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第七話 悪役令嬢、少年を諭す。

 わたくしのその言葉に言われた言葉を理解していないのかポカンとしたまま少年はその場で立ち尽くします。

 そんな少年を無視しながら、わたくしは口の周りを肉の脂でベッタリとさせたレヴィアの口を拭きます。

「んん~、ありがとあるじ~♪」

「ふふっ、別に良いんですよ。美味しかったかしら?」

「うん。おいしかったー!」

 わたくしの言葉に返事をしながらレヴィアは笑顔を向けて、擦り寄ってきます。

 本当、可愛らしいですね。

 そう思っているとハッと正気に戻った少年はわたくしを悔しそうに睨み付けて来ました。

「な、何でだよ! それくらい良いだろ!?」

「そうですね。お金の有り余ってる上に、下々を見下したいっていう貴族ならば簡単に食べさせたかも知れません」

「だったら――「ですが」」

 少年の言葉にわたくしは被せ、言葉を続けられないようにしてから喋ります。

「ですが、わたくしは何か出来るというのに何もせずに口を開け、餌を待つと言う行為が嫌いなのですよ。貴方達は何かしたのですか?」

「し、してるだろ!? こうやって――「こうやって、ただ立って、恵みを貰おうとするだけではないですか」……っ」

 少年……いえ、少年達にとってはこれで食べ物を貰えるのが当たり前となっているのですね。

 そう思いながら彼らを見ていると、視線は速く食べ物を寄越せといってるようにしか見えません。

 彼らの態度にはぁ……と呆れたように溜息を吐きながら、もう一度彼らへと言います。

「わたくしは貴族である前に一人の商人でもあります。ですから、ちゃんと働いた者には報酬を差し出すという事を当たり前の行為だと思っています。言ってる意味、分かりますか?」

 訊ねるように彼らへと言うと、彼らは視線を向け合います。

 そんな彼らの反応はまちまちでした。

 具体的にいうと……訊ねられた言葉をちゃんと考える者、食べ物が貰えないから別の人からおこぼれを貰えないかと考えている者、貴族なのに何でくれないのかと恨みがましい視線を送る者といった感じです。

 今のところ、わたくしが尋ねた言葉を考える少年少女達は有望ですね。

 ちなみにわたくしに施しを貰おうとした少年はもっとも悪い恨みがましい視線を送るだけです。ダメダメですね。

 そう思っていると、かなり苛立ちながら少年はわたくしを睨みつけながら怒鳴るように訊ねます。

「だったら、何かしてやるから肉を寄越せよ!!」

「お断りです。わたくし達は今は困った事はありません。それにわたくしに好意的な感情を向けていない貴方に荷物持ちを任せたら大事な荷物が壊れるかも知れません」

「~~~~っっ!!」

 当たり前のことを言ったわたくしを少年はまるで親の仇を見るかのように睨み付けます。

 ……正直、もう無視しましょうか。

 そう思っているわたくしでしたが、尋ねられた言葉を考えていた者の中から一人おずおずと出てきました。

「あ、あの……い、良いですか……?」

「セージョ! なに勝手に前に出て来るんだ!!」

「ひっ!」

 セージョと呼ばれた少女は少年に怒鳴られると、怯えて縮こまりました。

 どうやら自分で前に出るような性格ではないようですね。

 そう思いながら、わたくしは少女を見ます。

 見たところ、歳は8か9ぐらいですか? 服装は周りの子供達と同じようにボロボロの服。

 髪は灰色で、ある程度で切り揃えられていますけどだいぶ汚れていますね。

 顔は……髪で隠れて良く見えませんが、大分美人に見えます。

 体付きは成長の余地ありといったところでしょうか?

