出会い
『お父様、お母様………』
礼堂に静かに並べられた白い棺。
中には沢山の花に囲まれたお父様とお母様が、横たわっている。
小さな手をお顔に差し伸べてみる。
『サーシャ、まぁ、手が温かいわ。もう、お眠の時間かしら』
『そうだね。庭で沢山駆けっこして遊んだからね。お転婆なわたしの可愛いサーシャ。』お父様の腕に抱かれて、お母様に微笑まれて。温かい温もりに包まれたのが、生きていたお父様とお母様の最後の記憶。
乳母に私を預けて2人で夜会に出掛けた道中で、馬車が突然の事故に巻き込まれて。
酷い事故だったと、周りにいる大人達が口々に話している。でも、棺に横たわっているお父様とお母様のお顔は綺麗なままで、眠っている様にしか見えない。
大人達はそう言うけど、何かの間違いで。お父様とお母様は、眠っているだけかもしれない。
『お父様。起きて』
お父様に呼びかける。でも、目を開けてはくれない。
『お母様、お願い、起きて』
お母様に呼びかける。でも、目は開けてはくれない。
『お父様、お願い。起きてサーシャを見て』
『お母様、お願い。起きて、サーシャって呼んで』
差し伸べた手が触れた、お父様とお母様の頬は痛いくらいに冷たく、どれだけ読んでも、もう2度と目を開けてくれはしないのだと理解した。
目から涙が溢れ出る。涙で2人の顔もぼんやりとしか見えない。
『あらあら、サーシャ。そんなに泣いたら目が溶けてしまうわ』
『そうだよ、サーシャ。可愛いお姫様が台無しだ』
そんな風に愛して慰めてくれた両親は、冷たい骸となって静かに棺に横たわっていた。
『しかし、子爵夫妻もお気の毒に』
『あんな小さな子を1人残して』
『子爵家の事業は上手くいっていたから、それなりに資産は残しているにしても、あの子が後継だとは』
『しかし、後継と入っても、あんな幼子では。後見が必要だろう』
『後見か。しかし、上手く取り入れば・・・・』
『実権は後見が・・・となると、・・・』
周りの大人達の思惑が飛び交う。ひそひそと囁かれる言葉は、サーシャの耳に入るものの、どこか違う世界の事に聞こえるばかりで、サーシャはただただ泣き続けていた。
『サーシャ。遅くなってすまなかったね』
サーシャの隣にいつの間にか誰かがいる。地面に片膝をつき、涙にぬれたサーシャをぎゅっと抱きしめた。
『お父様とお母様が起きて下さらないの』
『・・・そうか』
『サーシャっていつも呼んでくれるのに、呼んで下さらないの』
『・・・そうか』
『起きてって声をかけたのに、目を開けてくださらないの』
『・・・・・』
『どうして?どうしてお父様とお母様は眠ったままなの?どうして起きて下さらないの?どうしてサーシャって呼んでくれないの?どうして、どうして・・・・・』
涙が次から次へとあふれ出す。サーシャを抱きしめたまま、その人がサーシャに優しく話かける。
『サーシャ、聞いてくれるか?サーシャのお父様とお母様は天国に召されたのだよ』
『天国?』
『そう、神様がおわします天上の楽園に。二人は逝ってしまったんだよ。だから、どれだけサーシャがお願いしてもお父様とお母様は起きてくれないんだよ』
『お父様、お母様…』
大好きな両親は、もう2度と目をあけてくれない。息もできなくなるくらい胸が痛いのに、わたしを抱きしめる腕の暖かさに、少しずつ力が抜けてくる。
『でも、2人はサーシャの側にはいないけど、これからは私が代わりにずっと側にいるよ』
『お父様とお母様の代わりに…』
『そうだよ』
体から力が抜けて、目が閉じてしまう。
お義父さ、ま?』
『そうだよ。今日から私がサーシャお義父様だ』
『わたくしのお義父さま……』
最後に見たのは優しい目をしたお義父様の微笑みでした。