、レディーの部屋に入るなんて、いけませんよ』
メイド長のバーバラがやってきて仁王立ちする。
『やめてくれ、公爵当主を捕まえて、坊ちゃまは』
手で額を抑えてて、ハロルドがため息をついて抗議する。
『坊ちゃまが、公爵家に相応しいお嬢様を公爵夫人に迎えられました暁には、そうさせいただきます』
『ふふふ』
『サーシャ、それはないんじゃないのかい?』
恨めしげにわたしをみるお義父様。お義父様の乳母だったバーバラには頭が上がらないみたい。
『さ、サーシャ様。お召替えを。今日は大旦那様と大奥様がいらっしゃいますからね』
『お祖父様とお祖母様が?ラグレットからいらっしゃるの?』
『そうだよ。サーシャの誕生日のパーティーがあるだろう?それに合わせてね』
『嬉しい。お祖父様とお祖母様にお会いするのは一年振りですもの』
ベットから飛び起きて、お義父様に抱きつく。
『こらこら、レディーはこんなお転婆な事はしないよ。まだまだ子供ただなぁ』
笑いながらお義父様がわたしの頭を優しく撫でてくれる。
『もう15になります。お義父様ったら、いつまでもわたくしが小さな子供だと思ってらっしゃるんでしょう』
頬を膨らませてお義父様を見上げると、じっと私を見つめて微笑む。
『リスみたいに頬を膨らませている様では、ねぇ』
真面目に話すお義父様の肩が微妙に揺れているのが腹立たしい。
『ハロルド坊ちゃま。さぁさぁ、サーシャ様はこれからお召替えをですからお目になってください。セリア、プリシラ、サーシャ様のお召替えを』
バーバラに促されて、お義父様は廊下に。私は隣の部屋に移動して身支度を整えた。