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メイド・ルーシェのノルトハーフェン公国騒乱記(完結:続・続編投稿中) ~天涯孤独な少女が拾われたのは、公爵家のお屋敷でした~  作者: 熊吉(モノカキグマ)
第4章:「包囲網」

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第81話:「模擬戦闘:4」

第81話:「模擬戦闘:4」


 自分が、足を引っ張ったのではないか。

 エドゥアルドにはそんな思いがあったからがむしゃらに相手に突きかかって行ったのだが、今度は、エドゥアルドは防御に徹することにした。


 エドゥアルドの戦いぶりに、見るに見かねて正体をあらわしてしまったシャルロッテを、これ以上心配させないようにするためだ。

 エドゥアルドは無理をすることなく、どうやら銃剣術もよく心得ているらしいシャルロッテに頼るつもりだった。


 エドゥアルドの背後では、シャルロッテが大柄な兵士と銃剣で戦っている。

 どうやら、相当な強敵のようで、シャルロッテは苦戦しているようだった。


 シャルロッテは素早く動くことができるが、体格の差、筋肉の差などは、技術があってもカバーしきれないモノであるようだった。

 相手は銃剣で突く、切るだけでなく、ストックを棍棒こんぼうのように振り下ろしたりして、シャルロッテとの体格差を生かして戦っている。


 せめて、シャルロッテが大柄な兵士との決着をつけてこちらに来るまでは、自力で戦い抜こう。

 エドゥアルドは、シャルロッテをあまり心配させ過ぎないように、せめて自分がきちんと身を守れるということを証明したかった。


 今度の兵士は、さきほどまで戦っていた髭の兵士と違って、相手がエドゥアルドだと気づいても積極的だった。

 身長は平均的だがやせ型で、やけに目をぎらつかせた男性の兵士で、「ヒュッ! 」と鋭く息を吐き出しながら、エドゥアルドめがけて容赦ようしゃのない突きをくり出してくる。


 その狙いも、遠慮がなかった。

 なめした皮を巻いている胴体ではなく、のどを狙って来たのだ。


 木製の銃剣で、殺傷能力は低いとはいえ、それなりに固いそれでのどを思い切り突かれたら、さすがに無傷というわけにはいかない。

 最悪、大けがをするか、息ができなくなって死んでしまうかもしれない。


 エドゥアルドはやせ型の兵士の、殺意すら感じさせるその攻撃を、かろうじて回避した。

 それから、自身の銃剣を相手の銃剣に重ね合わせ、力をこめてぐるんと一回転させてからめとる。

 先の兵士との戦いで、エドゥアルドも少しは銃剣での戦い方というものがわかってきていた。


 やせ型の兵士は、エドゥアルドがこんな技を使ってくるとは思っていなかったのか、思わず自身の手から銃剣を取りこぼしていた。


(1人、行けるか? )


 エドゥアルドは勝負に勝てそうだと思いながら、武器を失って無防備になったその兵士の胴体に軽く銃剣を突き入れようとかまえをとる。


 そんなエドゥアルドの目の前で、やせ型の兵士は自身のふところに手を突っ込むと、そこから1本のナイフを取り出した。

 先端が細身の諸刃になっていて、切るのにも突き刺すのにも使いやすいように工夫をされた、ボウイナイフと呼ばれるものだ。


 それは、今、エドゥアルドが使っている銃剣のような、木製ではなかった。

 本物の鋼鉄で作られ、本物の鋭く研がれた刃を持つ、相手を殺傷する能力を持った武器だった。


 その瞬間、エドゥアルドは、自身の軽率さが、現実の危険となって姿をあらわしたのだということを理解していた。

 兵士たちの中にまぎれていた、簒奪者さんだつしゃの一味が、エドゥアルドの前にその姿をあらわしたのだ。


「シューッ! 」


 暗殺者は、蛇のような声をはしながら、エドゥアルドに向かってボウイナイフを振るった。

 エドゥアルドは銃剣でその攻撃を受け流そうとしたが、よく研がれた暗殺者のナイフは木製の銃剣を切り飛ばし、暗殺者は鋭い踏み込みでナイフの間合いへと距離を詰めてくる。


 手慣れている動きだった。

 暗殺者は素早く、注意深く状況を見ながらも、判断が早く、一瞬でエドゥアルドをナイフで切り裂くことのできる状況を作りだした。


 暗殺者は横なぎにナイフを振るい、エドゥアルドは咄嗟とっさに身体をのけぞらせて、刃に自身の喉笛のどぶえを切り裂かれるのを阻止する。


 暗殺者のナイフを、かすらせでもするわけにはいかなかった。

 もし、ナイフに毒でもぬってあれば、かすっただけで命が危なくなる。


「シャーリー! 」


 エドゥアルドは危機を知らせるために、自分のことを心配してこの場にいるシャルロッテの名を呼んだ。

 つい先ほどまでは自力で生き残れることを証明しよう、などと思っていたのだが、こちらは木製の銃剣であるのに対し、相手は高い殺傷能力のある武器を持っている。

 エドゥアルドが不利なのは明らかだったし、変に意地を張って命を失ってしまうのでは、あまりにも滑稽こっけいなことだった。


「殿下っ!? 」


 エドゥアルドの危機を知ったシャルロッテは、悲鳴のような声をあげる。


 だが、彼女は動けない。

 大柄な兵士によって棍棒のように振り下ろされたマスケット銃を受け止めるのに精いっぱいで、身動きが取れないのだ。


 大柄な兵士は、エドゥアルドの状況に気づいていないのか、あるいは、彼もまた、暗殺者のグルなのか。

 もう少しで圧倒できそうなシャルロッテに向かって、全力で力をこめて押しつぶそうとしている。


「クソッ! 」


 エドゥアルドはそう悪態あくたいきながら、暗殺者の振るうナイフをなんとかかわした。

 エドゥアルドが被っていた三角帽のつばが切り裂かれ、エドゥアルドのブロンドの髪が数本、切り取られて宙に舞う。


 暗殺者は、ニヤリと不敵な笑みを浮かべた。

 この乱戦の中でエドゥアルドの危機に気づき、彼を助けることのできる者が1人もおらず、そして、エドゥアルドの白兵戦の技量なら、確実に始末できると思ったのだろう。


(剣が! 剣さえ、あれば! )


 エドゥアルドは、ノルトハーフェン公国の歩兵に、サーベルが武装として支給されていないことを恨んでいた。

 使い慣れた剣さえあれば、もっとマシな戦いができると思うからだ。


 だが、この場にないものはない。


 エドゥアルドは1人だけで、この暗殺者と対峙たいじし、生き延びなければならなかった。


※作者注

 ボウイナイフは、年代的に言えば作中で想定している年代の19世紀初頭より少し後に広まるものですが、作者が見た目を好きなので使用しています。

 [やる気]に満ちあふれている感じで、ナイフ1本のテクニックにかけるタイプのキャラにはぴったりだと思います。


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