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俺の怖い話  作者: 大塚
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真夏の海水浴場



小学4年の夏休み。


半分くらいは無駄に過ごしてしまう夏休みも半ばまで来ていた。

あまりにも多い宿題もまだ全く手をつけていない。

まぁ、毎年最終日に泣きながらやらされるんだけど。

そして俺は今、神社で貰ってきた御守りを握って身の安全を祈っていた。


小学生が何で?なんて思うかも知れないけれど、俺は昔から霊感がある。そのせいで物心つく前から母さんは、困っていたそうだ。

見える見えないじゃなく、引き寄せて憑かれるタイプだと言われたらしい。らしいと言うのも、俺は誰に言われたかは知らないからだ。父さんや兄である〝かぁ君〝と姉の〝ミー〝は、俺に霊感がある事を知らない。母さんが、敢えて言わないようにしてるみたいだ。


とは言え、俺としても小学生ながらに母さんをあまり困らせたくない一心から最近、そんな話を一切しなくなった。

かわすくらいなら出来るようになってきたからだ。

と言うよりも、言ったところで解決出来ないから自分で何とかするしかないのだ。


なんてことを考えていると、


「あんた、いつまでゴロゴロしてるの!」


そろそろ、夜中の0時を回ろうかという時間に母さんがドタドタと俺の部屋に入ってきた。


「あ、ごめん。寝そうになってた!」


俺はそう言って着替えやら水着やらを入れたリュックサックを手に慌ただしく立ちあがった。


こんな時間に何故?と思うかも知れないけれど、

今日は毎年恒例の家族で海へキャンプをしに行く日だ。

夜中に出発して朝方に到着する予定で、毎年の如く母さんに怒鳴られながら俺は部屋を出る。



もう!あんたは、毎年そうなんだから!なんて母さんの呟きを聞きながら、階段を駆け降りた。


普段は寝てる時間に、こうして外に出るなんて新鮮でワクワクするな


そんなことを考えながら急いで外に出ると我が家のハイエースには、父さんと、兄と姉、それからペットの犬、ドン君が既に乗って待っていた。


「おい蓮。まさか寝てたんじゃないだろうな?」


と、父さんがニヤニヤしながら茶化してくる。

父さんは冗談でも、兄と姉は怒ったように

睨みつけてくるから困る。


「寝てないよ!忘れ物がないかチェックしてただけ!」

そう言うと俺はベンチシートの後ろに乗り込み窓の外を眺めた。


これ以上無駄に話すと兄が絡んでくる。末っ子は辛いぜ。なんて思っていると母さんが戸締りをして車に乗り込んで来て、漸く走り出した。


我が家から海までは、凡そ3時間ちょっと。

途中でトイレ休憩を挟んでも、暗いうちには海水浴場に着く予定だ。


高速道路に入ると、一気に旅行って気分になるから不思議だ。


そして始まる恒例のアレ。


「よし、じゃあ勝負するぞ!」


「蓮は弱いから、審判ね」と


かぁ君とミーが言うから、俺はトンネル息止め勝負でまた審判かぁ。と落胆する

かぁ君とは5歳、ミーとは3歳離れているから、何か勝負をする時はいつも審判をやらされるんだ。いつかブチ抜いてやる!



「はい!じゃあ次のトンネルがスタート!」

と俺が2人に言うと、2人が目を合わせて火花を散らせた。ここに、かぁ君とミーの真剣勝負が始まるのだ。


そもそもトンネル息止め勝負とは、我が家に伝わる伝統ある勝負で、高速道路でトンネルを通る時は、息を止めなければならない、デスマッチなのだ。

勝敗は先に息をした方ではなく、どちらかが全てのトンネルをクリアした時に初めて決着する。だから毎年引き分けが続いてるんだ。だって途中に10分くらいのトンネルがあるんだもん。永遠に決着がつかない事を俺はまだ知らなかった。今回こそは決着がつくかも知れないドキドキを味わいながら、いつかは俺もと、意気込む。






結局今回も決着せずに、お菓子や飲みのもを買うために、サービスエリアに到着した。


あと2時間くらいかな?なんて思いながら俺は父さんと一緒にトイレに行くと、やはりと言うかなんと言うか、ソイツは居た。


ここのトイレは、結構新しいのに何となく雰囲気が暗い。というのも男子トイレの手前から3番目の個室の扉の上には、長い髪の女の人がぶら下がっている。洗濯物をかけるようにくの字になっていて、青白い顔で目がこぼれ落ちそうなほど見開いて前だけを見ている。しかしただそこにいるだけで、何もしてこないし、動いたところも見た事がない。本当にただいるだけだ。


あぁ今年も居たか。なんて思いつつ

「父さん、あのトイレ見て?」って言うと父さんは、チラッと見て

「なんだ?大きい方をしたいのか?しょうがないなぁ怖いなら一緒に入ってやろう。よしよし」と言った。


やっぱり見えないか。

俺は、違うなんでもないっと言って手洗い場に行く。父さんは不思議そうな顔をしながら、ついてきて手を洗った。


ふと、鏡を見るとぶら下がっていた女の人が目を見開いて鏡越しにこちらを見ていた。


ドキッと心臓が跳ね上がり、慌てて振り向くと女はいつものようにただ前を見ていて、こちらを見ている素振りはない。


しかし間違いなくこっちを見ていた。


見間違えなんかじゃない。

見慣れているとは言え、怖いものは怖い。


俺は慌ててトイレを出ようとして、また鏡を見そうになったところで、ギリギリ思い止まった。


なんとなく、次は見てはいけない。

そんな気がしたからだ。


俺の後ろにピタリ張り付く気配。


全身の血があわだつ感覚に陥る。


絶対に振り向いてはいけない。


俺は震える足をなんとか動かして下を向いたまま走ってハイエースに戻ると、後ろから父さんが、どうしたんだ急に?と叫びながら追いかけて来ていた。


そこで俺は助かった。と大きく深呼吸してなんでもないと言うとシートに座って目を閉じてバクバクと破裂しそうな心臓を押さえつけた。


ふいに、耳に誰かの長い髪の毛が当たりビクッとする。


それは本当に小さな、掠れた声で



〝あと少しだったのに〝



俺は驚いてガバっと起き上がると、


すでに海に着いていて、少し明るくなっていた。 



車の中では、みんな寝ている。 


今のは、夢?一体どこから夢だったんだろう?


隣でいびきをかいてるドン君を抱き寄せて


俺は再び眠り付いた。










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