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閑話 平民主人公、飲食チートを行う。(ただし失敗する)

 謁見の間から出て、わたし達はムフェル様の政務活動を行う為の部屋へと入り、フカフカなソファーへと座る。

「さて、これからどうするべきか?」

「まずはお金を溜める方法を考えるべきですね!」

 格好よくわたしを連れ出してくれたムフェル様の言葉を聞きながら、わたしは思ったことを口にする。

 とりあえず、どうやってお金を稼ごうかしら?

 そう思ったけれども、すぐには答えが出て来ない。しかも一ヶ月以内に完済しないと行けないのよね?

 ――コンコン。

「失礼します。ワーク様より資料をお預かりいたしました」

「ご苦労。そこで読み上げろ!」

「お断り致します。どうぞご自由にお読みください」

「待て、どう言うつもりだ!」

 言いながら、資料を持ってきた文官はムフェル様の命令を無視して、資料を入口近くのテーブルへと置くと部屋から出て行こうとする。

 そんな文官を叱るつけるようにムフェル様は怒鳴り声を上げる。

 けれど、怒鳴りつけられた文官は凍えるように冷たい視線をわたし達に向けるだけだった。……が、分かっていないと理解したのか馬鹿を見るように呆れるように溜息を吐いた。

「ムフェルさん。貴方は廃嫡されたのです。ですから、貴方はいま王族ではありません。分かりますか? 王族ではなく、平民と同じ扱いにしているだけです」

「なんだと!? 貴様っ、俺を侮辱する気か!?」

「侮辱? いいえ、本当の事を言ってるだけですよ? ああ、それと貴方は近い内にこの部屋、というよりも城からも追い出されますので住む場所を探しておいた方が良いですよ?」

 文官は馬鹿にするように言いながら、パタン。と扉を閉めて出て行きました。

 それをムフェル様はギリギリと歯を噛み締めながら睨み付けていました。

 ちなみにわたしもなんて失礼な文官! と腹が立っています!

 けれどここで腹が立って状態異常魔法をかけたとしても道具によって聞かなかったりするかも知れない。

 そう思いながら、なんとか怒りを抑えてムフェル様を見ます。

「ムフェル様、あの人は最低ですけど……置いて行った物を見ましょう!」

「む、そ……そうだな。ありがとうシェーン。君のお陰で落ち着いたよ」

「いえ、気にしないでくださいムフェル様。だって、わたしはムフェル様の恋人ですから」

 わたしの言葉でムフェル様が何とか怒りを抑える事が出来た様で、こちらを見ながらお礼を言う。

 そんなムフェル様にわたしは照れたように言うと、彼は嬉しそうに頬を緩める。

 そしてわたしとムフェル様は二人で失礼な文官が置いていった資料を手に取ると、ソファーの前のテーブルへと置いた。

「それじゃあ、見ますね?」

「ああ、見ようか……」

 二人して言い合いながら、わたし達は資料を見た。――瞬間、目を疑った。

「なによこれっ!?」

「なんだこれはっ!?」

 わたしとムフェル様の信じられないと言った声が同時に口から出た。

 けど、こうなるのは当たり前だと思う。だって、わたし達の視界に入った資料に書かれた返済金額はゼロが幾つも書かれていたのだから。

 ついでに赤文字で『国王様の慈悲で端数は削りました。』という文字が書かれているけれど、目に入る余裕なんてない。

「なんでこんなにあるんだっ!?」

「そうですよ! きっと国王様達が意地悪してるに違いないです!! 抗議に行きましょう!!」

「ああ、行こうシェーン!!」

 頭に血が上る。とはこの事をいうとでもいうように、わたし達は国王様の元へと走りました!

 そして、城から追い出されました!!


 ………………あ、あるぇ??


 ●


「おいおい、ムフェル。どうしたんだよ。シェーンも大変だったなぁ!」

「そうですね。ムフェル、大変でしたね。そしてシェーン様、ご婚約おめでとうございます……」

 国王様に抗議に行って流されるままに城から追い出された後、わたしとムフェル様は一先ずフォース様のお屋敷へと向かいました。

 するとそこにはフォース様だけではなく、リッチ君も居ました。

 そして開口一番、ムフェル様を励ますように笑いかけ……わたしを優しい瞳で見てくれました。

 ああ、この視線が良いのよ。チヤホヤされてる、愛されてるって分かるから!

