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第二十二話 悪役令嬢、出会う。

 新聞の日付けを見て、わたくしは混乱します。

 500年前の新聞が残っていた?

 いえ、その可能性は低いと思います。だって、物質を劣化させない魔法があったとしても良くて300年が限界でしょう。

 では、誰かがこの部屋を管理していた?

 でもその場合は街の中を移動するマシンスパイダーと呼ばれる防衛用モンスターの理由が付かないわね。

「お嬢様、何か手がかりになりそうな物がないか室内を見ましょうか?」

「…………そうね、この部屋の持ち主には悪いけれど、漁らせてもらいましょう」

「かしこまりました」

 カエデの言葉に一瞬考えたけれど、すぐに頷き彼女に指示を出します。

 正直なところ、今は情報が欲しいですから……。

 そう思いながらわたくしは他の新聞を読んでいきますが、書かれている内容は領主や貴族を支持するような書かれ方がされているものが多く見られますね。

 多分ですけど……新聞を発行している所は領主の支持、もしくは領主が主体になって行っているのでしょう。

 その中で幾つか気になる話題があるのに気が付いた。

「……錬金術師の少女が製作した道具を偽って販売した? こっちは錬金術師の少女が劣悪な素材を高値で売りつけようとした? こちらは……錬金術師の少女率いるパーティーが大量のモンスターをダンジョン内で押し付けた?」

 領主を囃し立てるような書かれ方をしている新聞だけれど、度々目に入る記事だけは一般市民であろう錬金術師の少女の事だけが事細かに書かれていました。

 他の新聞も見ますが、一般市民に関する記事は殆ど見かけず……やはり錬金術師の少女がやらかした出来事だけが彼女が悪いように書かれていました。

「まるで……新聞でこの少女を悪者にしたいといった風に見えるわね」

 ぽつりと呟きながら、新聞を古い順へと読み進んでいくけれど……途中から書き手が変わったのか、錬金術師の少女が難病の子の病気を治したとか、錬金術師の少女が創りだした薬で様々な人が助かったという錬金術師の少女の活躍を褒め称えるような記事が見られた。

 いえ、よく見ると記事も貴族を中心に囃し立てる物ではなく、民衆が楽しめそうなニュースが多く書かれているわね。

「新聞を書いてた所は……変わっていないわね。つまりは書いてる人物が変わったのかしら?」

 そして変わった書き手は貴族寄りもしくは領主に雇われた人物だったということでしょう。

 そう思いながら新聞を読んでいると、室内を漁り終えたカエデがこちらへと戻ってきた。

「お嬢様、室内すべてを見終わりました」

「ご苦労様、カエデ。それでどうだったかしら?」

「はい、それでは報告させていただきます」

 カエデの報告を聞くけれども、元々この狭い室内では目立つような箇所は特に見当たらなかったと彼女は報告します。

 ただし、奥に見える扉の先には彼女にはよく分からない物が置かれていたと言い、つられるようにそちらへと視線を向けた。

「あの扉の先ね?」

「はい。あれらは何なのか私には分からなくて、お嬢様のお手を煩わせる事となって申し訳ありません」

「気にしないでちょうだい。それで、どんな物が置いてあったのかしら?」

 申し訳なさそうにするカエデへとそう言いつつ、中に何があったのかを訊ねると……微妙そうな表情を彼女はしていた。

 ……なんでしょうか、その表情。変な物があったとしか思えませんよ?

「物……なのでしょうか? とにかく、見てから判断をお願いします」

「分かったわ」

 カエデの説明しづらいという印象を感じながら、扉を開けると……中は小部屋でした。

 中には大人が二人ほど座れそうな大きさのソファーが置かれ、そこには子供が二人互いの手を握るようにして眠っていました。

 給仕服と執事服を着た12歳ぐらいの細めの印象をした白い髪の子供達。

「子供? 何故ここに……」

「私も同じように戸惑いました。ですが、彼らに声をかけても体を揺すっても目覚める様子がありませんでした」

 少し驚いたわたくしに対し、カエデはそう答えます。

 それに頷きながらソファーで眠る彼らに近づきますが、ピクリとも動きませんね?

