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第十三話 悪役令嬢、サポートする。

 トロコスと握手を交わし、孤児院へと戻る為に歩くわたくし達でしたがあと少しで到着という所でドゴッ!という鈍い音が周囲に響き渡りました。

 その音を聞き、わたくしはカエデと顔を合わせます。

「お嬢様、今の音は……」

「ええ、周囲に鈍く響く音でしたね。……あの子、かなり力加減をミスしたようですね」

「急ぎましょう」

 カエデの言葉に頷き、わたくしは急ぎ足で孤児院に入ると暗殺者の男性を寝かしつけていた部屋へと向かいます。

 するとそこには床に倒れた意識の無い暗殺者の男性、首に手の痕が残ったセージョさん、わたくしが戻ってきた事に満面の笑顔を向けるレヴィアが居ました。

「あ! あるじおかえりー♥」

「ええ、ただいま戻りましたよレヴィア。それで、どうしたのですかこれは?」

「そうだった! あるじ、このひとひどいんだよー? このこのくびをぎゅーってしめてたの」

 言いながら彼女は倒れた暗殺者を指差してから自分の首に手を当てました。

 なるほど、殺されそうになってたから助けたわけですね。

「よくやりましたね、レヴィア。ですがちょっとやりすぎですから、もう少し抑えてくださいね」

「そうなの? わかったー!」

 わたくしの言葉にレヴィアは頷きますが、出来るかと聞かれたら分からないとしか言いようがありませんね。

 そう思いながら、セージョさんへと近付きます。

「大丈夫でしたか、セージョさん?」

「あ、あの、その……だ、大丈夫……です。レヴィア、ちゃんが……助けてくれた、から……」

 殺されかけた事が恐かったのか、たどたどしく彼女はそう答えます。

 そんな彼女の目線まで膝を折り、顔へと手を伸ばすと……優しく撫でました。

「あ…………」

「そうですか。無事で良かったです」

 緊張していたのでしょう、わたくしの言葉を聞いて自分が無事だと言うことをようやく理解したのかセージョさんの目に涙が浮かび始めます。

 ……うん、やっぱり恐かったようですね。そう思いながら彼女の背中を優しく撫でていると、暗殺者の男性が朦朧とした意識で何かを呟いていました。

「しにた、く…………ない」

「――――っ」

 声はセージョさんにも聞こえたようで、彼女の体がビクリと震えます。

 ですがそれは恐怖から来ているものなのか、怒りから来ているものなのかはわかりません。もしかすると、そのどちらでも無いかも知れませんが……。

 そう思っていると、ギュッと袖が引かれました。

「どうかしましたか?」

「あ、あの……。お医者さま、呼べ……ませんか?」

「何故ですか? あの男は貴女を殺そうとしたんですよね? それなのに、お医者様を呼んで欲しいのですか?」

 わたくしがそう尋ねると、セージョさんはこくりと頷きます。

 そして、震える声でたどたどしく……。

「死んで、ほしく……ありません。だって、死にたくないって……言ってる、から……」

「お優しいんですね。でもお医者様に見て貰う時間が無いようですよ?」

 セージョさんにそう言いながら、暗殺者の男性を見ますが……かなり顔色が悪くなっていますね。

 レヴィアは本当にもう少し力を抑えるようにした方が良いみたいですね。

「っ! ど、どうしよう……、どう、しよう……」

 悩むようにセージョさんは呟きながら震えます。その表情から読み取れるのは無力すぎる自分の不甲斐無さ……でしょうか。

 …………面白い。面白いですね。余計な物が入っていない、ちゃんとした『主人公』という存在は。

 こういう人物が不可能を可能にしていくのでしょう。

「……でしたら、わたくしも手を貸してあげるしかないようですね」

「え?」

 ポツリと呟いた言葉を聞いたのか、セージョさんはきょとんとした表情をこちらに向けてきます。

 そんな彼女の肩を掴むと、瀕死の暗殺者へと向かせ……彼女の背中に手を当てました。

「セージョさん、彼を助けたい。と必死に想い続けてくださいね。そうすれば奇跡は起きてくれるでしょうから」

「え、あ…………は、はいっ」

 わたくしの言葉に戸惑いながらも、彼女は返事を返しました。

 そんな彼女の背中に当てた手からわたくしは、力を引き出す為に目を閉じます。

『……|The sage knows everything《賢者はなんでも知っている》』

  歌うように紡がれる言葉、それは()から教えて貰った言語。

 この世界にはないといわれている言語。それを紡いだ瞬間、見えない蓋が開くかのように頭の中に知識が広がって行きました。

 最後にこの力を使ったのはハッズ王国でどのように資金繰りを行うかという資料作りでしたけど、使うと本当に世界の全てが解るかのようですね。

 っとと、そんな事はどうでも良いです。今必要なのはセージョさんに一時的にでも目覚めてもらう事ですから余計な事を考えないようにしましょう。

 そう考えながら、わたくしは閉じていた目をゆっくりと開き……セージョさんの背中を見ます。

 見えます。複雑に絡み合った彼女を縛る運命が。

『――|Wake up to avoid death《目覚めなさい、死を回避する為に》』

「っ!? んっ……く、ぅ……!」

 瞳で彼女の運命を見ながら、背中に当てた手でそれを掴む為に動きます。

 すると、彼女の幼い体に負担が生じ始めているのか、苦しそうに呻きはじめました。

