第五話 四月二-三週(南視点)
今日も朝から私は固まっている。
原因は、私の後ろの席に座る存在だ。
『山岸 遼太郎』、同じ中学校出身のクラスメート。
男子にしては髪は長めだが、不潔な感じはしない。
派手な印象はないものの、顔立ちが整っているからだろう。
ただ、最近は笑っているところを見たことがないので、何を考えているのかは良く分からない。
人によっては取っつきづらい印象を持っているかもしれない。
そんな遼太郎と最後に口を聞いたのは、中学二年の夏だ。
それ以来話をするどころか、目を合わせることすらほとんどない。
こんな関係になるなんて、その時は思っていなかった。
前からプリントが回ってくる。
そのまま普通に回せばいいのに、私の体の動きがぎこちなくなる。
遼太郎がいることが分かるから、緊張して自然に後ろを向けないのだ。
結局、変な感じにプリントを置いてしまう。
……良かった、なんとか机の上には置けたみたいだ。
でも、こんな感じじゃ駄目。
早く何とかしないと……。
そんなことを考えていると、後ろから話し声が聞こえてくる。
遼太郎の声だ。
話の内容は良く聞こえないけど、隣の男子……日置君? と話しているようだ。
ここで私に話を振ってくれれば思ったけど、やっぱりそんなに都合の良いことはないらしい。
きっかけが見つかるまでは、気長に行こう。
私は自分の中でそう切り替えて、授業の準備を始めた。
――
クラスメートの雑談に付き合っていたら、いつもより遅い時間になってしまった。
次の電車を逃すと、高校一年生にそぐわない帰宅時間になりそうだ。
両親からの叱責も覚悟しなくてはならない。
時計を確認すると、電車の時間が迫っている。
このまま歩いてたら厳しいかもしれない。
……よし、走ろう!
そう結論を出した。
とは言え、花も恥じらう乙女がいきなり走り出すのもいかがなものかと思い、周囲を確認する。
大丈夫、誰もいないはず……。
そう思って後ろを振り向くと、そこには遼太郎と日置君がいた。
――え、いつからいたの!?
――ここでいきなり走り出したら、私変な人じゃない!?
――ど、ど、どうしよう!?
そう思いながらも、内心パニックになった私は、結局駅に向かって走り出した。
二人には変な人だと思われてしまったかもしれない。
――違うの、色々あったの!!
誰に言うでもなく、心の中で言い訳をしながら走る。
距離が離れるにつれ、恥ずかしさが沸き上がり、赤面する。
電車には間に合ったが、家に着くまで私の顔は熱いままだった。