 まあ、動いて危害を加えようとした場合はカエデが斬りかかりますがね。

「脈は……無いですね。胸の音も……無い? でも硬直していないから死んでいるわけじゃないようです……。あ、双子なんですね」

 顔を見ると、同じ顔に見えるので……双子だと思います。

 整った顔立ちですが、眠っているから目の色は分かりません。ですが、ソファーに座っているのを見ていると等身大の人形が静かに置かれているように見えますね。

 そう思いながらジッと二人を見ていると、握りしめた二人の手首に石が付いているのに気づきました。

「これは……魔石? 見ると埋め込まれているわね。それに、色からして魔力切れね」

「本当ですね……、気づきませんでした」

 ジッと手首を見ているとカエデも同じように見て、そこにあることに気づいたようです。

 まあ、普通は気づきませんよね? わたくしも偶然でしたし……。

「……魔力、注いでみましょうか?」

「大丈夫なのですか?」

「さあ? でも、魔力を注いだらこの子達も目を覚ますかも知れないわ。それで色々と事情が聞けるかも知れないし」

 心配そうにするカエデへとわたくしはそう告げます。

 ですが、心配そうにしている表情は変わりませんね……。まあ、勝手にしますけど。

「――って、お嬢様! 何を勝手にしているのですかっ!?」

「何時まで経ってもカエデは許可を出さないと思ったわ。だからわたくしの勝手にさせてもらったの」

 体から魔力が抜ける感覚を感じていると、勝手にそれを行い始めたわたくしへとカエデが大声を上げます。

 ですが途中で止めるわけにはいきません。なのでしばらく魔力を注ぎ続けていくと……二人の手首の魔石へと赤い光が灯り始めました。

 淡く小さな光、それが段々と大きくなり広がるように灰色の魔石が赤色に染まっていきます。

 そしてわたくしの中の魔力が半分近くまで消費した頃、ゆっくりと瞼が開き始めました。

「「…………魔力充填確認、周囲にマスターの魔力……検知できません。その他個体との生態リンク……異常あり。異常事態と判断……魔石への魔力提供者をサブマスターに設定します」」

 ぶつぶつと淡々とした声で何かが呟かれ、わたくしもちょっと心配になってきたのでカエデを見ます。……カエデも同じようにわたくしを見ていました。

 そう思っていると、二人の瞳がわたくしへと向けられます。

 ……この子達の瞳は、感情が感じられないけれども、綺麗な真っ赤な瞳でした。

 瞬きひとつない瞳をわたくしに向けられながら、二人は口を開きます。

「「魔力提供、ありがとうございます。異常事態として、わたし達のサブマスターとしてあなたを登録します。お名前をどうぞ」」

「サブマスター? ……それをすると、あなた達はどうなるのかしら?」

 よく分からない単語が出て少しばかり戸惑いながらジッとわたくしを見る二人へと訊ねます。

 返事をしてくれるか不安を感じつつも訊ねると、二人は……。

「「わたし達はサブマスター預かりの個体となります。マスターの権限が上位となりますが、それ以外の命令は聞きます」」

「わたくし達のいまの状況を答える事が出来るかしら?」

「「不明です」」

 淡々と返事が返ってきます。

「街に人が居ないのは答える事が出来るかしら?」

「「可能です。ですが、権限が低い為、いくつかの禁則事項がかかります」」

「つまりは色々と言えない事があると言うことかしら?」

「「はい」」

 ……なるほど。現時点で詳しい話を知ってると思うのは目の前のこの子達。

 そして話を聞く為にはサブマスターというものになる必要があると……。

「お嬢様、私は怪しいと思います」

「そうね……。あなた達、もしもサブマスターというものになったら、わたくしへの代償といったものはありますか?」

「「ありません。ただし、マスターがいない際は定期的に魔力の補充をお願いします」」

「そう……。だったら、なるわ。そのサブマスターというものに」

「お、お嬢様っ!?」

 わたくしの言葉にカエデが驚きます。ですが、知らないと話は始まりません。

 ですから、カエデには悪いですがやらせてもらいます。

「「ありがとうございます。それでは、お名前を、どうぞ」」

「パナセア。パナセア・S・フロルフォーゴよ」

「「パナセア・S・フロルフォーゴ様のサブマスター権限を登録します……。完了しました」」

 そう言うと二人は立ち上がり、わたくしへとお辞儀をします。

「「これより、お世話用ホムンクルスである『ホムン』と『クルス』の13番目はサブマスターパナセアをお世話させていただきます。よろしくお願いします」」

「ええ、よろしくお願いするわね…………って、ホムンクルス?」

「「はい」」

 目をパチパチさせながら驚くわたくしへと、ホムンとクルスと名乗った二体のホムンクルスは頷きました。

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