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第十一話 悪役令嬢、OHANASHIをする。

「え、しゃ……借金? わたしは、した覚えなんて……!」

 扉をガンガンと叩かれ、年少組の孤児達が怯えているのを見ているとシスさんは戸惑いながらそう呟きます。

 ……という事は、チンピラを雇いましたか。

 聖女さま、もしくは指示を行った方は浅はかですね。

 とか思っていると、ゴガッ!と力強く扉が蹴破られました。

『『『キャアッ!!?』』』

「はいはい、お邪魔しますよ~っと」

「邪魔するぜぇー」

 激しい音を立てた扉に孤児達が驚いた声を上げる中、室内へと二人の男が入ってきました。

 身形の方は……お世辞にも良い感じとは言えませんね。でも汚らしすぎない、所謂町のチンピラといったところでしょうか?

「だ、誰ですか貴方達はっ!?」

「あんたがこの孤児院の院長か~?」

「そ、そうです! いったい何の用ですかっ!?」

 ニタニタと嗤いながら近付くチンピラに怯えつつも、子供達を怖がらせまいとシアさんはチンピラに応対をします。

 そんな彼女へと見せつけるようにチンピラは羊皮紙を取り出し、彼女へと見せつけるように前に広げてきました。

 えーっと、なになに……?

「これは……借用書?」

 羊皮紙に書かれていた物、それはこの孤児院がかなりの金額の借金をしているというものでした。

 ですが借りた日は大分前、ですね。

「な、何ですかこれはっ!? わ、わたしは知りませんよ!? そもそも何に使ったと言うのですかっ!?」

「お宅の神父のジジイ、病気だったんだろぉ? だったら、その治療費だよ。ち、りょ、う、ひ!」

「そんなはずありませんっ! 神父様はお金は絶対に借りるなと言っていましたし、わたし達も借りた覚えなんてまったくありません!!」

「んなこたぁどうでもいいんだよっ! 俺達は借りた金をキッチリ返せと言ってるんだよ!!」

 ゴッ!とチンピラの足がすぐ側の壁を蹴りました。直後、ベゴリと音を立てて壁に穴が空きました。

 その音とチンピラの声に恐怖したのか、奥の方から「ヒィッ!」という孤児達の声が聞こえました。

 これはダメですね。ええ、ダメですね。

「お、お金は……ありませ――「あぁん!?」――ひっ!」

 震える声でシスさんが口を開こうとしましたが、チンピラの声に恐怖しきっている為に上手く対応が出来ていません。

 というよりもこれはチンピラの方に主導権が握られていますね。

「金なんて、すぐに稼げるだろぉ? てめぇとか、ある程度成長しきった女の孤児を使えばなぁ」

「ぐへへっ、味見はさせてくださいよぉー」

「っ!? さ、最低っ! 最低です、貴方達はっ!!」

 ジロジロとシスさんの修道服に包まれた肢体を眺めながら、チンピラはニヤニヤと嗤う。

 どうやら体を使って、夜のお仕事を行わせるつもりのようですね。

 そう思っているとこちらにも不躾な視線が送られて来ました。

「それで、こっちの女は先に味わっても良いんですよねぇー?」

「ああ、連れ去って手篭めにするなり、殺すなりしろと言われてるぜ~」

 ……言われてる(・・・・・)。ですか……。

 つまりは裏にこの借用書を用意し、わたくしとこの孤児院に危害を加えようとする者がいると。

 まあ、誰か分かりますけどね。

「お嬢様、こいつら……やりますか?」

 鯉口を切り、鞘から刀を抜こうとするカエデがわたくしへと訊ねます。

 とりあえず、カエデを止めておかないと勝手に飛び出しますね。

「落ち着きなさいカエデ。こんな建物で貴女が暴れたら、簡単に崩れます」

「……かしこまりました。ですが、お嬢様に危害が加えられる前には飛び出しますよ?」

「ええ、よろしくお願いしますね」

 言いながら、わたくしはチンピラ達へと視線を向けます。

「貴方がた、ちょっと外でOHANASHIをしましょうか」

「あぁ?! てめぇなに言ってやがる! ほら、とっととこっちに来いよ。可愛がってやるからよ~!」

「それとも無理矢理その場で押し倒されたいのかぁー?」

 ケラケラと嗤うチンピラ達の反応を見ていると、わたくしの背後から彼らに向けて強烈な殺気が放たれました。

「「っ!!?」」

 突然の殺気にビクリとし、彼らはガクガクと震え始めます。ちょっとわたくしに対する暴言が過ぎたようですね。

「貴様ら、お嬢様にその様な事を言うか。なら……命は欲しくないようだな?」

