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第十七話 孤児少女、祈る。

 黒く、怖い闇が……、夢のなかでわたしを追いかけてきた闇が、町をおおおうとしていました。

 それをわたしはパナセア様に連れられてやって来た丘のうえで見ていたけれど、とつぜんパナセア様はなにかをしようとしているのか丘にある広場にちかい場所へと移動し、両手をひろげました。

 するとパナセア様のからだがぼんやりと光りはじめ、パナセア様の前にうっすらとかがやくとびらが現れました。

 その扉はちゅうに浮いており、汚れひとつも無いほどに白くまっ白で、まるでしんせいな物のように感じられました。

「きれい……」

 気づけばわたしはポツリと呟きながら、それを見ていましたが……きれいだと思うとどうじに、そのとびらを懐かしいと思っていました。

 はじめて見る物のはず、それなのになんで懐かしいと感じ……このとびらは自分の物であるとなぜだか思っていた。

 どうしてだろう? パナセア様は、何か知っているのかな? それとも、むかし……見たことがあるのかな?

 そう思いながら、まわりの人たちも同じようにボーっとするようにとびらを見ていることにわたしは気づきましたが、目がはなせませんでした。

 けれど、不意に黒いけはいがし……そっちを見ると、ぎらぎらとした瞳でパナセア様を見るベギダがいました。

 ベギダ……。アージョが孤児院の子たちを、町の人たちから悪い目で見るように連れてきた子だとパナセア様は言った。

 あの日、逃げるようにわたしたちの前から出て行ってからすう日、何処にいたんだろう? 着ている服も見た目もすごく汚くなってるけど、ちゃんと体をきれいにしてたのかな? それに、ご飯食べたのかな?

 でも……何で、あんな風にうらむようにパナセア様を見るんだろう? そう思った瞬間、ベギダはパナセア様に向かって走り出した。

 とつぜんの行動に驚いたけれど、その手に鈍く光るものが握られているのにきづいた。それは――ナイフ!?

「パ、ナセアさま! あぶな――っ!!」

 ベギダの行動にたいしての驚きと何でこんなことをしようとしたのかという戸惑いがグルグルする中で、出来る限り大きな声をあげた。

 その声に気づいてくれたカエデさんとアサシンさんがすぐに動いたみたいだけれど、それよりも先にベギダがパナセア様の背中へとたどりつき……持っていたナイフをパナセア様に刺した。

「っっ!!?」

 とつぜんの事で倒れるパナセア様。

 刺されたナイフが抜かれた背中から、少しずつまわりに赤い血が広がりはじめて行く。

 それを見ながら、ベギダは……たのしそうに嗤っていた。

「はっ、ははっ! ざまぁみろ!! お、お前のせいで、おまえのせいで俺は聖女様に捨てられたんだ! だから、だか――っぎ!? ぎゃああああああああああああっ!?」

「ふぅ! ふぅぅ……!! 私は、貴様を、殺したい! 殺したいが……! お嬢様はきっと止めるに違いない、だから貴様は……こうしておく!!」

 ケラケラと腹を抱えて嗤っていたベギダだったけれど、怒りに満ちた感情と共に細身の剣を振るったカエデさんによって両手足が斬りおとされた。

 ごろごろと地面に転がりながら悲鳴を上げるベギダのまわりに、彼のものだった手足がボトボトと落ちて周囲が血で汚れた。

 そしてアサシンさんによって悲鳴を上げるベギダは何処かへと連れてかれた。……っ!? その直後、ゾクッとした寒気が背後からして、そっちを見ると目をみひらいたレヴィアちゃんが立っていた。