「それで返済を行わないと行けないのですか……。ちょっと失礼しますね」

 そう言いながらリッチ君がカバンひとつで追い出されたわたし達の持っている荷物の中から、返済金額が書かれた資料を取り出し読み始めました。

 しかし、読み始めて行くに連れて徐々に顔が青ざめ始めて行くのが分かり、心配になってきた。

「な、なんですかこれはっ!? 平民が普通に暮らしても10年は養える金額ですよ!?」

「マジか? ハハッ、大変だなムフェル!!」

 リッチ君の焦る言葉を聞いて、フォース様は笑い話のようにケラケラと笑います。

 ですが、そんな彼へとリッチ君が焦った様子で詰め寄りました。

「ムフェルだけが支払う羽目になってたら私だって笑いましたよ? ですが、この返済計画には私とフォースの二人も入ってるんですよ!?」

「…………は?」

 ピタリ、とフォース様が固まります。そして訊ねるようにリッチ君へと語りました。

「おいリッチ、オレとお前も返済を行う者の中に入ってるのか?」

「はい、この金額をキッチリ国に返済しなければなりません……。一月以内に」

「な、なんだとぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」

 ようやく状況を理解したといった感じにフォース様が驚いた声をあげました。

 ちょっと耳が痛いんですけど?

 ジンジンする鼓膜が破れていないかと思っていると、フォース様は驚いた様子を隠すように咳払いをして椅子に座りました。

「ふぅ。焦っちまったけどよ、家の金を使えば問題ないだろ!」

「問題大ありです。フォース様、返済には自身の家の資金は使用しないようにと国王様より伝達が行われておりますので」

「な、なにぃ!? 聞いていないぞ!!」

 わたしも聞いていない! 何なのよそれ!? フォース様のお金も少しは期待してたのに!!

 焦るフォース様と心の中で頭を抱えるわたしへと、部屋の隅で待機していた年老いた執事が説明をし始めました。

「はて? 私は先ほどムフェル様たちが来られる前に告げましたよ? 国王様からの指示だと。ですがフォース様はムフェル様の婚約の事で頭がいっぱいだったご様子でしたね」

「う……。そ、それは……その……」

 フォース様はその執事に弱いのか、もごもごと口を閉ざし顔を顰めます。

 そしてチラリとわたしを見てから、まるで話を誤魔化すといわんばかりに声をあげました。

「と、兎に角! 如何にかして返済しないといけないんだよな!! どうするんだっ!?」

「そうですね……。一月以内でここまでのお金を一気に返済する方法はかなり限られますね」

 フォース様の大きな声での問いかけにリッチ君が腕を組んで口元に手を当てながら考える仕草をします。カッコイイ!

 っとと、わたしも返済する方法を考えないと! というよりも、こういう時こそ現代知識チートをするべきよねっ!!

「リッチ君。わたしも考えます!」

「ありがとうございます、シェーン様。では限られた返済方法を挙げていきますね。

 ひとつ、鉱脈を当てて一気に大金を稼ぐ方法。……これはどう考えても一月では終わりませんよね?

 ふたつ、屈強な者達が行っている冒険者という職業となり、依頼をバンバンこなして行く。……私達は冒険者登録などしていない為、最低ランクから始まるでしょうし時間がありません。

 みっつ、何かを作って売り出す。比較的安価で売ることが前提となりますが、一月以内にギリギリ稼ぐことだって出来るかも知れません」

「なるほど、つまりは冒険者になりゃ良いって事だな!」

「いえ違います。私としてはみっつめに語った何かを作り売り出すのが一番安全な方法だと考えています」

「鉱脈を当てるのではないのか?」

 フォース様とムフェル様の言葉を無視するようにリッチ君が淡々と語っていきます。

 ……あ、危なかった。冒険者になって依頼をこなすって思ってたわわたしも。

 けど、みっつめの案は一番安全だし、ブームに乗ればお金がウハウハになる可能性が高いわよね!

「分かったわ。リッチ君の提案したように何かを作ってブームを創れば良いのよ!」

「その通りです、シェーン様。何か斬新で新しい物が出ると基本的に人は飛びつくものですからね」

「「「新しいもの、新しいもの…………」」」

 口に出しながら、わたし達は一斉に考える。

 ある程度の値段で人が飛びつくような斬新なもの……。

 前の世界だと色んなブームがあったんだよね? 確か、肉巻おにぎりとか携帯ゲームとかもブームだったはず。

 それで生きてた時に一番有名だったブームと言えば……。

「タピオカ……」

「たぴ? え、なんだって?」

「シェーン? どうしたんだ??」

「シェーン様?」

「そうよ! タピオカ! タピオカミルクティーにしたら、ブームが出るに違いないわ!!」

 言いながらわたしは立ち上がって、両手を握る。

 そんなわたしを見ながら三人は戸惑った様子だったけれど、気づいていない。

「シェーン様、何か浮かんだのですか?」

「ええ、浮かんだわ! これなら大ヒット間違い無しよ!! えっとね……」

 わたしは彼らにタピオカの説明を始める。

 確か……黒くて、粒々で、甘くて、もっちりしてたはず。それがミルクティーの中に沈んでるの!

