第四話 悪役令嬢はペットと交流を深める。
「……なるほど、つまり海竜様は変化の魔法で人の姿になった。ということでしょうか?」
「だよー♪ これであるじといっしょにいけるねー♥」
「あらあら、レヴィアはまだまだ子供ですわね」
あの後、わたくし達は部屋へと戻ると先ほど起きた出来事をカエデへと説明しました。
話を聞いた彼女は頷きながらレヴィアが変化した少女を見ながら訊ねました。
ちなみに今のレヴィアは先ほどのような裸ではなく、頭から一枚布をすっぽりと被せたいわゆる簡易タイプのワンピースに近い服装となっています。(ただし下着は着けていません)
そして、カエデの問い掛けにレヴィアは元気良く頷き、先ほどと同じようにわたくしのおっぱいクッションへと顔を埋めました。
彼女の頭がわたくしの胸をグリグリと動く度に、お胸の方もぐにぐにと彼女の形に潰れます。
そんなレヴィアの仕草を見ながらわたくしは今まで出来なかった分、思いきり甘えているのだと微笑みながら、彼女の髪を優しく撫でます。
甘えるレヴィアへとカエデが嫉妬の視線を向けているのを感じますね。きっと彼女の考えている事はこんなところでしょうか?
(く、くぅ……、お、お嬢様の胸に顔を埋めているだなんて……なんて羨ましい! 私も埋めたい!!)
と、いったところでしょうね。
まあ、カエデにはここまで(ぎゅーっと抱きしめられたり、お胸に顔を埋めたり、ワシャワシャと髪を撫でたり)のスキンシップはしていませんし、嫉妬するのは当たり前でしょうか。
そう思いながらわたくしは、カエデへと指示を出します。
「カエデ、レヴィアをお風呂に入れたいのだけれど……仕度は大丈夫かしら?」
「かしこまりました。ですが、慣れないお風呂に入って海竜様の変化が解けたりしないのでしょうか? 万が一解けてしまったら、私達は海の藻屑となりますよ?」
「ぷ~~! だいじょうぶだよ。レヴィア、ドジじゃないもん!」
カエデの心配にレヴィアは胸から顔を離すと、ぷぅと頬を膨らませながら答えます。
その反応に若干幼さを感じましたが、大丈夫と本人が言ったのだから大丈夫なのでしょう。
そう考えながら、カエデを見るとお風呂を用意する為に浴室へと歩いていきました。
それを見届けてからわたくしは改めてレヴィアへと視線を移します。
「レヴィア、あなた……もしかしなくても、これからの旅に一緒について行きたくて人の姿になったのかしら?」
「うん、あるじってば、ぜんぜんレヴィアとあそんでくれないから、レヴィアたいくつだった。だからね、こんどはあるじについていくの♥」
「そうなのね。……全然遊んであげれなくてごめんなさいね」
わたくしに思う存分触れることが出来るのが嬉しい、そんな風に感じるようにレヴィアはわたくしの体に抱きつきながら上機嫌です。
そんなレヴィアを見ながら、わたくしは少し反省しました。
大きくなったから、精神も大人になっただろうって思ってましたけれど……まだまだ子供だったのね……。きっと色々と見たい年頃でしょうし、色々と見せてあげましょう。
そう思いながら、わたくしは頭の中ではレヴィアを旅に同行させた場合、どうなるかと数通りのシミュレートを行っていました。
特に連れて行った場合、どうなるかというメリットとデメリットを重点的に。
元々わたくしは自分とカエデの二人だけで、傷心旅行という名の名目で色んな国を見て周るつもりでした。
その時点でも問題は多かったと思います。一番多いのは女二人だけの旅ということだけで暴漢に襲われたりする可能性が高くなる事でしょう。
