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第五話 悪役令嬢、朝の稽古と最初の停泊地

 わたくしがレヴィアを船に乗せてから数日が経過しました。

 予想通りなら、国のほうでは馬鹿王子達が仕事に飽きて街に繰り出している頃でしょうか……。

 そしてわたくしはあれからも甲板へと度々出て色んな事を行なっていました。

 けれど、どれもこれも奇抜な行動であったため、船員達を驚かせていたと思います。

 しかも連れ歩いているのは極東出身であろう黒髪のメイドで腰に何時も刀を帯刀しているカエデ、それと扇情的な衣装を身につけた少女……けれどその正体はリヴァイアサンが変化した存在のレヴィア。

 ですから甲板に出ると船員達の視線が必ず向くのは当たり前としかいい様がないですよね?

 そして今日もわたくし達は甲板で船員達の視線を独占する事となっていました。

「……まあ別に良いですけどね。さ、それじゃあカエデ、今日も稽古をお願いするけど大丈夫かしら?」

「お任せくださいお嬢様。ですが、たとえ稽古だとしても私は一切手は抜きませんからね?」

「ええ、分かっているわ。手なんて抜いたら自分にも周りにも失礼だものね」

 少し前にギターを奏でていた場所で、わたくしは動き易さを重視した半袖と短パンという少しやんちゃな少年が良く着るような服装に身を包んでるのですけど……ナイスバディな肉体のわたくしが着るといやらしいにも程がある状態ですね。

 特に胸元のパッツンパッツンな状態が。

 そんな彼らの視線を受けるわたくしの手に握られているのは一本の木剣であり、対するカエデの手には同じような……ただし木で作られた刀である木刀が握られていました。

「では、――参ります!」

 カエデの一言で、わたくし達二人の訓練は始まりを告げます。

 カァンと木と木がぶつかり合う音が周囲に響き合い、一瞬の内に間合いを詰めたカエデがわたくしへと近づき、上段から木刀を素早く降り下ろしていました。

 対してわたくしは上段からの降り下ろしに対処すべく、木剣の腹を相手に向けるようにして頭上に掲げながら斜めに傾けます。直後わたくしの両腕に振り下ろされた木刀の衝撃が来ましたが、刀身を滑るようにしてカエデの降り下ろしを反らす事には成功しました。

 その反撃としてわたくしは木剣を構え直すとカエデの首めがけて横振りに振るうけれど、それよりも先にカエデはバックステップで後ろへと跳んでいました。

「良い感じですよお嬢様、敵には必ず殺す勢いで攻撃をしてください」

「まだまだでしょ。せめて襲いかかって来る相手には攻撃を体のどこかに必中させて叩き潰すぐらいにならないと」

(((それ、全然まだまだってレベル超えてるからな!!)))

 わたくし達の会話に船員達は盛大に心の中でツッコミを入れるような視線を感じますが……普通の事ですわよね?。

 そんな彼らのツッコミを感じる視線を他所にわたくし達は訓練を続けます。

 わたくしが甲板をタンと踏み込み跳ぶと同時に、カエデの胴へと木剣を横から打ち込みました。打ち込んだ瞬間、今度はカエデが先ほどのわたくしのように木刀を横に構えて防御すると思われました。

 けれどカエデは木刀を横に向ける事はせず、逆にこちらに向けて飛び込んできました。

「っ!! こ、のぉ!!」

 突然の事で驚きながらもわたくしは木剣の軌道を変えて、木刀を手に接近するカエデから木刀を手放させる為に腕を狙います。しかし……。

「お嬢様、いざという時は武器から手を放すのも手です――よ」

 カエデはそう言ったと同時に持っていた木刀を、突然わたくしに向けて投げました。

 突然の行動にわたくしは躊躇してしまい、木刀と見失ったカエデどちらを狙うか迷い……それが命取りとなりました。

「きゃあ!?」

 ふわりと浮遊感を感じた直後、わたくしの体は宙を舞い……背中から甲板の床へと倒れ込みました。

 けれど通常ならば力強く背中を床に叩き付けられるはずでしょうが、カエデが投げる勢いを調整しているからかトン、と軽く背中が床に当たるように倒れただけで済んでいました。

「勝負あり……ですね、お嬢様?」

「……ええそうね。でも生きるのにしがみ付きたい時は、こんな時でも諦めずに相手の目とか喉元を貫手で狙えば良いのですわよね?」

「ええ、その通りですお嬢様。可能であれば一撃一殺ですよ」

「そう……覚えておくわ」

 言われた言葉を改めて胸に刻みながら、わたくしはカエデに手を借りて床から起き上がります。

 そんなわたくし達の会話を聞いていたらしい船員達はわたくし達を畏怖の目で見つめているようですから、絶対に喧嘩を売るべきではないと判断しているのでしょうね。

 そう思っているとわたくし達が訓練を終えるのを待っていたとばかりに近付いてくるレヴィアに気づきました。

「あるじー、かえでー、おつかれさまー。はいこれー♥」

「あら、ありがとうレヴィア」

「ありがとうございます、レヴィアさん」

「えへへ~♪ どーいたしまして~~♪」

 レヴィアから差し出されたタオルを受け取り、わたくしとカエデは汗を拭います。

 一方でお礼を言われたレヴィアは嬉しそうにしながら、両手を広げてその場でピョンピョンとはしゃいでいました。

 その度に彼女の両手首と両足首に着けられた細い金属の環が擦れ合ってシャリンシャリンと音を立てます。

 不快ではない金属音を聞きながら、わたくしはレヴィアが着ている服装を見ます。

 彼女の着ている服装は金色に染色が施された砂漠が土地の大半を支配する国の踊り子がよく着ている上下に別れた装束です。

 わたくし達の国では下着と呼んでしまいそうな衣装。それと共にうっすらと肌が見える程に薄く通気性の優れた素材で創られた肩から手首にかけての白い半透明なアームカバー、それと同じ素材で創られたと思われる下半身の衣装から足首までのレッグカバーが付けられた物でした。

