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メイド・ルーシェのノルトハーフェン公国騒乱記(完結:続・続編投稿中) ~天涯孤独な少女が拾われたのは、公爵家のお屋敷でした~  作者: 熊吉(モノカキグマ)
第5章:「ヴィルヘルム」

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第103話:「お前はどちらだ:1」

第103話:「お前はどちらだ:1」


 エドゥアルドは、ヴィルヘルムのことを信じたわけではなかった。

 彼は、エドゥアルドにとって敵でしかないはずのエーアリヒの息がかかっている人物で、いつも柔和な笑みを仮面のように自身の顔に張りつけた、底の知れない人物だった。


 だが、ヴィルヘルムは今のところ、誠実にエドゥアルドの家庭教師としての役割を果たしている。


 彼が、敵なのか、味方なのか。

 エドゥアルドには、すっかり判断がつかなくなってしまっていた。


 もちろん、警戒は解いていない。

 エドゥアルドがヴィルヘルムの授業を受ける時にはいつでもシャルロッテが警護についていたし、ヴィルヘルムの監視も密かに続けている。


 しかし、ここ数日で、ルーシェはすっかり、ヴィルヘルムに篭絡ろうらくされてしまったようだった。


 本人は頑なに否定し続けているが、やはり、ヴィルヘルムがくれるキャンディの味にすっかり魅了されてしまっているらしい。

 なにかヴィルヘルムの用事をこなしたり、手伝ったりするとキャンディがもらえるので、ルーシェはヴィルヘルムの手伝いを積極的にするようになっているし、その部屋の掃除も念入りに行うようになっていた。


 餌づけされた、子犬。

 ルーシェはもう、そんな感じになってしまっている。


 それでも一応、「ルーは懐柔なんてされていません! 」と本人は主張しているので、ルーシェは今でもヴィルヘルムの監視を自主的に続けている。

 エドゥアルドはヴィルヘルムに授業を受けている時、じっとのぞき見ているルーシェの気配をいつでも感じていた。


 別に、ルーシェが楽しそうにしているのはいいことだし、相変わらずエドゥアルドのためを思って行動してくれているのは嬉しいのだが、エドゥアルドはなんだかおもしろくなかった。


 ルーシェは、エドゥアルドに仕えているメイドであるはずなのに。

 すっかりヴィルヘルムになついてしまって、口では懐柔かいじゅうされていないと言い張りつつも、楽しそうにおしゃべりをしたり、時折ヴィルヘルムから勉強を教えられたりしている様子を見ると、なんだかエドゥアルドはイライラとしてくる。


 おかげで、ルーシェにやろうと思って用意していたキャンディも、すっかり渡し損ねてしまっていた。

 なんというか、(どうせヴィルヘルムからキャンディをもらっているのだろう? なら、僕から渡す必要はないよな? )という、ねたような気持になってしまうのだ。


(結局、ヴィルヘルム、お前はどちらだ……? )


 彼が、敵なのか、味方なのか。


 もし敵であるのならどうにかして排除したかったし、その一方で、もし、万が一、エドゥアルドに真剣に協力するつもりがあるのなら、ヴィルヘルムの能力は頼もしいものだった。

 授業を受けているうちに、ヴィルヘルムが多くの知識を持ち、それらの知識を活用する思考法を身に着けているということがわかってきている。


 ヴィルヘルムは、実権などなくとも、人を味方につけることは可能だと言った。

 それが、彼にエドゥアルドのために働くつもりがあるという意思を、暗示するサインであったとしたら。


 エドゥアルドとしても、味方は1人でも欲しいし、なにより、ヴィルヘルムが力を貸してくれるのであれば、頼もしいと思った。

 それに、少なくとも、ルーシェがなついているということは、おそらくは悪い人間ではないのだ。


 ルーシェには、スラム街で育ち、散々人にだまされ、翻弄ほんろうされて来た過去があるためか、強い警戒心があって、性格の良し悪し、誠実な人間かどうかを見分ける能力がある。

 本人は無自覚に取捨選択を行っているようだったが、ルーシェが自然と避ける兵士たちの中には素行の悪い者が実際に多かったし、その一方で、打ち解けてよく話している兵士たちは、誠実で、エドゥアルドにも忠誠心を持っている者が多いようだった。


 おかげで、信用できる兵士、できない兵士をふるい分け、シャルロッテに命じて分類するのがかなりはかどっている。


 のんきで無邪気なようなルーシェだったが、エドゥアルドは密かに、その人を見分ける感覚を頼りにしていた。

 もちろん、必ずそうだと見抜けるとまでは思ってはいないが、アテにしていいと考えている。


 そんなルーシェが、なついている。

 キャンディをもらえるものだからそれですっかり骨抜きにされてしまっているという可能性はあったが、なんというか、[賭けてみてもいい]、そんな気になって来るのだ。


────────────────────────────────────────


「剣術の鍛錬につき合え、と? 」

「そうだ。……今まで、これも1人で続けて来たからな。変なクセがついているかもしれない。それを、貴殿に見てもらいたいのだ」


 ヴィルヘルムが、敵なのか、味方なのか。

 それをいよいよ、直接的な方法で確かめようと決心したエドゥアルドの申し出に、ヴィルヘルムは最初、怪訝けげんそうな顔をしていた。


 そんなヴィルヘルムに、エドゥアルドは挑発するように言葉を続ける。


「どうかしたのか? 貴殿は、剣術の腕も確かだと、エーアリヒ準伯爵より聞いているが」

「いえ。少々、驚いただけでございます」


 だが、そんなエドゥアルドの言葉に、ヴィルヘルムはすぐにいつもの柔和な笑みを浮かべ、うなずいてみせる。


「いいでしょう。せっかく殿下にお声がけをいただいたのですから、わたくしの剣術の腕前、殿下にお見せいたしましょう」

「よし。なら、すぐに、裏の森へ行こう。僕がいつも鍛錬に使っている訓練場がある。……今日は、久しぶりに天気がいい。本を読むより、身体を動かしたい気分だったんだ」


 ヴィルヘルムの返答に、エドゥアルドはニヤリ、と不敵な笑みを浮かべていた。


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