 そんな風に考えながら、少年を諭してから縮こまった少女に声を掛けますか。

「貴方、別に誰が話しても良いじゃないですか。何か問題でもあるのかしら?」

「べ、別に無いけど……」

「だったら話しかけても良いじゃない。それで、貴女は何を言いたかったの?」

「あ、あの……」

 黙った少年を無視すると、わたくしは縮こまる少女へと近付き……比較的優しく訊ねます。

 少女は恐る恐る顔を上げ、わたくしを見て、どもりながら口を開きますが……上手く喋れないようですね。

「ゆっくりで良いんですよ。何を言いたかったのかをわたくしに聞かせてください」

「は……はい、あ、の……あたし、たちが……何かを手伝えば、食べ物を……もらえるのですか?」

「貰えますね。ですが、誰に(・・)手伝いをさせてくれと言うのです?」

 わたくしの問い掛けに少年は何を言ってるんだと馬鹿を見るような視線を向けてきたのを感じます。

 ですが、わたくしは少女を見ていると……恐る恐る彼女は、屋台を指差しました。

「や、たいの……人に、手伝う……事がないか……です」

「素晴らしい」

「え?」

 少女の言葉を聞いた瞬間にぽつりと出た言葉、何か呟いたのを聞いたからか彼女はこちらを見ます。

 ですが、良い答えを聞けましたね。

 そう思っていると本人をそっちのけで話を進めていたからか、少し苛立つように肉串屋台の店主はわたくしへと声をかけて来ました。

「おいおい、何を勝手に話を進めてるんだ。オレはこいつらを雇うつもりなんてないぞ?」

「そうでしょうね。けれど何もお金を渡せと言ってるのではありません。それに考えてみてください店主、大きな荷物を運ぶ事を彼らの中の力がある者達に運ばせた場合、店主は空いた時間で仕込みを速めに行なう事が出来るのですよ?」

「重い荷物をか……。オレは大丈夫だけど、魚焼きの爺さんはここ最近腰を痛めてるんだよな」

「そうでしょう? 力がある者は荷物を運ぶというのも良いでしょうし、信頼するようになっていったら調理の手伝いを行わせるというのも良いと思われますよ?」

 周囲の屋台を見渡しますが、どうみても一人では捌ききれない屋台もあるように思えます。他にも年老いている店主が開いている屋台も見えますね。

 それを見ながら、わたくしは店主へと告げてゆきます。

「初めの頃は商品の売り物にならない物を渡すようにしていけば良いともいます。

 ですが、普通に雇う時と同じように相手の働き次第で差し出す物が上下するようにすると良いでしょう。そうする事で頑張ろうと思う者は頑張ろうとするでしょうし、頑張らない者はそれだけの人間だったという事ですが……どうでしょう?」

「…………一応魚焼きの爺さんに言ってみるか」

 少し悩んでいた店主ですが、わたくしを見てから呟き……屋台を離れ、焼き魚を売っている屋台へと歩いて行きました。

 それを見てからわたくしは少年少女へと振り返ります。……いえ、どちらかというとセージョと呼ばれた少女を見ます。

「さて、うまく行けば屋台の手伝いを行って報酬を得るという方法が出来るようになると思いますよ? ですが、ちゃんと彼らは出来ると思っていますか?」

「あ……の、そ、の……わか、りませ……ん」

 わたくしに尋ねられたセージョさんはビクリと体を震わせつつ、不安そうに視線を逸らすように地面を見ます。

 そんな彼女の後ろでは先ほどまでわたくしに突っかかっていた少年が、忌々しそうに舌打ちを行い……わたくしを睨み付けていました。

「くそっ、別に手伝いとかしなくても良いだろ? 貴族様や冒険者にお願いすればもらえるんだからよぉ……!」

「少年、貴方ろくな大人になりませんわよ? それに貴族や冒険者が来なかった時はどうするのですか? 屋台から物を盗む? それを行い続けてると貴方は殺されるかも知れませんよ?」

「はあ?! な、何で殺されないといけないんだよ!!」

 わたくしの淡々とした言葉に戸惑った表情を浮かべながら少年が近付いてきます。

 そんな少年を止めるべく、わたくしとの間にカエデが立ち塞がりました。

「小僧、お嬢様に害を与えようとするならば遠くない未来よりも、今この瞬間に死を与えてやろうか?」

「っ!? ひ、ひぃっ!」

 チャキリ、と刀を抜こうとするカエデの殺気に恐怖を覚えたのか少年は情けない声をあげて固まります。

 その後ろでは他の子供達が驚いた表情でこちらを見ているのが見えました。

「カエデ、落ち着きなさい。けど、貴方のその口を開けていれば食べ物を貰えると言う考えは放棄した方が良いですよ。自分で働かないと食べる物は手に入らないのですから。そしてそれが一番現れるのが働く事です」

「だ、だから働いて……」

「何度も言いますが、貴方の行っているそれは働いてなどいません。それどころかその行動は他の孤児達の品格を下げる行為であり、続けていると自らが卑しい存在だと言っているものですよ」

