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??? ????は勤労に励む。

閑話に続いて、本編前の幕間です。

「それじゃあ、行ってきますね。みんな、行きましょう!」

『『はーいっ!』』

「気をつけて行ってくるのよー」

「はーい、行ってきますシスター」

 いつもの様に朝に起きて、朝食を摂り、同じ孤児院に暮らす大事な弟と妹達を連れてわたしは移動をします。

 向かう先は屋台村だから、馬車とかに注意しつつ移動しないといけません。

 下の子達はまだ注意力が散漫だから特に。

 そう思いながら、ちょっと注意が必要な子は手を繋いで大丈夫な子達はベテランとなった皆に引率をしてもらう。

 そして十分ほどかけて、ようやく屋台村へと辿り着いた。

「とうちゃーく。さ、みんな、仕事をするお店に行こうね!」

『『うん、分かったー! 頑張るねーっ』』

 わたしの言葉に元気良く返事を返し、弟と妹達はパタパタと走りながら自分達が手伝いを行う店舗へと走っていった。

 それを見届けていると声がかけられました。

「ふぉっふぉっふぉ、元気にしておるかのう。お嬢ちゃん」

「こんにちわ、ウオお爺さん。あと、お尻を触ろうとするのはいけませんよー?」

「ふぉっふぉっふぉ、すまんすまん。こう、歳を取ると若い娘が恋しくなるんじゃよ」

 そんな事を言いながら、ウオお爺さんはあの頃と比べるとずっと長くなった顎鬚を手でわしゃわしゃとしながら笑いました。

 ちなみにこんな風に言い返しているわたしですが、二年ほど前まではウオお爺さんにお尻を撫でられると恥ずかしくて顔を真っ赤にしていました。

 初めて会った時は厳格だけど優しそうなお爺さんと思ったんですけどねー……。

「それでどうしたんですか?」

「なぁに、何時もの散歩じゃよ散歩。わしは日々発展して行くこの屋台広場を見るのが好きなんじゃよ」

 そう言って、ウオお爺さんは屋台村を見ます。

 釣られるようにわたしも屋台村を見ましたが、本当に発展しましたね……。

「……わたしも、好きですよ。この屋台村……あの頃と比べると色んな店が増えたけれど、活気があって良いですし」

「そうじゃろうなぁ。……彼女は元気にしておるかのう?」

「分かりません。けど、きっと元気にしていますよ……」

 ウオお爺さんの言葉にわたしは返事を返しながら、空を見上げます。

 あの人は、今頃何をしてますかね……。

「まあ、あれだけ破天荒な者達だったんじゃ、そう簡単にくたばるわけがなかろう……。ところで、時間は大丈夫なのかお嬢ちゃん?」

「…………あっ! ち、遅刻しちゃう!! ウオお爺さん、弟と妹達をお願いします!!」

「うむ、分かった。ちゃんと頑張ってくるんじゃぞー」

「はーい!」

 慌てながら駆け出すわたしへとウオお爺さんが手を振ってくれます。それに返事を返しながら、わたしは現在の職場へと向かいました。


「おはようございますっ!」

「遅いっ! 五分の遅刻だぞっ!!」

「すみませんっ、すぐに入りますっ!」

 出来るだけ大きな声で挨拶を行いながら職場である治療院に入ると、慌しい中で院長に怒鳴られました。

 ですが、そこは戦場とも呼ぶべき場所なので一分一秒も遅れてはいけないんです。

「良い心がけだ! だったら、軽傷の奴らの回復を行っておけ!」

「はいっ!」

 町の外で冒険者が傷を負ったのか、腕から肩に走るように大きな切り傷を作った患者へと回復魔法を掛けながら大声で言う院長の言葉に従い、わたしは軽傷の怪我人の元へと走ります。

