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メイド・ルーシェのノルトハーフェン公国騒乱記(完結:続・続編投稿中) ~天涯孤独な少女が拾われたのは、公爵家のお屋敷でした~  作者: 熊吉(モノカキグマ)
第2章:「少年公爵」

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第22話:「すずめ館|(シュペルリング・ヴィラ):3」

第22話:「すずめ館(シュペルリング・ヴィラ):3」


 どうして、シュペルリング・ヴィラでは、こんなに使用人の数が少ないのか。


 館は立派で大きく、庭も広い。

 そんな館に公爵が1人だけで住み、護衛の兵士たちの姿すらなく、数人の使用人だけを従えているのは、なぜなのか。


 その問いかけをルーシェからされた時、マーリアはすぐには答えなかった。


 やはり、まずいことを聞いてしまったのか。

 ルーシェはそう心配になったが、マーリアは少し間をあけてから、ルーシェの問いかけに答えてくれた。


「……そうだね。もう、アンタにも、知っておいてもらった方が、いいかもね」


 その、少し暗く沈んだようなマーリアの口調に、ルーシェは緊張して、思わず姿勢を正してしまった。

 これから、深刻で、真面目な話が始まるとわかったからだ。


「ルーシェ。あんたを雇う時もそうだったけれど、今、この館では、公爵家では、なるべく外から新しく人を入れないようにしているのよ」

「人を入れないように、ですか? 」

「そう。……公爵殿下が、本当に信頼できると、そうお考えになっている者たちだけを、おそばに置くようにしているんだよ」


 マーリアはそこまで言うと、1度口を閉じ、かまどの中をのぞいて、まきをその火の中に加え、火かき棒でかきまわして火加減を調節する。


「それは……、どうしてなのでしょうか? 」


 ルーシェは、ひかえめにマーリアに続きをうながした。

 あまり急かすのはマーリアによく思われないかもしれないとは思うのだが、ルーシェは続きを早く知りたかった。


「公爵殿下は、狙われておいでなのさ。……その地位も、お命さえも」


 固唾を飲んで答えを待っているルーシェの方を一瞥いちべつした後、マーリアは暗い声で、だがはっきりと、そう言った。


 ルーシェも、公爵家が問題を抱えているというのは承知していた。

 明らかに館の様子には違和感があったし、シャルロッテたちにも、ルーシェが知らないなにかに注意しているような気配があった。


 だが、こんなに深刻で、はっきりとした問題だとは、ルーシェは思っていなかった。


 公爵は、命を狙われている。

 あの、若い少年公爵が。


 だからこそ、この館では、公爵にとって信頼のおけるごく少数の人間しか働いていないし、人出がいくら足りないと言っても、ルーシェのような特例を除いて誰かを雇おうとはしない。

 外からやって来たその人間が、公爵の命を狙う者の一味でないとは限らないからだ。


「それで、その……、公爵さまは、いったい、誰に狙われておいでなんです? 」


 ルーシェは、さらに突っ込んだ質問をする。


 少年公爵、エドゥアルド公爵の地位と、命を狙っている者が誰なのか。

 それをルーシェが知っていたところでなにかできるわけでもない。

 そう思うのだが、もしかするとルーシェにもなにかできることがあるかもしれない。

 そうであるのなら、役に立ちたいというのが、ルーシェの率直な気持ちだった。


 ルーシェは、エドゥアルド公爵についてほとんどなにも知らないも同然だったし、挨拶のために出向いて以降、まともに会ったことさえない。

 その内、ルーシェも公爵の身の回りの世話をするようになるのかもしれなかったが、「呑み込みが早い」とシャルロッテからはほめられはするものの、ルーシェはまだまだ半人前のメイドであり、まだ公爵の近くで働いたことはないのだ。


 赤の他人同然で、そして、ルーシェはエドゥアルド公爵について良い印象を持ってはいなかったが、それでも自身が仕える主で、ルーシェたちを雇い、スラム街での悲惨な暮らしを救ってくれたという恩がある。


「いや。悪いけど、ルーシェ。アンタは、まだそこまで知らない方がいいよ」


 だが、マーリアはそう言って肩をすくめると、エドゥアルド公爵の地位と命を狙っている相手については教えてはくれなかった。


「アンタはまだここに来て日が浅いし、まだまだ半人前さ。……公爵殿下のことで思い悩むよりもまず、仕事をきっちりと覚えてもらわないといけないからね」

「でもっ、メイド長さま! ルーにだって、公爵さまに御恩はありますっ! 」


 ルーシェは思わずマーリアに1歩つめよると、身体の前に両手で握り拳を作り、マーリアに真剣に訴えかける。


「ルーは、公爵さまに雇っていただきました! カイも、オスカーも、一緒にこの館に住まわせてもらいました! ここはとってもいいところです! ごはんは美味しいし、屋根も壁もしっかりしているし、ベッドまであります! 天国みたいなところです! 」


 だから、自分もなにかの役に立ちたいのだ。


 それはまぎれもなくルーシェの本心であったし、その気持ちは、マーリアにもしっかりと伝わっているはずだった。


 だが、マーリアはそんなルーシェの方を見て小さく微笑んだだけだった。


「ルーシェ。あんたの気持ちは嬉しいよ」


 そう言うと、マーリアはまたかまどの中にまきを加え、火かき棒で調節しながら、鍋を焦げつかせないようにかき混ぜ続ける。


「けど、あいにくだけど、公爵殿下のお命を、誰が狙っているかは、はっきりとした証拠がないから、本当はなんとも言えないんだよ」


 マーリアのその返答に、ルーシェはやや憮然ぶぜんとして、納得がいかないというふうな表情を作る。


 証拠がない、というのは、おそらく本当なのだろう。

 だが、マーリアも、多分、シャルロッテもゲオルクも、そしてエドゥアルド公爵自身も、誰が陰謀を巡らせているのかに心当たりがあるのに違いなかった。


 それでも、ルーシェには教えてもらえない。

 ルーシェは、自分が役に立てないこと、そしてまだ半分は他人扱いをされているということが悔しかったが、マーリアを説得することができるような言葉も持ち合わせてはいなかった。


「ルーシェ。よく、覚えておきなさい。……これは、大切なことだよ」


 そんなルーシェに、マーリアは、子供に言い聞かせるような口調で命じる。


「もし、公爵殿下と、あたしたちになにかあっても。……なにがあっても、アンタは、知らぬ、存ぜぬで通して、躊躇ちゅうちょなく、ワンコと猫ちゃんを連れて、逃げなさい」


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