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第二十三話 悪役令嬢、ようやく状況を知る。

 ホムンクルス――、それは錬金術の最終目標のひとつである生命創造の過程で生み出される存在。

 人と同じような姿形をしているけれども、どちらかといえばモンスター寄りの存在で基本的に食事などを必要とはせず、与えられる魔力によって生命を維持すると伝えられています。

 ですが、わたくしが覚えている限り……ホムンクルスを創造する技術は今の時代では殆ど失われており、残った資料から掻き集めて復元した技術でなんとか創り出すことが出来たホムンクルスは喋る事は出来ず、思考がまったくないのかまったく動こうとはせず、数日も経たずにどろどろに溶けてしまっていたそうです。

 それなのに、今わたくし達の目の前に居る二体のホムンクルスは普通に話せました。その上、ちゃんとした思考も見られますし、どろどろと溶ける様子など見られません。

「「サブマスターパナセア、わたし達は何を行えばよろしいでしょうか?」」

「……そうね。それじゃあ、一度ちゃんと話を聞かせてもらおうかしら。ホムンクルスにマシンスパイダーと呼ばれたアレ、そして街になぜ人が居ないのか……色々とね」

 考えていたわたくしをジッと見ながらホムンとクルスがそう尋ねてきた為、わたくしはそう言います。

「とりあえず、場所は……隣の部屋で」

 先ほどまで居たあの部屋へ戻ろうかと思ったわたくしでしたが、後ろからカエデが声をかけて来ました。

「お嬢様、先ほどの部屋よりもこちらの部屋の方で話をしましょう。あちらは物が散らばりすぎていますし」

「分かったわカエデ、それじゃあ椅子を……ああ、言う前に持ってきてくれてたのね。ありがとうカエデ」

 わたくしが考えている最中に椅子を持って来たのでしょう、カエデの手には先ほど隣の部屋で座っていた椅子が一脚持たれていました。

 それに座り、ソファーに座るホムンとクルスへと向き直ります。

「さて、それでは話を聞かせてもらえましょうか? まずは……あなた達を創ったのはいったい誰なの?」

「「はい、わたし達を創り上げたマスターは錬金術師のケーミィ様です」」

 ケーミィ……、聞いたことが無いけれど目の前のホムンクルスを見る限り、凄腕の錬金術師ですよね。

 でも、わたくしはそんな名前を聞いたことが無いはずです。これほどの技術を持つ者なら、名前ぐらいは耳に入るはずなのに……。

「では……、そのケーミィさんが何処に居るか分かりますか?」

 そう訊ねると、二人は表情を暗くしました。

 聞くべきではなかったでしょうか?

「「現在、マスターケーミィの反応が周囲から感じられません。拠点に戻っている可能性も考慮しますが、安否は不明となっております」」

「そう、では次に……マシンスパイダーについて教えてもらえるかしら?」

「「分かりません。あれは突然現れました」」

「突然現れた? でも、新聞には領主の娘であるロディフィーユが創ったと書かれてましたよ?」

 首を振るホムンとクルスの二人を見ながら、わたくしは先ほど見た記事を口にします。

 すると彼らは眉を顰めたように見えました。

「「違います。わたし達が知っているのは、マスターケーミィに同行していたホムンとクルスの1番目からの繋がりで、マスターの仲間達と共にロディフィーユを追い詰めた際に彼女が何かをしました。すると、一瞬の歪みの後にこの街にはマシンスパイダーや不自然な動きをする人形の何かといったモンスターが現れるようになりました」」

「何か、ね……。当のマスターは何かを言ってたかしら?」

「「分かりません。歪みの後、マスターケーミィからのある指示を最後に他のホムンとクルスとの繋がりが切れてしまいました。わたし達はマスターケーミィがこちらへと来るのを待ちながら、溜められていた魔力が切れてしまい、眠りにつきました」」

 なるほど……。領主の娘であるロディフィーユが何かをした。それが今の状況に繋がるみたいですね……。

 そして、予想はしていましたが……これらの話で確定してしまいましたか。ですが、まだそうと決まったわけではありませんよね?