そこにレヴィアという見た目が愛らしい少女ですけれど実はリヴァイアサンという強力な存在が増えたら、襲われる確立は益々上がでしょうね。同時に安全性もかなり上がると思います。
でも、ついていくなと言った場合、レヴィアは悲しむでしょうし……きっとしばらくはこの周辺の海は大荒れになってしまうことでしょう。
そうなれば流通に差し支える事となるでしょうね……。
「あるじー?」
全然喋らないわたくしを心配そうに見ていたレヴィアを見ながら、わたくしは彼女の髪を優しく撫でて覚悟を決める。
「……そうよね。しばらくは考えるつもりなんて、特に無いのですし……そういった輩に絡まれるのも旅行の醍醐味って思えば良いですよね」
優しく撫でる彼女の長い髪は海水の影響でごわごわとしているけれど、十分に手入れを行なえばきっと綺麗になる髪だとわたくしは確信します。
美女二人+美少女の三人旅、それはそれで面白いかも知れませんね。いいえ、きっと面白いに決まっています。
そう考えながらわたくしが決意していると、浴室の扉が開かれました。
「お嬢様、お風呂の準備が出来ました」
「ありがとうカエデ。それとレヴィアの事をお願い出来ないかしら?」
「はい、かしこまりま――「やー! レヴィアあるじといっしょがいいの!!」――え……?」
カエデにお願いしようとした瞬間、レヴィアは駄々を捏ねる様にわたくしへと抱きついてきました。……ちょっと人間以上の力が入ってるからか、抱き着かれたわたくしの体がミシミシいってますね。
そんな駄々っ子レヴィアを信じられないといった表情で見てから、わたくしを困った表情で見つめるカエデ。
わたくしはクスっと笑ってから、ゆっくりと彼女の拘束を解いて髪を撫でます。
「わかったわ。それじゃあ一緒に入りましょうかレヴィア」
「あるじ、いいの? わーい、わーい♥」
「お、お嬢様っ!? そのような事でお嬢様の手を煩わせるのは!」
「大丈夫よ。それに貴方の本当に言いたい事も分かってるから……ね、いつか極東にあるという温泉に行ったら一緒に入ってあげるから」
止めようとしたカエデでしたが、わたくしの言葉にビクリと震え……続いて出た言葉に頬を染めてモジモジし始めました。
そんな何時も感情を押し殺す(ただし欲望駄々洩れな)メイドの珍しい姿を見ながらわたくしはくすりと笑い、彼女の頬を優しく撫でる。
「あ……♥ お、お嬢様……」
「カエデ、貴女は頼りになるメイドであり最高の護衛よ。だから、わたくし達が危険な目に遭った時は貴女の腕でわたくしとレヴィアを護ってちょうだいね」
「か、かしこまりました……♥」
わたくしの言葉にうっとりしながら、カエデは頷きます。
そんな彼女を見てから、わたくしはレヴィアを連れて風呂場へと入って行きました。
「さて、それじゃあお風呂に入るけれど……レヴィアはお風呂は初めてよね? あの時もお風呂には入れなかったし」
「うん、レヴィアいつもうみにいたから、おふろははじめてー。あるじがはいるのもみてただけだしー」
頭からすっぽり被せた布を両腕をバンザイしてもらって、上に引っ張って脱がし裸になったレヴィアへと、同じく裸になったわたくしが訊ねると彼女は頷いた。
子供の頃に拾った時もわたくしはレヴィアを海蛇の子供と思っていたから、基本的に水の入れた水槽に入れたり、脳筋兄から護る為に常に腕に巻き付けたりしていたのでお風呂に入れた覚えはありません。
それを思い出しながら、わたくしは浴槽に張られたお湯へと手を入れると……お湯はほど良い熱さでした。ですが、レヴィアにはどうでしょう?
