ラブレター、名探偵充て
ほおずき団地の今日のお話
放課後を告げるチャイムを聞き、リュックを背負って教室を出た。玄関に向かう途中で他の生徒たちとすれ違う。同じ高校生なのにどうしてこんなにちがうのか。友達同士で群れる女子たちには、高校生特有のきらきらというか、無敵感が漂っている。特に親しい友達のいない茜にとって無縁の世界だ。というより、むしろくだらないと思っている。
リノリウムの無機質な床がキュッと鳴った。
玄関に着くと生徒の姿がちらほら。茜のように一人でさっさと帰る生徒は少数派である。自分は少数派であるという自負が茜にはあった。
少し機嫌よく下駄箱に手を伸ばすと、履きなれたローファーの上に白い紙が置かれていることに気が付いた。
山本茜様
伸ばした手が一瞬止まる。しかしコンマ3秒で冷静さを取り戻し、名前の書かれた封筒を手に取った。裏返してみるが差出人は書かれていない。明音はブレザーのポケットに手紙を突っ込み、下足に履き替えて玄関を出た。いたずらとしか思えなかった。ひねくれものの自分を良く思わない人間がいるのだろう。
真っすぐ歩いて茜が住むほおずき団地に着いた。しかしなんとなく部屋に戻る気にはなれず、広場のベンチに腰を下ろした。表面のペンキが新しく、閑散とした広場に不似合いなベンチに気持ちがそわそわした。ポケットから取り出した真っ白な手紙を開けてみることにした。
丁寧に封を切り、便せんを取り出す。
明日の放課後、B校舎裏で待っています。
一文。それだけだった。差出人は不明だが、明音はどこかでこの字を見たような気がしていた。少し右上がりで右払いが長めのこの字を。
手紙が置かれた時間はおそらく5限目の体育が終わってから茜が下駄箱に着くまでの間。出席番号しか書かれていない下駄箱で、茜が確実に手紙を受け取ったということは同じクラスの生徒である可能性が高い。そして字を見る機会があった人物となると、差出人はかなり絞られる。
茜は一人の男子生徒に思い当たり、納得して立ち上がった。
次の日の放課後、茜は手紙に書かれていた場所に来ていた。
「山本さんのこと、ずっと気になってました。よかったら僕と付き合ってくれませんか」
真っ赤な顔で思いをぶつけてくるのは茜の推理通りの人物だった。くすっと笑って茜は返す。
「まずは友達からでもいいですか」
たまには人と関わってもいいかもしれないと茜は思った。一人で歩いた真っすぐな道も、いつかは誰かの道と交わって十字路になるのだ。
人と関わることを恐れないで…
ほおずき団地という名前の架空の団地を舞台に、そこに住む人々のさまざまな日常を描いています。一話完結の物語ではありますが、この話に出てきた人物が別の話にちょこっと登場することもあります。ぜひ、ほかの小説も読んでいただけると嬉しいです。