 それを聞きながら、三人はイメージが湧かないのか首を傾げるばかりだったけれど……フォース様が勢い良く立ち上がりました。

「大体分かった! それじゃあ、一度作ってみるか! っつーわけでリッチ、一緒にタピオカを取り(・・)に行くぞ!!」

「はぁ……まあ、付き合いますけど……」

 言いながらリッチ君も立ち上がり、二人して部屋から出て行きました。

 ちょっと変な言い方だったけれどフォース様とリッチ君に任せておけばタピオカは入手出来るよね?

「フォースとリッチが出かけたか。……俺達はあいつらが戻るまで休んでよう!」

「はい、ムフェル様♥」

 ちゃんと創れるかと試作をすれば良いかも知れないけれど、多分問題ないよね!

 普通にタピオカを砂糖かシロップに漬け込んで、ミルクティーと混ぜれば良いだけだもの。

 そう思いながら、わたしはムフェル様との時間を思う存分楽しむ事にした。


「待たせたな、シェーン! これがタピオカだろ!」

 数時間が経ち、空が茜色に染まり始めた頃になってようやくフォース様は笑顔で戻って来ました。

 ちなみになぜかリッチ君と一緒に泥だらけです。泥んこプロレスでもしてたのかなぁ?

 そんな事を思いつつも、フォース様が持ってきたタピオカを見ます。

 黒くて粒々……うん、記憶に残るタピオカです!

「これですこれ、ありがとうございますフォース様♥」

「い、いやぁ、照れるなぁ! それで次はどうするんだ?」

 頭を搔きながらフォース様は照れます。それを見ながら、わたしは次の手順を口にしました。

 わたしの言葉に従って、フォース様は活き活きとタピオカをシロップの中へと漬け込み始め、ムフェル様とわたしは興味深くそれを見ていました。

 だけどリッチ君は顔を顰めつつ、口元を押さえています。……どうしたのかな?

 まあ少しだけ気になったけど、用意して貰ったアイスミルクティーへとシロップ漬けにしたタピオカをボトボトと入れるとそれは完成した。

「出来た! タピオカミルクティーの完成っ!!」

「おおっ、これがブームを巻き起こす為の物か!」

「すげぇ! オレが用意したタピオカがこんな風になるなんて!!」

 格好よく掲げたグラスを見ながら、ムフェル様とフォース様が拳を握りしめて笑顔となりました。

 わたしも当然笑顔です。だって、これならお金も一気に稼げてムフェル様は王家に諸手を上げて戻る事が出来ますからっ!!

「それじゃあ、味を見てみましょう♥」

「ああ」「そうだな!」

「いえ、私は遠慮しておきます……」

 いざ飲もう、という時にリッチ君は拒否をしました。

 うーん、さっきからどうしたのかなぁ?

 そう思いながらムフェル様とフォース様の分も用意すると、わたし達はそれを掲げます。

「それじゃあ、成功を期待して!」

「「「かんぱーい!」」」

 ゴクゴクとわたし達はミルクティーを飲み始めます。

 タピオカのシロップがミルクティーに溶けたのか程好い甘さが口の中に広がり、タピオカもぷにゅぷにゅとした食感がしますね。……でも、何だか生臭いような気がします。

「ふむ、不思議な味だな」

「はい、こんな感じでしたっけタピオカって……」

「しかしシェーンの考えって斬新だよな!」

 ぷちぷちと口の中のタピオカを潰しながらフォース様がわたしを見ながら笑います。

 斬新でしょうか? まあ、異世界人からしたら、タピオカって不思議な食べ物ですよね。

 そう思っていると事実は違ったようです。なぜなら……。

「だって、カエルの卵(・・・・・)をタピオカって呼んでシロップ漬けにするんだからよ!!」

「…………は? え、ちょ、っと待ってください……今、なんて?」

「だからカエルの卵だよ。これがタピオカだったんだろ?」

 カエルの、卵? ……ごくん、と口の中で潰したタピオカ――カエルの卵を呑み込んだ瞬間、一気に吐き気が込み上げてきました。

 ムフェル様も同じように顔を青ざめさせ、わたしを見ます。

「「う、うぉええええええええぇぇぇぇえぇぇぇぇっ!!」」

 直後、込み上げた吐き気に耐え切れず……わたしとムフェル様はその場で嘔吐してしまいました。

 それをフォース様とリッチ君が心配して駆け寄ってくれますけど、カエルの卵を噛んで食べたというショックは計り知れなく……胃の中が空っぽになるまでわたしとムフェル様はゲェゲェと吐き続けました。

 フォ、フォース様のバカァ!!

 そして、最悪な事がもうひとつあった。それはわたしが作ろうとしていたタピオカミルクティーは既にカオス商会が売り出していたという事だった。

 ま、間違いない……カオス商会って、わたしと同じ転生者が創ったお店だっ!!

 そう思いながら、わたしは先を越された怨みをカオス商会に抱くのだった。

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