 シャリン――と綺麗な音を立てながら、わたくしの後ろから鞘から刀身を覗かせながら鋭く目を細めながらカエデが歩み出てきました。

 その表情は目を見開いて、憤怒の表情を浮かべている……オーガ、いえ彼女の故郷に伝わるオニのようですね。

「「ひ、ひぃ!!」」

 彼女の気迫に呑まれたのか、一歩一歩進んで来る度にチンピラ達は這うようにしながら蹴破った扉から逃げて行きます。

 そんな彼らには同行者が居たようで、這うように出て行った外の方から男達の声が聞こえました。

『おいおい、どうしたんだ?』

『上手くいったんだろうな?』

『しし、知るかよ! それよりも、ばば、化け物! 化け物だ!!』

『『はあ? 何言ってるんだ??』』

 入口辺りで待っていた仲間達に必死に逃げるように叫ぶ声が聞こえますが、外に出たなら良いでしょう。

 わたくしはカエデを見て、指示を出します。

「カエデ、思う存分やってください。ただし、殺さない(・・・・)範囲で」

「かしこまりました、お嬢様」

 ぺこり、と頭を下げてカエデは外へとスタスタと歩いていきます。

 さて、わたくし達もちょっと見届ける事にしましょうか。

「レヴィア、貴女はシスさんと孤児達に危害が加えられないように此処で待っていてくださいね」

「うん、わかったよあるじー♥」

 笑顔で答えるレヴィアを見てから、わたくしはカエデの出て行った入口へと優雅に歩いていきます。

 そして、外を見ると……チンピラ達は恐れ戦いていました。


 ●


『化け物、化け物が来る!!』

 借用書を持たせて孤児院に突入させた部下である二人のチンピラが恐怖に顔を歪めながら外へと這い出てきてから、すぐに黒髪のメイドが外へと出てきた。

 突然現れたメイドに彼らは驚きはした。けれども、たかが女ひとりのみと侮りながら、にやつきながら女性を見る。

「おいおい、何が化け物だよ? ただのメイドだろ? 俺達が束になってかかれば問題ねーって」

「バカ! そうじゃない、見た目で判断するなよ!!」

 笑いながらチンピラのひとりがそう言うと同調するように他のチンピラ達も頷き始める。

 けれども這い出てきたチンピラはそんな彼らへと忠告をするけれども、聞こうとはしなかった。

「はいはい、わかってますよ~。って事で、そこのメイド。とっとと捕まって俺達に奉仕しろよ~♥」

「ひぃひぃ鳴かせてやるからよぉ!」

「胸は小さいけど、楽しませてくれるだろ?」

「…………汚らしい」

 品の無い言葉をメイドに向けるチンピラ達へと、彼女――カエデはポツリと呟いた。

 しかし、その凛とした呟きは周囲に響き渡るほどに聞こえた。

 それを挑発と受け取ったのか、チンピラ達は性的な視線に苛立ちが混ざり始めた。

「おい、何なめた口を聞いてるんだよ?」

「痛いのがお好みらしいなぁ!!」

「やっちまおうぜ~~!」

 殴ったり、蹴ったりしたらきっとメイドの澄ました顔は涙でぐしゃぐしゃになるだろう。そう思いながら、彼らはカエデを押し倒すべく群がるように一斉に跳びかかった。

 彼らの中では多勢に無勢でカエデは押し倒されて、慰み物になる。そう思っていたのだろう。

 けれどその瞬間、ゴッ――ガッ! とチンピラ達の頬を一斉に硬い何かによって叩き付けられた。

『『ごぶぁああああっ!?』』

 突然の衝撃に彼らは一斉に吹き飛び、地面を転げたり、近所の家の壁に当たったり、仲間にぶつかったりしている。

 それを見ること無く、カエデはチンッ――と刀を鞘へと収めた。

 ……そう、チンピラ達が一斉にカエデへと跳びかかった瞬間、彼女は腰に差した刀を抜くと逆刃に柄を握ると――素早く相手の頬を殴り付けたのだ。

 硬い鉄の棒で力一杯に殴られたものと同じ痛みと衝撃が彼らの頬を襲い、彼らの顎は揃って砕けた。

「は……え? あ……? え、な、なにが……?」

「し、知るかよ!」

 跳びかからなかったチンピラがポカンとした表情で呟き、その呟きを聞いた仲間は怒鳴るように呟いたチンピラを見た。

 けれども同時にこの状況は異常だと感じているのか、急いで仲間に声を掛ける。

「おい! お前等! 見てるだけじゃなくて、手を貸せよ!! 聞こえてるんだろ!?」

「いち、にぃ、さん……良くて五人、ですか。殺気が駄々洩れですよ? まあ、ひとりは薄くしていますけど」

「っ!?」

(こ、こいつ、なんで路地裏とかに忍ばせた仲間に気づいてるんだよ! け、けど、俺達が忍ばせたのは四人(・・)だけだ!)

