第二話 入学(南視点)
四月、桜が咲き始める少し手前、私の高校生活の幕が開けた。
少し目標の高い、進学校と言われる第一志望に合格した私は、入学式を終えて自分の席に座っている。
中学校の時の友達も知り合いもほとんどいないはずの学校。
そんな遠方の高校に望んで進学したにも関わらず、私は前を向いたまま身動きを取れず固まっていた。
原因は私の後方に座る男子、『山岸 遼太郎』の存在だ。
同じ中学校から進学した、唯一のクラスメート。
きっと遼太郎は、私と同じクラスになってしまったことを『最悪だ』と思っていることだろう。
顔を合わせなくても、なんとなく分かる。
それでも声を掛けてみようか、と気持ちの整理をしていると、知らない女子に話しかけられた。
「ねぇ、どこの中学から来たの?」
「あ、私は西中だよ」
「へぇ~、私は東中! 西中からって、あんまりいないよね」
「そうね、私しかいないみたい。……女子は」
きっと私達の話は遼太郎に聞こえているだろう。
ここで『遼太郎も同じ中学』と伝えて、遼太郎に話を振ろうかと一瞬考えた。
けれど、その一言が言えなくて、そのまま雑談を続けた。
後ろは見てないけど、私達の話、聞かれちゃってるかな。
しばらくして、ホームルームが始まり、自己紹介の時間になる。
「南 せいらです。よろしくお願いします」
私は何を言っていいか分からなかったけど、好きな食べ物の話をしてみた。
何人かが、頷きながら聞いてくれていた。
自分の話が終わると、すぐに遼太郎の順番になった。
後ろを振り向くタイミングを逃してしまい、私は前を向いたままだった。
何を話すのか気になったので、しっかりと聞き耳を立てていると『趣味はビデオ鑑賞』と言っていた。
映画とかが好きなのだろうか。
結局その日は、遼太郎と話すことはなかった。
私の高校生活は、こんな感じでスタートしたのだった。