 大人の女性、特にわたくしのようなボンキュボンなスタイルの良い女性が来た場合は妖艶すぎて、それを見た者達は一発で虜となってしまうことでしょう。

 カエデの場合はその衣装で剣舞を行ったら見惚れる事間違い無しですね。

 けれどレヴィアの姿は12歳ほどの背格好と愛らしさが強調されていて、胸も出るところが出ていない……俗に言う妖精のような体型です。

 なのでそれを見ている船員達はきっといやらしさよりも、可愛らしいマスコットっぽい愛らしさを感じてしまっている事でしょう。もしくはリヴァイアサンだからと恐怖しているか……崇拝されてる可能性も……。

 そんな事を思っていると、マスト上に設置されている物見台から声がかけられてきました。

『『港が見えてきたぞーーーーっ!!』』

「「「お~~っ! 入港準備を始めるぞーーーーっ!!」」」

「「「「了解ーーーーっ!!」」」」

 物見台から届いた声に従い、船員達は一斉に船を停泊させる為の準備を行い始める為に動き出しました。

 そんな彼らを邪魔しないようにわたくし達三人は甲板の隅へと移動しながら、海の向こうを眺めます。

「……見えてきたわね。最初の停泊地が」

「そうですね。……はぁ、ですがお嬢様。私は遠回り(・・・)をして何箇所もいろんな国を周るだなんて聞いていませんよ?」

「ふふっ、ごめんなさいねカエデ。でも内緒にしておかないと貴女も普通にわたくしの願いを却下したでしょう?」

「そうですね。ですがお嬢様の事ですから、実行する準備が既に整っていた事を知った時点で諦めていましたよ」

 わたくしの言葉に疲れた様子を見せるカエデだったけれど、すぐに何時もの調子を取り戻して従うように頭を下げます。

 そんな彼女とは裏腹にレヴィアは久しぶりに見る陸地に瞳を輝かせているようですね。

「うわー、りくだー。ひさしぶりにみたー!」

「そうよ。しばらくはここで休むつもりだから、思う存分休んで遊びましょうね」

「うわーい! あるじといっしょにあそべるー♪」

 わたくしの言葉にレヴィアは喜び、先ほどと同じくピョンピョンはしゃぎます。

 そんな愛らしくて可愛いレヴィアを見ながら、わたくしはこの停泊地ではどんな事が起きるか胸を膨らませていました。

 ええ、もちろん何もないと良いのですけど、何か起きたほうが面白いではありませんか。


 ●


「会頭、とりあえずですがこの停泊地では出港してから足りなくなった食料の補充とこの周辺で交易が出来る物を売買する予定なので一週間ほどの停泊を考えてるけど……大丈夫か?」

「なるほど、補充の方は船を動かしているあなた達に任せた方が良いでしょうれど、交易ではどんな物を売買しようと思っているのかしら?」

 甲板の上から港へと船が停泊するのを見届けていると、わたくしへとゼーマンが近付いてきて停泊地での予定を告げて来ました。

 わたくしはそれを聞きながら、ゼーマンへと売買予定の交易を行なう商品を確認させてもらう事にしました。

 わたくしの言葉に従って彼は交易を行なう一覧が書かれた書類を差し出し、それを受け取ります。

「とりあえず、商会からの事前の通達通りにこんな感じに売って、これらを買おうと思ってるけどどうだ?」

「どれどれ……」

 受け取った書類をわたくしは素早くパラパラと捲り始め、文字の羅列を目で確認していくと同時にここ最近の海から感じていた気候と……こちらから見える町の様子を見ます。

 そして時折頭の中で弾き出された結果に軽く頷き、書類の最後まで確認するとそれを閉じてからゼーマンを見ました。

「事前の通りで売り買いする物は特に問題は無いと思います。ですが、この商品は次の停泊地で、そしてこちらは三つ後の停泊地の方が必要とされると思いますので此処では大量に売らないようにしてください。逆にこちらが買おうと思っているこの商品とこの商品ですが、これからハッズの方で大量に求めるようになると思いますので大量に購入を行えるように商会で押さえておいてください」

「なるほど、分かった。それじゃあ部下達に言ってくるな!!」

「ええ、お願いします。それとわたくし達も陸に上がるつもりなのだけど、大丈夫かしら?」

「おう、分かったぜ! 泊まる宿を決めたら連絡をしてくれ!!」

「わかりました。ゼーマン船長達も交易を頑張ってくださいね」

 わたくしの言葉にゼーマンは頷き、素早くその場から立ち去って行きました。

 それを見届けてから、部屋へと戻ると部屋で待っていたカエデとレヴィアに声をかけます。

「お待たせしました二人とも」

「あるじー♥」

「お嬢様、準備は出来ております。ですが、着替えが2着に換えの下着が4セットのみとなっておりますが、よろしいのですか?」

「ええ、着替え自体は洗濯をしたら良いのだし、大きい荷物なんて逆に邪魔になるわよ」

 心配そうに訊ねるカエデにわたくしはそう答え、抱きついてきたレヴィアの頭を優しく撫でる。

 わたくしの答えにカエデは理解はしつつも納得は出来ない様子です。

 きっと貴族なのだから、同じ服を着回しなんてせずに毎日新しい物に着替えるべきという意見なのでしょうね。

 そんなカエデの心境を理解しながらわたくしは船を後にしました。

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