「……ホムン、クルス。一応、聞きますが……今は、時代は何年ですか?」

「「はい、現在は――――」」

 わたくしの問い掛けに、二人は淡々と年代、それと日にちを口にします。

 同じように聞いていたカエデも、信じられないといった感じに珍しく驚いた様子が見られますね。

 ですが、驚かないほうが無理な話ですよね……。

「やはり……、500年前でしたか」

 そして本当に予想は完全に確定しました。

 ロディフィーユ(悪役令嬢)ケーミィ(ヒロイン)、その二人が対峙していたというのは……彼が言っていた『アル▲ダン』の最終局面だったのでしょう。

 ですが、その局面でロディフィーユが何かをした結果、状況が変わってしまった。

 その何かした結果にわたくし達は巻き込まれたという事でしょうね……。

「ほ、本当に500年前なのですか? 彼らが嘘を言ってるのでは……? もしくは、寝惚けているとか……」

「「それはありえません。わたし達は時間を正確に計ることができます」」

 戸惑いながらもまだ認められないといった風にカエデがホムンとクルスを見ながら言います。

 ですが彼らは時間を正確に計ることが出来るようですね。どういった原理でしょうか? それを真似たら良い感じの時計を開発出来そうです。

 でもそれはすべてが終わってから考えた方が良いでしょう。今は話をしましょう。

「自分達に何が起きたのか、そして街を徘徊するあのモンスター達……それらは分かりました。では、街の人達はどうしたのですか?」

「「彼らは皆、ダンジョンへと逃げて行きました」」

 淡々とした口調で二人は間髪を入れずに答えます。逡巡する間も無い様子から、街に人が居ない事情を知っているとわたくしは考えます。

「ホムン、クルス、詳しく説明をお願いできるかしら?」

「「はい、マスターケーミィからの最後の指示、それは街の人達をダンジョンへと避難させるというものでした。そしてわたし達を始め、街の各所に居たホムンとクルスはその指示の元、街の人達を避難させました」」

「なるほど……、でもダンジョンにもあのモンスター達は入ってくるのではないのかしら?」

「「分かりません。わたし達は街の人達の避難を終えた後、ダンジョンに向かう為の魔力が残されていなかった為、この拠点で眠りへとつきました」」

 わたくしの問い掛けに、ホムンとクルスは首を同じタイミングで横に振って答えます。

 つまりはどうなったかは分からない。ということですか。ですが目的は決まりましたね。

「カエデ、わたくし達もダンジョンへと向かいましょう。ホムン、クルス。あなた達はどうしますか?」

「かしこまりました」

「「……わたし達も同行してもよろしいのですか?」」

 カエデが頭を下げ、ホムンとクルスは少し驚いた様子を見せながらわたくしを見ます。

「そのつもりですが……、問題があるのですか?」

「「はい、わたし達は主に戦闘用に生み出されたわけではありません。ですから、あのモンスター達に狙われると捕まる可能性が高いと判断します。恐らく……他の個体達の大半も壊されていると思います」」

 わたくしの問い掛けに、二人は不安そうに告げます。……よくよく聞くと、ホムンとクルス達は個体によって与えられる役割が違うそうです。

 戦闘用、防衛用、お世話用、隠密用と多様に状況状況に合わせるようにして創られていると二人は言いました。

 そしてお世話用である目の前のホムンとクルスの13番目は、家や拠点の維持には最適ではあるけれど戦闘や隠密といった行動は不得手だそうです。……一応は護身術的なものは使えるそうですが、マシンスパイダーなどには無理だと判断しているようですね。

 ……正直なところ、わたくし達もマシンスパイダーとあの人間もどきから逃げるのは必死でした。そこに二人が追加されるのは……厳しいですね。

「……分かりました。ではホムンとクルスはここで待機をお願いします。ですが、もしもマシンスパイダー等のモンスターが襲いかかってきた際は逃げるようにしてください」

「「わかりました。サブマスターパナセア、ダンジョンまでの道のりは分かるのですか?」」

「そうでしたね。地図を持っていたりしますか?」

「「ありません。ですが、こちらをお使いください」」

 二人はそう言って、部屋の壁を指差します。すると、壁が動き出し……そこには、

「階段?」

「階段……ですね」

「「はい、こちらはマスターケーミィがダンジョンの近くの拠点や他の拠点に向かう為のショートカットとして使用しておりました。通路の途中に案内が置かれているはずなので、それを道標にしてください」」

 階段を見ながら二人は告げるのを聞いていますが、きっと同じような拠点が幾つもあるのでしょう。

 というか、ヒロインのはずなのに何故だか隠密じみた事をしていたのですね。地下からの移動って……。

 そう思いながらホムンとクルスを見ますが、寂しそうといった印象は感じられませんが……感情があっても乏しいのでしょう。

 でもそうだとしても、久しぶりに誰かに会えたのにすぐ分かれるという事は悲しいはずです。考えながら、わたくしは彼らへと頭を下げます。

「ありがとうございます。ホムン、クルス。落ち着いたらまたあなた達の元へとやって来ます。ですから、待っていてくださいね」

「「はい、マスターケーミィ及びサブマスターパナセアの来訪をお待ちしております」」

「お嬢様、行きましょう。……お嬢様の元で働く事となったあなた達は私とも同僚です。ですから、また会いましょう」

「「はい、また会いましょう」」

 ホムンとクルスは階段へと向かい始めるわたくし達へと頭を下げ、それに対してわたくし達も再会を約束します。

 もしも、この状況が打破された時、会う事が出来たならまた会いたいですね。

 そう思いながら、わたくしはカエデと共に階段を下りていきました。

というわけで、時を超えた悪役令嬢です。

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