 そこでは院長が言ったように擦り傷や切り傷、他にも打撲といった軽傷の怪我人が多く見られました。

「お待たせしましたっ!」

「おっ、今日はお嬢ちゃんが担当なのかー!」

「彼女の回復は温かいんだよなぁ」

「痛いから速くしてくれぇ!!」

 わたしを見るや怪我人達は色々と口にし始め、同時に期待した表情を向けます。

「そ、その、あまり回復が出来ませんけど、よろしくお願いしますっ」

 その視線に気恥ずかしさを覚えつつ、わたしは怪我をしている箇所へと両手を向けると……自身の体に流れる魔力を使って回復魔法を使いました。

 直後、わたしの手から銀色の光が放たれ……傷口を照らすと、少しずつ肉が抉れて血が滲んでいた箇所が塞がっていきました。

「おおっ、い――痛くないっ!! ありがとうな、嬢ちゃん!」

「…………ふぅ、次お願いします!」

「こっちをお願いできるか? ちょっと力いっぱい金槌を打ちつけちまって……」

「わかりました、それじゃあ行きますね」

 そう言って、パンパンに脹れ上がった手へとわたしは回復魔法を放つ、すると膨らみが少しずつ収まっていくのが見えました。

 それからしばらくは回復魔法を使い続け、怪我人の治療を行い……お昼の休憩をしてからは、血で汚れたシーツや包帯をタライに入れて洗っていきます。

 ごしごし、ごしごしとシーツを洗濯板で洗っていくと、カオス商会から仕入れた洗剤のお陰か簡単に泡立っていく。

「綺麗になれ~♪ ふふっ♪」

 ふんふんと鼻歌混じりに洗い、赤黒かった布が段々と白くなっていくのを見ながらわたしは満足します。

 そして、洗い終えたそれらを干し……白い布が風に靡くのを見ながら、頷くとこの治療院で数年前から預かってもらっている人物へと会いに行きました。

 ですが彼女は相変わらず、何処を見ているのかわかりませんがジッと目を開けたまま……反応がありませんでした……。

 けれど何時かはまともになってくれるだろうと思いながら、わたしは彼女に「また来ますね……」って声を掛けて部屋から出て行きました。

 それから少しだけわたしだけが出来る、治療院でも院長しか知らない事を行ってからその日の仕事は終わりました。

「あの子達は……まだだよね? ……だったら、行こうかな」

 呟き、わたしは歩き出します。

 あの日、あの人と約束した思い出の場所へと……。


 空が茜色に暮れ始めるのを見ながら、わたしは丘の上に立っていました。

 緑が茂る丘は町が一望……とまではいきませんが、港が良く見える場所です。

 そんな丘には、町の好意によって創られたガゼボがあり……中央には丸テーブルが置かれており簡単なお茶を楽しむことが出来る造りとなっていました。

『何時か、また会えた時はここでお茶をしましょう』

 記憶の中に残るあの人は、町を離れる最後の日にわたしをここに連れてきてこの町を目に焼き付けるように見ながらお茶を楽しんで……別れ際わたしへとそう言って微笑んでくれた。

 そんな思い出がある場所だから、色んな意味で町を救った功労者として強く賢く気高く美しかったあの人のことを称え……この丘は『賢者の丘』と呼ばれていた。

 ちなみに一時期はデートスポットになったりもしていました。

「……今日も、来てないか」

 分かっていたことだけれど、実際に見て少しだけ悲しく感じながらもわたしはガゼボの中に入るとテーブルを軽く指で拭う。

 つぅ……と拭った指に風に舞った土埃が付き、しばらく誰も来ていない事が分かった。

「今度、おやすみの日に掃除に来ないと……――っ!?」

 呟いていた瞬間、ドスンという音がしついビクッとしてしまう。

 けれども何の音だろうかと不安に思いながらもそちらを見ると、傷ついた男性がそこには居ました。

「っ!! だ、大丈夫ですかっ!? しっかりしてくださいっ!!」

「ぅ……、こ、こは……? ――ぐっ!!」

 わたしの声が聞こえたのか、傷ついた男性が瞼を開けました。

 ですが、意識を取り戻したからか体の痛みが襲いかかってきたようで、血塗れながらも整った顔が歪みました。

 そんな男性の様子を戸惑いながらも確認しつつ、怪我の具合を見ます。

「……ひどい、体中傷だらけじゃないですか……」

 顔は比較的傷は少ないけれども、腕や体……特に背中からは血がダクダクと垂れていました。

 このままだと死ぬ可能性が高い、いえ確実に死にます。

「仕方ありません……。周囲に人は、居ませんよね?」

 誰もいない、ということを確認してからわたしは傷ついた男性を見ます。……彼自身も血を失いすぎているからか意識が朦朧としているのが分かりました。

 ……好都合、と思わせていただきますね?

「――神よ、この者に癒しをお与えください」

 意識のない男性の眠る隣へとわたしは跪き、何時からか祈る事によって繋がることが出来た世界から魔力とは違う神聖な力を引き出し、わたしは回復魔法を使う。

 すると、男性へと白く輝く銀色の光が注がれ包みこんでいきます。

 男性を包み込んだ光りが、中に吸い込まれていくと……すっと全身の傷が消えていきました。

「…………ふぅ」

 これで大丈夫、そう思いながらわたしは安堵と同時に疲れた為に息を漏らす。

 だけどこの力を使った事に後悔はありません。人が死ぬのは見たくないですから……。

「っ、う……うぅ……」

 そう思っていると男性の呻き声と共に瞼が動き始めました。

「しっかりしてください、大丈夫ですか?」

「わ、私は……生きている、のか?」

「はい、わたしが治しました。いったい何があったのですか? それに、いったい何処から……」

 そうです。考えてみたら、この男性は何処からともなく突然現れました。

 世の中には転移魔法とか転移をするための道具があると聞いた事がありますが、それを使ったのでしょうか? でも、傷だらけだったのは?

 そんな疑問を抱きながら訊ねると、男性は突然頭を押さえました。

「わ……分からない。わからないんだ。私は、いったい何者で……何があったのか、まったくわからない。思い出そうとすると、頭が痛くなるんだ……!」

「記憶喪失……ですね」

 頭に衝撃を受けたのか、それとも思い出したくない事があったのか分かりません、ですが目の前の男性は記憶喪失となっています。

 そんな男性を放っていくか、と聞かれたら……無理ですよね。

「あの、記憶が戻るまで……わたし達と一緒に暮らしませんか?」

「え?」

 わたしが差し伸べた手を男性は驚いた表情で見ます。

 そして戸惑ったように、わたしの顔と手を交互に見て……最後に自分の手を見てから、

「……いい、のか?」

「はい! ……あ、ですけど働かざる者喰うべからずっていう言葉がありますから、ちゃんと働いてくださいねっ!」

「あ、ああ、わかった。その……よろしく」

「よろしくおねがいします。あと、貴方の名前を決めないといけませんね」

「そう……だな。そういえば、きみの名前は?」

「わたしですか? わたしは――――」


 男性へとわたしは名前を告げます。

 この瞬間、あの人によって彩られたわたしの物語は本当の始まりを向かえたのでした。

次は悪役令嬢に戻ります。

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