 わたくしがそう言うと何も言えないのか、少年は黙ってしまいました。

 それと同時に肉串屋台の店主が戻ってきました。

「待たせたな。一応魚焼きの爺さんに話をしてみたら、連れて来るだけ連れてきてくれだそうだ」

「分かりました。貴方達の中で力に自信がある者は手を挙げなさい」

 その言葉に若干迷いながらも、数名ほど手を挙げてきました。

 それを見てから、店主に焼き魚の屋台の場所を聞き、歩き出しました。

 ……関わった手前、途中で放り出すのも後味が悪いですし……もう少しだけ付き合ってあげましょうか。


 ●


「おお、あんたが肉串んとこが話してた貴族のお嬢さんか」

「初めまして御老人、わたくしの事は……とりあえず、セアとでも呼んでくださいな」

 焼き魚の屋台まで行くと、そこは積み上げた炭火が赤々と燃えて発せられる熱によって囲まれた魚が焼かれており、香ばしい匂いが漂って来ました。

 その匂いにお腹が刺激されたのか、隣に立つレヴィアのお腹がグウと鳴るのが聞こえました。ですが、食べたばかりなのですから買いませんよ?

「これはこれはご丁寧にありがとうございます。では、わしの事はウオ爺さんとでもよんでくだされ」

「分かりました。ウオお爺さん」

 わたくしの返事を嬉しそうに聞くウオお爺さんを見つつ、屋台を見ますが……細めの体格で炭を運ぶのは大分厳しそうですね。

 しかも見た目以上に年齢がいってると思われますから、色々と大変でしょう。

「見たところ、炭を移動させるのに手間がかかりそうですね。それ以外は特に問題はなさそうに見えますが」

「そうじゃのう。炭は入れられている箱が重い為、何度も往復しないといけないからのう。それに持ってきた分を使い終わったら商売は終了しなくてはならん」

「そうでしょうね。ウオお爺さん、彼らの中で手伝えそうな人は居ますか?」

 わたくしの言葉に、ウオお爺さんは「ふむ」と呟きながら後ろについてきた少年少女達を見ます。

 視線を向けられた彼らはビクリと反応しながら、怯えているのが見えます。

 セージョさんは……怯えすぎて、後ろに隠れていますね。

「ふむ、それじゃあお前さんとお前さんとお前さん、ちょっと炭を持ってくる手伝いをして貰おうかのう」

「「「わ、わかった……」」」

 ウオお爺さんに選ばれた三人の少年はビクビクしながら前へと出て、立ち上がったお爺さんの後について歩いていきました。

 そして数分ほどするとウオお爺さんは戻ってきて、同行させた三人の少年達は両手に炭の束を持っていますね。

「うむ、ご苦労さん。炭はそこに置いておいておくれ。……とと、これらは少し焦げてしまったのう。お前さん達、炭を運んだ礼じゃ」

「「「あ、ありがとう……。ほんとに貰えた……」」」

 少年達に礼を言いながら、ウオお爺さんは炭火の中で飴色に焼き目を見せ始めた魚を3本取ると運んだ少年達へと差し出します。

 受け取った少年達は戸惑いながらも礼を言い、貰えた事に驚きを見せていました。

 そして恐る恐る夢じゃないかと言わんばかりに焼き魚を食べ始めると、一心不乱でむしゃぶりつき始めます。

 そんな少年達を見てから、わたくしはウオお爺さんを見ます。……あれは普通に商品になりましたよね? という視線を込めて。

 それに対し、お爺さんはにんまりと笑みを浮かべていますから……手伝って貰える。という考えを持たせる為に行ったのでしょう。

 ですがそのお陰で子供達の何割かは意欲が上がったようです。

「な、なあ、貴族様。僕達でも出来る手伝いとかないのか?」

「おっ、おれも!」

「わたしも!」

「アタシも!!」

 そんな彼らの意欲を見ながら、わたくしではなく屋台の人と話すべきだと思うのですが……と思ってしまいます。

 まあ、真面目に働くと言う意思を持つ人達の手助けを行うというのは変な事じゃないですから……もう少しだけ屋台の人達と孤児達との関係を築く手伝いでもしましょうか。

 そう考えながら、わたくしは屋台の相談をウオお爺さんにする事にしました。


 だって、ウオお爺さんがこの屋台を牛耳っている元締めですからね。

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