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メイド・ルーシェのノルトハーフェン公国騒乱記(完結:続・続編投稿中) ~天涯孤独な少女が拾われたのは、公爵家のお屋敷でした~  作者: 熊吉(モノカキグマ)
第4章:「包囲網」

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第68話:「できること:1」

第68話:「できること:1」


「わたしたちにできることって、なんだろうね? カイ。オスカー」


 エドゥアルドの警護を名目として、エーアリヒが兵士たちを送り込んできてから数日後。

 寒い、雪のちらつく夜、ルーシェは自室のベッドの上に寝ころび、カイとオスカーを抱きしめながらそう2匹の家族に問いかけていた。


 ルーシェは、不安だった。

 エドゥアルドへの包囲網は着実に狭まってきているのに、自分たちはどうすることもできないのだ。


 このままでは、せっかく手に入れることができた居場所を、ルーシェは失ってしまう。


 雪のちらつく冬でも、[寒い]程度で済ませられる、ちゃんとした屋根と壁があり、ベッドも毛布も布団もある今の生活。

 毎日忙しいが、毎日きちんとした食事をもらうことができ、衣服も清潔でしっかりとしたものを身に着けることができる。

 今のルーシェは、おしゃれにも気を使う余裕があるのだ。


 しばらく前までのスラムの生活からすれば天国のようなこの暮らしを、ルーシェは失いたくはなかった。

 ルーシェのことをきちんと1人の存在として見てくれるエドゥアルドやシャルロッテ、マーリア、ゲオルクのことがルーシェは好きだったし、カイ、オスカーの2匹の家族と一緒に暮らせる毎日が、ルーシェには幸せだった。


 だが、その幸せな日々が失われようとしている。

 それがわかっているのに、ルーシェにはどうすることもできない。


 2匹の動物たちは、ルーシェの問いかけに答えなかった。

 カイはルーシェによりそうようにベッドに横たわり、へっへ、へっへ、と舌を出しながら息をしている。

 オスカーは、そのカイとルーシェの間に寝そべってぬくぬくとしながら、退屈そうにふわぁ、と大あくびをしている。


 どんな問いかけをしようとも、この2匹がルーシェの問いかけに答え、この状況を打破する作戦をさずけてくれることはないだろう。


「わたしにできること、なにか、ないかなぁ」


 ルーシェは、右半身を下にしてベッドに横たわり、カイとオスカーの体温を感じながら、2匹が答えなどくれないと知りつつも、自身の悩みを声に出す。


 スラム街で暮らしていたころも、こんな感じだった。

 ベッドはもちろん、まともな布団も毛布もないような場所を住家としていたから、夜はこうやって家族でよりそって眠るのが常だった。


 そして、ルーシェはその日にあったことや、自身の悩み、不安などを、2匹の家族が答えてくれることなどないと知りつつも話しかける。

 2匹の動物たちは確かにルーシェの問いかけに答えてなどくれないのだが、[誰かに聞いてもらえる]というだけで、少しだけ気持ちが和らぐし、嬉しいからだ。


 それに、ルーシェの言っていることを理解できなくとも、カイも、オスカーも、ルーシェが悩んでいることにはきちんと気づいてくれる。

 ルーシェの表情を見ているのか、それとも声の調子で判断しているのか。

 それはわからないが、2匹はいつでも、ルーシェによりそっていてくれる。


 今も、そうだ。

 カイは少し心配するような視線でルーシェのことを見つめ、オスカーも、日課となっている館の見回り(ねずみの捜索と退治)にも出発せずにここにいてくれている。


 ルーシェはその2匹の毛並みを優しくなでながら、シュペルリング・ヴィラで暮らす人々の表情を思い浮かべる。


 余裕のない、切羽詰まったような表情。

 みな、平静をよそおってはいるが、どうしても隠しきることはできない、焦り。


 ルーシェは、自分にもなにかできることはないか、本当はエドゥアルドたちにたずねたかった。

 だが、余裕のないエドゥアルドたちの姿を目にすると、その問いかけを口にすることができなくなってしまった。


 ルーシェと同じように、エドゥアルドたちにも答えは見つけられていないのだ。

 エドゥアルド自身も、シャルロッテも、マーリアも、ゲオルクも、この状況を抜け出す方法、生き延びるための答えを考え続けている。


 だからこそ、彼らの表情には余裕がない。


 そんな彼らに、ルーシェがまだ見つからない[答え]を教えて欲しいと頼んでも、無駄なことだし、ルーシェはエドゥアルドたちの邪魔をしたくはなかった。


 だから結局、こうやって、物言わぬ家族を相手に自身の不安を口にするしかない。


(明日も、朝早い……。きっと、寒いんだろうなぁ……)


 ルーシェは少しまどろみ、半分目を閉じつつ明日のことに思いを巡らせていたが、しかしそれで、自分自身になにかできることはないものかと考えることはやめられなかった。


 シュペルリング・ヴィラの状況は兵士たちの登場で大きく変化していたが、それでルーシェたち使用人の仕事が減ったわけではない。

 明日も仕事はたくさんあったし、あまり夜更かししていては寝坊してしまうかもしれない。


 それでも、今のルーシェにとって幸せな暮らしが失われてしまうかと思うと、それを避ける方法を考えずにはいられない。


 窓の外で、誰かがくしゃみをするのが聞こえたのは、ルーシェがいつの間にか眠りに落ちようとしていた時だった。


(外に、誰かいるのかしら? )


 突然のくしゃみに眠気が覚めてしまったルーシェは、そう思いつつベッドから半身を起こし、カーテンを薄く開いて窓の外を見る。


 まだ、外では雪がちらついている。

 本格的に降り積もるというほどではなかったが、見ているだけで凍えて来そうな光景だった。


 その寒空の下を、2名の兵士が明かりを取るためのランプを片手に巡回していた。

 シュペルリング・ヴィラに異状がないか、侵入者の痕跡がないかを見回る、定時の巡回である様子だった。


 どうやら、くしゃみをしたのはその2名の兵士の内のどっちかであるらしい。

 兵士たちには冬の寒さに備えて生地を厚手にした衣服が用意されていたが、この雪のちらつく寒さの中ではくしゃみもでるだろうと思える。


(寒いのに、兵隊さんは大変そう)


 兵士たちは、エドゥアルドをおびやかす敵の一味だ。

 それでも、ルーシェは思わずそう同情せざるを得なかった。


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