「耐えなさい。貴女はただ、目の前の人物が死なないよう祈り続けることに集中しなさい」

「は、い……っ」

『――|Wake up and show its power for a moment!《目覚めなさい、一瞬だけその力を示しなさい!》』

 掴んだ。そう確信した瞬間――わたくしは声高らかに告げました。

 その瞬間、一瞬だけですがセージョさんの背中に神聖な気配を漂わせた刻印が姿を現しました。

 すると、体が一瞬だけ光るとその光りは……暗殺者の男性を包み込みました。

「せいじょ……さ、ま……?」

 ぽつり、と男が信じられないとばかりに呟くのが聞こえましたが、セージョさんには届いていないようです。

 そして光りが収まった瞬間、わたくしは目を閉じ……掴んだ物を放しました。

 するとそれはセージョさんの奥へと再び潜り込んで行き、同時に彼女の背中に現れていた刻印が消えていきます。

「終了ですね。……ありがとうございました」

 小さく呟き、わたくしは中に入り込んでくる知識に対して礼を言ってから見えない蓋でそれを閉ざすと小さく息を吐きました。

 同時に体、いえ精神にどっしりと襲う倦怠感。この力の代償は精神的な疲れ……なんですよねぇ。

「セージョさん、しっかりしなさい」

「ふぇ……え、あ……!? あ、あの人は……あ、いき……てる」

 わたくしが彼女の肩をポンと叩くと、ちょっと間伸びた声と共にその場に座りこみました。

 けれど、生きていて欲しいと願った男性が無事なのか気になって、そちらを見ると傷ひとつなく静かに眠る男性がいる事に気づき……安堵の息を吐いています。

「おめでとうございます。彼は無事に助かりましたね」

「は、はい……。その、ありがとう……ございます」

「気にしないでください。わたくしはただ貴女の可能性を引き出しただけですから」

「かのう、せい?? えと、よくわかりませんが、それでも……ありがとう、ございました」

 わたくしの言葉が難しいからか、セージョさんは理解できず首を傾げます。ですが、結局はわたくしが何かをしたと考えたようで頭を下げてきました。

 貴女が目覚める可能性の力ですのに……。まあ、目覚めなくても問題はないと思いますよ。

 そう思いながら、わたくしはセージョさんを見ますが……無理に力を引き出した影響か彼女も疲れているようでした。

「セージョさんも疲れているようですし、部屋に戻りましょうか」

「え、で……でも」

「大丈夫です。ここはカエデが見ていてくれますから。ね?」

「お、お嬢様……。はぁ、かしこまりました。こいつが目を覚ますまで私が見張りをしておきます」

 わたくしの言葉にカエデは捨てられた子犬のような瞳で見てきましたが、お願いには逆らえないのか溜息と共に見張りを了承してくれました。

 さすがカエデですね。

「それではよろしくお願いしますね。さ、セージョさん。お部屋に向かいましょう」

「は、はい。その……よ、よろしく、おねがいします」

「かしこまりました。それではお嬢様、またあとでお会いいたしましょう」

 頭を下げるカエデを見てから扉を閉めると、わたくしはセージョさんとレヴィアを連れて廊下を移動します。

 とりあえず、セージョさんはお部屋に向かってもらいましょう。わたくし達は……シスさんに空いている部屋がないかを聞きましょうか。神父様の部屋だった場所には暗殺者とカエデが居ますし。

 あとは宿泊費として少しお金を渡しましょう。そう思いながらある部屋の前へと辿り着くと、セージョさんは眠くなっているのかフラフラです。

「むにゃむにゃ……、それじゃあ……ぱなせあさま、しうれい……しましゅ……」

「ええ、セージョさん気をつけてくださいね」

「ふぁい…………」

 扉を開け、部屋の中へと入っていくセージョさんを見送ってからわたくし達は食堂に向かうと、シスさんが居ました。

 食堂に入ってきたわたくし達の存在に気づいたのか、こちらを見てきます。

「あら、パナセア様。先ほど何か変な音が聞こえていましたが、どうかしたのですか?」

「ちょっと面白い事をしていただけですよ。まあ、運が良ければ孤児院を世話してくれる大人が一人増えるかも知れないってだけです」

「はあ……」

 よく分かっていない。といった感じにシスさんはわたくしを見ていましたが、そんな彼女へと懐からある程度のお金が入った袋を差し出します。

「あ、あの、これは……」

「宿泊費、と言っておきましょうか。それに、少しでも量がある物を食べさせてもらいたいのですよ。まあ、多く作って余ったら分けても構いませんよ?」

「っ!! あ、ありがとうございますパナセア様……っ!!」

 わたくしが差し出した宿泊費がどのような用途に使えば良いのかを理解し、シスさんは頭を下げてきました。

 頭を下げる必要はないと思いますよ。だってこれは宿泊費ですからね。ただちょっと普通よりも少しだけ量が大きめな宿泊費です。

「それでは、少し席を外して晩御飯の食料の買い出しに行ってきます!!」

「いってらっしゃい。気をつけてくださいね」

「はいっ!」

 元気良くシスさんは食堂から出て行くのを見届け、わたくしは椅子へと座ります。

 そして、息をふぅと吐き出すと……。

「眠れる場所がないか聞くのを忘れてましたね……」

 溜息混じりに呟いた。

英語はグーグル翻訳を使用しました。

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