少し心配になったので、ちょっと掛けてみましょうか。
「レヴィア、ちょっと腕にかけるわね。熱かったら言ってちょうだいね」
「うん、わかったー。……あ。あったか~い♪」
「……この熱さは問題ないみたいね。それじゃあまずは頭からお湯を被って、海水を落としてから髪を洗いましょうか」
そう言いながら、わたくしは浴槽から桶でお湯を掬うとレヴィアの頭からお湯をかけます。
お湯をかけられたお陰か、ボサボサになっていたレヴィアの銀髪がペタンと肌に張り付きました。ですが、何処かいやらしく感じますね。
「んぅ~……、ほわ~~……♥」
そう思っているとレヴィアは初めに熱に驚いたようで少しぶるりと震えましたが、すぐに心地良い息を漏らしました。
それを見届けてから、次に浴室に備え付けられたカオス商会が売り出している洗髪用の液体石鹸であるシャンプーが入ったガラス容器を手に取ると、それを傾けて自らの手に粘性のある液体を乗せます。
液体を軽く両手で揉み解して泡立ててから、レヴィアの頭へと両手を乗せました。
「目を瞑っててちょうだいね、入ったら目がジーンって沁みるからね? 痛いの嫌でしょ?」
「わかったー♥ ん、はぅ~~……♪」
泡だった両手でレヴィアの髪を優しく洗い始め、わたくしはレヴィアの銀髪の触り心地を確かめます。
つい先ほどまではごわごわのボサボサだった髪、ですがわたくしの指とシャンプーのお陰で段々と髪質は柔らかくなり、泡立たなかった髪は少しずつ泡立ちを始め、わたくしの指の間に銀の髪が絡んでいき心地が良いと感じました。
対するレヴィアもわたくしの指の動きが心地良いのか、口から猫のようにうにゃ~っという声が洩れており……それを見ながらわたくしは微笑みます。
「ふふっ、レヴィア。気持ち良いの?」
「うん、あるじになでられるときとおなじくらい、……ううん、こっちのほうがもっときもちいい~♪」
「それは良かったわ。さ、レヴィア。そろそろ泡を流すから頭にお湯をかけるわね。目を閉じてね?」
「わかったー♥ んぎゅ~~♥」
わたくしの言葉に返事を返すとレヴィアは目をギュッと閉じ、そんな彼女の頭へと桶で掬ったお湯を少しずつかけていきます。
そして泡を流し終えるとわたくし達はお風呂へと浸かり、体を温めてから続いて体を洗いました。
「わー、からだがあわあわだー♪」
体に泡を纏わせていくレヴィアは楽しそうに泡塗れとなった自分の体を見ながらはしゃいでいます。
こういう元気な子もいると、良いですわね。
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「ふぅ、良いお湯だったわ。ありがとうカエデ」
「いいおゆだったー、ありがとー♥」
「お褒めの言葉ありがとうございます。風呂上りの飲み物を用意しているので、どうぞお飲みください」
数日前に言ったのと同じ言葉をカエデへと風呂場から出たわたくしは口にし、その後ろから嬉しそうにはしゃぐレヴィアが風呂場から出てきました。
そんなわたくし達へと風呂上りの冷たいジュースを用意していたカエデが勧めて来ます。
勧められたジュースを受け取ってわたくしはカップを傾けて喉を潤すと、隣では初めて飲むジュースの味にレヴィアが驚いて目をパチパチしてから……もうひと口ジュースを飲んで瞳を輝かせているのが見えました。
「おいし~♥ あるじ、これなにこれなに?」
「これはリンゴを絞ったジュースよ。レヴィアも果物の状態なら度々食べた事があるでしょう?」
「りんご! あまくてしゃりしゃりするくだもの!!」
レヴィアの問いにわたくしはそう答えながら、テーブルに盛られたフルーツの中からリンゴを取り出して見せます。
そのリンゴの形に、わたくしが海に行った時や幼い頃に食べさせていた果物である事をレヴィアは思い出したようで笑顔になりました。
「しゃりしゃりしてあまくてじゅわーで、たまにすっぱかったりもするの!」
「ええそうよ。それの甘かったり酸っぱかったりする果汁だけを集めた物がジュースなの」
「なるほどー、これがじゅーすなんだ♪ ごくごく、ごくごく……おいし~♥」
「良かったわね。カエデ、レヴィアにジュースのお代わりをお願いできるかしら?」
「畏まりました。それとお嬢様のお召し物はいかがなさいますか?」
カップに口を付けて再びジュースを飲み始めるレヴィアを、わたくしは優しい瞳で見つつカエデへとジュースのお代わりを頼みます。
指示を受けたカエデはレヴィアのカップへと再びリンゴジュースを注ぎ、わたくしの着替えはどうするのかを尋ねてきました。
……言ってはなんだと思いますが、ただいまわたくしとレヴィアは風呂上り為に現在バスタオルを一枚巻いているだけの風呂上がりスタイルです。いえ、レヴィアにいたってはバスタオルも巻いていませんね。