 普通に立っているだけ、そのはずなのにレヴィアちゃんの瞳は見ひらいてベギダを連れていったアサシンさんを見ていました。

「あるじを、よくも…………おまえ、くいころす……」

「ダメ、よ……レヴィ、ア……。あんなの、食べたらお腹、こわすわ……」

「っ! あ、あるじ!?」

「お嬢様ッ!?」

 かすれるようなパナセア様の声に反応し、レヴィアちゃんから怖いけはいが消えカエデさんと一緒にパナセア様の元へと向かいました。

 カエデさんに抱えられて、パナセア様は起き上がろうとするけれども……力が入りにくいのかきれいな顔が歪みます。

「ぐ……っ!」

「お嬢様! 無理はしないでくださいっ!!」

「パ、パナセア様……! あ、あの、わたし……! わたし……!」

 カエデさんたちの声に驚きつつ、わたしも声をあげるのが間に合わなかったことを謝りたくて声をあげます。

 そんなわたしをパナセア様はちらりと見て、自身の手を背中に当て……ベギダに刺された場所に軽くふれた。

「いっ! ……刺された、わねぇ」

「はい、ですから早く治療を――お嬢様! 何をしてるんですかっ!?」

「治療は、まだよ……。それよりも、これを準備しないと……」

 血で赤くなった手を前に出しながら、パナセア様はさっきと同じように消えそうになっていた空中のとびらに手を向けました。

 すると、とびらは光りを放つようにしてゆっくりとすがたをとり戻します。

 同時にパナセア様の背中がますます赤くなっていきました。

「セー、ジョさん……いのって、ください」

「え? パナセア、さま?」

「扉へと、あなたは……祈ってください。助けてと、声を……かけてください。これは……あなたに、しか……できない、こと……だか、ら……」

「わた、し……が?」

 徐々に血の気がなくなって、青ざめはじめるパナセア様の顔を見ながら、わたしは理解が追いつかなかった。

 けれど、だけど、パナセア様が、やるようにと言ってきた。この人をわたしは信じたい、そして……この人が信頼してくれる人になりたい。

 そう心から思いながら、わたしはゆっくりとパナセア様が出したとびらへと、近づく。

「そう、それで……いいのよ。あなたは、必死に……助けを呼びなさい……」

「お嬢様! しっかり、しっかりしてください!!」

 後ろでカエデさんの声が聞こえた。パナセア様が気をうしなったんだ。

 駆け寄りたい、しっかりしてくださいってわたしも言いたい。

 だけど、駆け寄ってもわたしには何もできない。だから、パナセア様が言ってるように、自分にできることをするんだ。

 そう思いながら、わたしはとびらにふれた。……とびらはひんやりと冷たく、だけど温かいように感じた。多分この温かさはパナセア様の魔力だ……。

 まるですぐ目の前にパナセア様がいるように感じながら、わたしは祈りはじめた。

「お願い、します……。たすけて、ください。……町を、助けて、ください……。お願いします、お願い、します……!」

 わたしはとびらに触りながら、必死にさけぶ。お願い、お願いします。誰か、町を助けてください! パナセア様を、パナセア様を助けて!!

 むりょくすぎる自分、なにもできない自分、くやしい、だから……だから、パナセア様がけがをしてるのに、無理をしたとびらにわたしは必死に助けを求める。

『――――助けます。私が、絶対に……!』

 声がきこえた。そして、わたしの目の前で、とびらがゆっくりと開かれた……。

 そらに浮かんでいるだけのとびら、なのに開かれた先には光りしか見えず……中からゆっくりとだれかが歩いてくるのが見えた。

 腰まであるぎん色の長い髪をゆらし、むらさき色の目には自信をみなぎらせたひとりの女性。

 白色のローブをはためかせながら、その人はとびらから出てきた。

「…………きれい」

 ぽつりと呟いた言葉、その言葉をきいたのかその人はわたしを見て驚いた表情を浮かべ、すぐにまるで懐かしそうにほほえんだ。

 あたたかいお日様のようなほほえみ。そんな笑顔に、わたしはこの人は聖女様だと感じた。

『――――、っっ』

 そんな風に思っていると聖女様はわたしの後ろを見て、悲しそうな顔をしながら喋った。

 だけど、どういうわけかその声はわたし達には聞こえなかった。

 聖女様の悲しそうな顔を見て、つられてわたしも見るとパナセア様が青い顔をして心配そうな顔をしているカエデさんにささえられていた。

「あ…………」

 青ざめて、生きてるけはいが感じられないパナセア様。

 死んじゃう……の? そんな不安がわたしの頭を過ぎり、体がきょうふに固まる。

 けれどそんなわたしへと、心配するなというように聖女様は肩を叩くとパナセア様へと手を向けた。

 すると聖女様の手から銀色の光が出てきて、パナセア様を包んだ。

「っ!? お、お嬢様!!」

 戸惑うようにカエデさんがパナセア様に声をかけるけれど、銀色の光に包まれたパナセア様の顔が少しずつ赤くなっていくのを見えたのか首の方へと手を当て……ホッとしていました。

 そんなカエデさんのようすから、パナセア様が助かったと理解して……わたしも同じように安心しているとシャンと音がした。

 降りかえると聖女様がいつのまにか白くかがやく杖を手に持っており、さっきの音は杖の先に付いている銀色のわっかがぶつかり合った音だと理解する。

『――、――……。――――!!』

「えっ!? ――――え、えぇ!?」

 そして聖女様は悲しそうに何かを口にしてから、町のほうを見ると駆け出した。

 けれどその先は崖であり、おどろいた声がもれた。しかしそのおどろきは違うおどろきに塗り替えられた。

 だって、崖へと駆け出した聖女様は落ちずに、まるで足につばさでも生えているみたいに空を駆け出したのだから。

 そんなおどろくわたしやこの場にいた殆どの人たちの視線を気にしないという風に聖女様は町のほうへと飛んでいく。

 そして少しすると、まばゆい光が空から町へと落ちていき……闇を消しさっていった。

「すごい……」

「聖女様だ……」

「あれこそ、聖女様だ!」

「「聖女様!! ありがとう、聖女様ーーっ!!」」

 消えていく闇を見ていた一人がポツリと呟いたのをきっかけに他の人たちも声をそろえて、空へと飛んでいった聖女様へと感謝の声を捧げ、両手を組んで祈りを捧げていた。

 空へと祈る町の人たちを見ていると、わたしの目の前にあったとびらが徐々に薄くなってきているのに気づきました。

「これは……」

 どうしたのかと思う反面、目の前のとびらは役目をはたしたから消えていくのだと、なぜかそう思えてしまい……わたしの目の前で、とびらはゆっくりと閉まるとスゥ……と消えていきました。

 とびらが閉じる瞬間、聖女様がとびらの中からかるく手を振るのが見えた気がしたけれど……気のせいかも知れません。

 しばらく、消えたとびらがあった場所を見ていましたが……町中がざわつきはじめた事に気づいたのか、何名かが町のほうへと向かっていきました。

 そして、それから…………。

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