 呟いたカエデの言葉にチンピラは戸惑った。けれど、目の前の化け物は脅威ではあるけれどもなんとか対処出来る。

 そう考えたのか、手を上げた。

 ――直後、彼女へと向けて路地裏から一斉に矢が撃ち出された!

 ヒュンッ、と風を切るように放たれた4つの矢はカエデを狙うべく飛んでいく。

「ですから、殺気が駄々洩れだと言ってるではありませんか……お返しします」

 言いながら、カエデは放たれた矢を掴むと同時に元々の方向へと投げ返していった。

「ぐっ!?」「うっ!」「ぐぁっ!?」「うぎゃ!!」

 投げ返された方向から呻き声が聞こえるとしばらくして、腕や肩、脚を押さえた男達が姿を現した。どうやらカエデが投げ返した矢が命中してしまったようだった。

 彼らの表情はみな戸惑いと同時に信じられないと言った表情を浮かべているのが多数で、それを見ながら孤児院の入口でパナセアは満足そうに頷いている。

 そんな中――、彼女に向けて隠れていた五人目から矢は放たれた。

 ただの貴族、抵抗する術もないであろうその女を見ながら、教会で裏の仕事を行っている男は任務の完遂を確信しながら笑みを浮かべる。

(あんたが何をしたのかはしらねぇ。けど、聖女様が邪魔だと言ってるんだよ。だから……死ねよ)

 鏃の先端に塗られた毒によってもがき苦しみながら死ぬ。そう思っていた男だったが、その考えは崩れ去ってしまった。

 放たれ、パナセアの心臓へと刺さるはずだった矢は、バシッと彼女が孤児院から出るときに持っていたであろう扇子によって叩き落とされた。

「は?」

 唖然、自分の必殺必中の一撃に女はもがき苦しみながら死ぬと思っていた男は目の前の光景に間抜けな声を上げた。

 暗殺者としての痛恨のミスであるが、彼は気づいていない。いや、気づく余裕が無い。

(う、嘘だろッ!? 気づいてた? 気づいてたっていうのかよ!?)

「ふふっ、面白い人がいますね。ねぇ、五人目の狙撃者さん?」

「――っ!!?」

 面白い物を見つけた。とでもいうようにパナセアがニコリと笑みを浮かべた瞬間、男は全身の毛を総毛立たせた。

 そして、気づくと男は逃げる為に走り出していた。

(な――なんだ。何だあれはッ!? 人間なのかっ!? 逃げないと、逃げないと……殺されるっ!!)

 全身を震わせながら男は必死に走った。だがそんな彼の背後へと声が響く。

「何処に行こうというのです?」

「っ!? メ、メイド……?!」

 男が振り返った瞬間、そこに居たのは囮として用意していたチンピラ達を瞬く間に打ちのめしたメイド(カエデ)だった。

 瞬間、男の直感が働き、左右の腰に下げた短剣を抜いた。直後、キィンと金属がぶつかり合う音が響いた。

 両腕が痺れる感触、そして視界の先に真っ二つに折れた短剣を見ながら男はカエデと対面する。

「良かったですね。殺されなくて。そして良かったですよ。殺さなくて」

 真っ二つに折れた……いや、斬った短剣を見ながらカエデは男へと言う。

 そんな彼女に男は感じてしまった。自身の明確な死を。

「本当は、私は殺したいんですよ? お嬢様に向けて毒をつけた矢を放ったあなたを」

「っ! っ!!」

 凍り付くかのような殺気に、男は喋れなくなり喉を詰まらせる。

 喉元に死神が大鎌を構えてるのではないかと思われる幻覚が見えるほどの殺気。

 そんな固まる男を見ながら、カエデは向き出しの刀を再び逆手に持つと……。

「ですがお嬢様は、あなたを連れて来るように言われました。ですので――」

 ――おつれいたします。

 カエデの言葉が男の耳に届いた直後、男の頭が殴り付けられ……彼は意識を手放した。

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