きっと男性が今のわたくし達を見たら即座に鼻血ものでしょうね。その前にカエデによって首が斬られるかも知れませんが……。
そんな風に考えていますれど、冷静にジュースを注いでいるカエデもかなり興奮していますね? でも、必死に気づかれないように太腿を力いっぱい抓って平静を保っていますか。
「そうね……。わたくしは普通にクローゼットにあるワンピースで良いのですけど、レヴィアはどうしましょうか?」
「ん? あるじ、どうしたのー?」
「レヴィア、貴女は自分で服を作る事は可能かしら?」
「あるじがきてるようなの? ん~~! ……むり~!」
わたくしの問い掛けにレヴィアは目をギュッと瞑って魔力を体に溜めていましたが、即座に無理と言いました。
どうやら肉体の変化は出来ていても、自分の体に魔力を纏わせたり鱗を使うなりして作成した服を纏わせるのは出来ないようですね。
まあ、一説によるとかなりの年月を生きた存在が出来るようになるみたいですし。
それを思いながら、わたくしはカエデに視線を送ったけれど彼女は首を振ります。
どうやらレヴィアに合うサイズの服は、今この部屋には無いようですね。
「仕方ないわね。カエデ、ちょっとゼーマン船長の所に行って交易品として取り扱っている服を数着ほど見繕って貰ってきてくれないかしら?」
「かしこまりました。ちなみにどのような服がよろしいでしょうか?」
わたくしの指示に頷き、返事返すカエデでしたがレヴィアにどんな服が似合うかが分からない為に尋ねてきます。
それを聞き、わたくしもそうだと思ってレヴィアを見て訊ねます。
「レヴィア、貴女はどんな服を着たいかしら?」
「ん~……、わかんない! でも、うごきやすいのがいい! それにいっぱいきるのじゃないの!」
「お嬢様、先ほどから海竜様を見ておりましたがあの貫頭衣なワンピースは煩わしく感じているようでしたので、基本的には肌を出す方向で行った方が良いと思われます」
「なるほど。……でしたら砂漠地帯で取引が行なわれている服を中心に用意したほうが良いみたいですね」
わたくしの中では以前見かけた砂漠地帯で暮らす一部の女性が着ていた扇情的ながらも服として機能している衣装を思い出し、それを頼みます。多分ですけど交易品の中に残っているはずですから。
同時に、あの衣装は自分やカエデが着たら色々とインモラルな香りしか放たないと思いますが……、レヴィアなら問題ないだと考えます。
「かしこまりました。それでは行ってまいります」
そう言うとカエデは部屋から出て行き、ゼーマンの所へと向かって行きました。
「あるじー?」
「レヴィア、裸だと色々と問題だから……ちょっと見た目はアレだと思うけれど服を用意するわね」
「ふく? あるじがきてるようなの? わーい♥ あるじといっしょだ~~!」
わたくしの言葉にレヴィアは物凄く嬉しそうに笑って、両手を広げます。
そんな彼女を見ながらわたくしは優しい微笑みを向けていました。……そういえば、リンド以外にここまで微笑むのは、久しぶりですね。
馬鹿王子達の前では基本的に無表情や、バカを見るような瞳しかしていませんでしたし。
それを思い返しながら、カエデが戻るまで時間が掛かるだろうと考えて先に服を着ると裸のレヴィアへとバスタオルを巻いて、椅子に座らせて長く綺麗な銀髪を梳き始めました。
「レヴィアの髪、本当に綺麗ね」
「えへへ、あるじにほめられたー♥」
海水でボサッとしていたのがシャンプーを使ったお陰でサラサラとしており、光に翳すと蒼く見える銀色の髪を優しく、ゆっくりと梳いて行きます。
こんな幼い少女の見た目だと、目の前に居るのが海竜リヴァイアサンだなんて誰も信じないでしょうね。
そう思いながらレヴィアの髪を梳き終えたと同時に扉がノックされました。
「……入ってちょうだい」
「おまたせしました、お嬢様。ゼーマン船長に確認していただいたところ、お望みの品の中でお子様用は一着だけですがある事が確認されたので持って来ました」
「ありがとうカエデ、それじゃあ着替えを始めましょうかレヴィア」
「きがえ? うん、わかったー!」
わたくしの言葉に反応し、レヴィアが立ち上がると彼女の前で嬉しそうにバスタオルを外し……全裸で待ちます。
そんな彼女を見ながら、わたくしはカエデに持ってきて貰った服の包みを開け……中身を確認すると彼女へと言う。
「レヴィア、しばらくは着替えを手伝うけれど少しずつ自分で着れるようになってちょうだいね?」
「わかったー、ひとりできがえれるようになるね、あるじー!」
「良い返事ね。さ、それじゃあ着替えましょうか」
そう言ってわたくしはレヴィアの妖精のように綺麗な体へと用意した服を着せ始めました。